テラーノベル
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楽屋でのタクヤは、珍しく〈甘えたい日〉を隠そうとしなかった。
リョウガの隣にぴったりと座り、肩に頭を預けてスマホをいじっている。メンバーたちは「はいはい、ごちそうさま」と茶化していたが、リョウガだけはその体温が、いつもよりほんの少し高いような気がして、密かに胸をざわつかせていた。
しかし、ライブが始まれば彼は【超特急のタクヤ】だ。
数曲目、激しいダンスナンバーの最中。タクヤは喉の奥に張り付くような息苦しさを感じた。
(……あれ)
照明の熱が、いつもより刺すように熱い。
全力で踊れば踊るほど、酸素が薄く、視界の端が白く飛ぶ。
(気のせいだ……まだいける)
楽屋であんなに甘えてしまった。これ以上「しんどい」なんて言えるわけがない。何より、目の前でペンライトを振る8号車に、弱い顔なんて絶対に見せたくなかった。
中盤のMC企画。ダンスがない分、メンバーもファンもリラックスする時間。
だが、タクヤの心拍数は一向に下がらない。むしろ、立っているだけで足元がふわふわと浮いているようだった。
タクヤは無意識に、一番近くにいたユーキの後ろへ回り込んだ。
そして、そのまま縋り付くように背中に抱きついた。
「え!? タクヤ!?」
ユーキの驚いた声がマイクに乗り、会場には地鳴りのような悲鳴が響き渡る。アロハとハルが「うわぁぁぁ!」と盛り上がり、カメラが二人の姿を大きく抜いた。
「やばー(笑)」
リョウガは口元を緩め、リーダーとして茶化して見せた。
だが、その横でカイが、面白そうに目を細めてリョウガの脇腹を小突く。
「うわ、嫉妬してるー。わかりやすー(笑)」
「……してねぇよ」
強張った笑顔で返すリョウガ。タカシも
「目の前でイチャイチャせんといて〜」と笑っているが、リョウガの目が笑っていないことには気づいていた。
一方、抱きつかれたユーキは、背中から伝わる「異変」にすぐに気づいた。
タクヤの呼吸が、明らかに荒い。
二人は自然にマイクを口元から外した。
「……大丈夫か?」
ユーキが小さく囁くと、タクヤは彼の首元に顔を埋めたまま、必死に酸素を取り込もうとしていた。
「……もう少しだけ……」
「無理すんなよ。……呼吸、ゆっくりな」
ユーキは一瞬だけ、タクヤの手をポンポンと叩いた。
(これ、後でリョウガに怒られるやつだけど……今はそんなこと言ってらんねぇな)
客席からは、ただの仲良しコンビの絡みにしか見えない。
だがリョウガだけは、遠くからその光景を見て、ざわつく胸を抑えられなかった。
(……なんで俺じゃないんだよ)
さっきまで俺に甘えていたくせに。
嫉妬心が渦巻く。けれど、必死にユーキの背中にしがみつくタクヤの肩が、不自然に上下しているのを見て、嫉妬よりも鋭い「予感」がリョウガの思考を支配した。
ライブ終了。
「ありがとうございましたーー!!」
最高の笑顔でステージを降り、暗転した瞬間にタクヤの糸が切れた。
階段を降りたところで膝が崩れそうになり、壁に寄りかかる。
「……っ、」
「タクヤ」
すぐそばにいたカイが、迷わずその腕を支えた。
「ユーキから聞いた。……座れ」
スタッフ用の椅子にタクヤを座らせる。震える手で水を受け取ったタクヤの元へ、遅れてリョウガが駆け寄ってきた。
嫉妬の残像は消え、そこにあるのは一人の男を案じる必死な顔だった。
「タクヤ……! 大丈夫か?」
「……大丈夫」
「嘘つけ」
即答だった。リョウガはタクヤの前にしゃがみ込み、視線を合わせる。
「ユーキに甘えたのって、そういうことか?」
タクヤは目を逸らした。
「……違う」
「違わないだろ。なんで、俺に言わなかった」
カイが空気を読んでそっとその場を離れる。
舞台裏の喧騒の中、そこだけが二人きりの空間になった。
「……さっき、楽屋で散々甘えたから」
「は?」
「これ以上、甘えらんねぇだろ……迷惑、かけるし……」
「……意味わかんないんだけど」
リョウガは呆れたように息をついた。
「俺ら、付き合ってんだろ。8号車に見せられないのは分かる。でも、俺にまで隠す理由にはならない」
「……嫉妬してたくせに」
タクヤが少しだけ唇を尖らせると、リョウガは「当たり前だろ」と吐き捨てた。
「してたよ。めちゃくちゃした。……でも、そんなことより、お前が一人で苦しんでる方が、もっと嫌だ」
リョウガの大きな手が、タクヤの熱い頬を包み込む。
その温もりに触れた瞬間、タクヤの瞳に薄く涙が溜まった。
「……苦しかった……っ」
「……よく頑張ったな」
リョウガは椅子に座ったままのタクヤを、愛おしそうに抱き寄せた。
タクヤはリョウガの胸に顔を押し付け、その服をギュッと掴む。
「俺のタクヤ、最高にかっこよかったよ」
「……」
「でも……次は、最初から俺に来い。誰にも抱きつくな。……嫉妬で死にそうになるから」
「……ばーか」
タクヤの返事は弱々しかったが、掴んだ手には力がこもっていた。
リョウガの心拍音を耳にしながら、タクヤはようやく深い息を吐き、静かに目を閉じた。
𝐹𝑖𝑛.
コメント
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続きが楽しみ(((o(*゚▽゚*)o)))
あの!兄姉貴!自分アカウントを移り変えましてわたくしまっきーv2になりました!
彩っさん
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