月明かりだけが入り込む、薄暗い室内。冷蔵庫の低い唸りが、静かに闇を震わせる。
アンは、キャビネットに背を預け、足を伸ばして座った。
短く切りそろえられた黒髪は、その長身と相まって、中性的だ。
アンは、月明かりが作る波紋をただ見つめていた。
青白い頬には絶え間なく涙が流れ続ける。
「…どうして……」
その声は掠れ、震えていた。
重力を伴った沈黙が部屋を満たしていく。
風が優しくレースのカーテンを揺らした。
―ジェンを初めて見たのも、この部屋だった。
記憶がアンをあの日へと誘う。
アンは、ゆっくりと部屋を見渡した。
ちょうど、あのソファのところだった。
あの日は、叔母様の事業の成功をお祝いするパーティーで、私は給仕のお手伝いをしていた。
いらっしゃった伯父様ととりとめのない話をしていた。
元気にしてるかい?
ーーそんな他愛もない会話。
久々に会う面々との再会が楽しくて、自然に笑顔がこぼれていたっけ。
一瞬の反射が、鋭い光となって目を射抜いた。私は視線を向けた。今、私が座っている方向に。
目を、向けてしまった。
そして、私はお庭を見た。
お庭で、太陽にキラキラ輝くあのブロンドを
ーー見つけてしまった。
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