テラーノベル
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温泉の心地よい熱を体に残したまま、二人は浴衣姿で部屋の座卓を囲んでいた。
外では鹿威しが時折「コトッ」と静かな音を立て、部屋の中には茶菓子と少しのアルコールの香りがふんわりと漂っている。
「……あー、マジでリラックスしすぎたわ。溶ける……」
リョウガが座椅子に深く沈み込み、長い手足を伸ばす。
「ふふ、リョウガの顔、茹でダコみたいになってる笑」
そう笑うタクヤも、風呂上がりの肌はほんのり桜色で、いつもより少しだけ目が潤んでいるように見えた。
二人は「たまには息抜きしよう」とメンバーとしてここに来たはずだった。けれど、流れる空気はどこか、ただの友人や仲間という枠をはみ出しそうに甘く、熱い。
「……よし、そろそろ寝るか。朝イチでビュッフェ行くんだろ?」
リョウガが腰を上げようと、ひょいと立ち上がった。その時だった。
「おわっ!?」
脱ぎ捨ててあった自分の靴下が足に引っかかったのか、それとも座卓の脚に当たったのか。リョウガは派手にバランスを崩した。
「リョウガ、危な……っ!」
タクヤが手を伸ばしたのと、リョウガが倒れ込むのは同時だった。
ドサッ、という鈍い音が畳の上に響く。
リョウガの両手がタクヤの顔の横を突き、いわゆる『床ドン』のような形で、彼はタクヤを押し倒してしまっていた。
「……あ、ご、ごめん! 悪りぃ、すぐ退く……!」
焦って顔を上げようとしたリョウガ。だが、その腕をタクヤの手がギュッと掴んで引き止めた。
「……待って」
タクヤの潤んだ瞳が、至近距離でリョウガを捉える。
「タクヤ……?」
リョウガが名前を呼ぶより先に、タクヤが背中を浮かせるようにして、リョウガの唇に自分の唇を重ねた。
「……っ!?」
ほんの一瞬の、柔らかな感触。
離れたタクヤは、顔を真っ赤にして息を弾ませていた。
「……お前、今……」
「……したかったから、した。文句ある…/?」
タクヤの強がりな口調とは裏腹に、その瞳には溢れんばかりの恋心が透けて見えた。
リョウガの中で、ずっと隠してきた想いが決壊する。
「文句なんて……あるわけねーだろ」
リョウガは退くどころか、空いた手でタクヤの頬を優しく包み込んだ。
「タクヤ……俺、ずっと前から、お前のことが好きだ。メンバーとしてじゃなくて、一人の男として。……お前以外、考えられないくらい」
タクヤの大きな瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。
「……遅い。俺だって、ずっと……リョウガのこと、特別だと思ってたのに……」
お互いの「好き」が、静かな部屋の中で重なり合う。
リョウガはもう一度、今度は確かめるようにゆっくりと唇を寄せた。
一度目は触れるだけの甘いキス。
二度目は、互いの体温を分け合うような、深くて熱い口付け。
「……ん……リョウガ……」
甘く名前を呼ばれるたびに、リョウガはタクヤを抱きしめる腕に力を込めた。
ハプニングから始まったこの夜は、もう【メンバー同士の旅行】ではなくなっていた。
その後、並べられた布団に潜り込んだ二人は、どちらからともなく手を繋いだ。
「……明日から、どうする?」
タクヤが少し照れくさそうに聞く。リョウガはその手を口元に寄せ、指先に優しくキスをした。
「どうするもこうするも。……ずっと隣にいろよ。俺が、守ってやるから」
「……バカ。……おやすみ、リョウガ」
繋いだ手の温もりを感じながら、二人は溶けそうなほど甘い幸福感の中で、深い眠りへと落ちていった。
𝐹𝑖𝑛.
彩っさん
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