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なっちゃん
849
泡沫
23
まさか主がマナーもワルツも完璧だったなんて、最初のうちは信じられないでいたが、ベリアンのマナー指導や地下の執事たちとワルツを踊る主を見ていれば、嫌でも実感が持ててしまうくらいだ。
いまでも覚えている。依頼の詳細を聞いた日の翌日、ベリアンの、
「完璧、です…。まさかここまでとは、さすがは主様ですね。食事についても、その他の言動も言うこと無しです。自信をもってもらって大丈夫ですよ。」
という声や、ミヤジの、
「主様、素晴らしいワルツだよ。主様の腕前ならどんな人が相手でも、リードされるどころか主様がしてしまいそうな勢いだね。」
という声に俺も心底嬉しい気持ちであふれていた。
このような期間を経て、ついに依頼当日の朝がやって来た。今日の主の担当執事は俺なため、主を起こしに部屋までやって来ていた。
コンコン、ガチャ。「失礼します。主様、起きていらっしゃいますか?」
いつものお決まりの台詞だ。だが、起こしに来たと言っても主はいつもすでに起きていることが多い。そして今日もやはり主は起きていた。
『おはよう、ハウレス。今日も良い朝だね。昨日はよく眠れた?』
すでに軽く身支度を整えられた様で、朝日に照らされた主の艶やかな髪がキラキラと輝いていた。
「おはようございます、主様。俺はよく眠れましたよ。主様はいかがですか?」
『うん、よく眠れたよ。ありがとう。でも、今日はたしか舞踏会の日だったよね?すでに少し緊張しちゃって、いつもよりほんの少し早く起きちゃった。』
そういう主は恥ずかしそうに人差し指で少し頬を掻いた。
「始めての舞踏会ですからね、緊張しても無理はないですよ。仮に緊張していらっしゃらなかったら、完璧すぎて逆に怖いくらいです。それに、何かあっても俺たちがいますから。安心してくださいね。」
俺がそういうと主は少し緊張がほぐれたらしく、ふぅと息を吐きありがとうと言った。
それから何時間かたち、舞踏会の始まる時間が近付いてきていた。フルーレから主の着替えが終わったことを聞き、主の部屋へ向かった。フルーレの作った今回のドレスは、華やかな赤い生地に黒の刺繍がほどこされており、肌の白い主にとてもよく似合っていた。その上ゴールドのアクセサリーも派手すぎず、とても優雅な雰囲気を際立たせていた。
「!!主様、よくお似合いです。いつもの主様も十分すぎるほどに素敵ですが、今日はいつにもましてお美しいです。今日の舞踏会、主様に変な虫がつかないか心配ですね。」
そう言うと、主は大袈裟だよと笑い、
『それに万が一そんなことがあっても大丈夫、ハウレスたちが助けてくれるって分かってるから。』
と真剣な眼差しで言った。
「勿論です、主様。」
その後、主を馬車に乗せて行き、会場の前まで来ていた。
『ハウレス。大丈夫かな…』
主はとても不安そうにしている。
「主様のその美しさに、きっと貴族たちも気がつくはずです。ご安心ください、主様。誰もあなたのことを悪く“言わせたりしません”から。」
元気ずけるつもりで言ったのだが、主は首を横にふった。うまくいかなかっただろうか…
『私のことじゃないよ。ハウレスたちのこと、悪くいう人がいたら嫌だなと思って。』
あぁ、あなたはどこまで俺たちを思ってくださるんだろう。こんな風に主の優しさにただただ溺れていたいが、時間が迫ってきている。
「ありがとうございます、主様。ですが俺たちは主様にさえそう思っていただけたらそれだけで十分すぎることなんです。さぁ、そろそろ会場に入りましょうか。なにも心配いりませんよ。」
ガチャ。主が会場に足を踏み入れると、貴族たちの視線が一気にあつまる。
「あれが噂の悪魔執事の主?もっとみすぼらしいのかと思ったら案外見た目はひどくはないのね。」
「悪魔執事の主。どうせやつも悪魔のようなやつなんだろう?見た目に騙されちゃ痛い目に遭いそうだ。」
主に対するひどい言葉が飛び交う。
「主様、気にしては…!!」
驚いたことに、貴族たちの言葉を主は全く気にしていないようだった。
『ハウレス。今日の主催者はたしかフィンレイ様だったよね?ご挨拶に行こうか。』
動揺しない主に動揺しつつも、主について行く。
「はい、そうですね…。」
フィンレイ様のいるそばまで行き、主はフィンレイ様と目が合ったのを確認すると、育ちの良いご令嬢を思わせるような綺麗なカーテシーをした。
『ごきげんようフィンレイ様。お招きいただきありがとうございます。今夜は星の綺麗な良い夜ですね。』
「やぁ、悪魔執事の主。よく来てくれた。君は依頼と思わず存分に楽しんでくれ。」
『はい、それでは失礼いたします。』
主のカーテシーを見た貴族たち、および執事たちは再びざわめき始めたが、またもや主は気にしていないようだった。
主をつれて会場の壁際で行き、他の執事たちと合流すると、
「主様のカーテシー、本当に素晴らしかったです。」
などの談笑が始まった。しかし、しばらくすると、執事たちは皆持ち場へかえって行き、主とハウレスの二人になった。(ムーはお留守番)主に飲み物は足りているかと聞いていると、そこそこ名のある貴族の男性が声をかけてきた。
「悪魔執事の主殿、よければ隣、良いかね?」
主が俺の方を見て、良いの?と言うように首をかしげた。この方(貴族)は割と悪魔執事に好印象を持っていることを知っていたため、多少警戒はしつつも、了承した。
しばらく主は楽しそうに話をしていたが、貴族が
「主殿、よければ私と一曲どうかな?」
という誘いがかかった。そしてまた主はハウレスを見たが、
「主様が信頼に値すると思った方なら俺は良いと思いますよ。もし断るのでしたらお力になりますが、いかがなさいますか?」
と、今度は主に判断をしてもらうことにした。断り続けるのもよくないからだ。
『えぇ、私でよろしければ。』
主はどうやら誘いに乗っかったらしい。
長くなってしまいすみません🙏書いていたら何だか楽しくなってしまったもので…ただ、このシーン個人的に結構好きなので次回も舞踏会の続きの話にさせてください。もう少し調子に乗らせてくださいね。
コメント
1件
りゅーさん、第3話読了! 舞踏会シーン、めちゃくちゃ良かった……!主様が貴族たちの冷ややかな言葉に全く動じず、むしろハウレスたち執事の心配をする優しさにグッときたよ。あと、カーテシーの所作やドレスの描写も細かくて、映像が浮かぶようだった。ハウレスが「悪く言わせたりしません」って言うところ、熱いね。続きの舞踏会、調子乗っていいから早く読みたい!書いてる楽しさが伝わってくるのも好きだわ。次回も楽しみにしてる🔥