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——そして実里が解放されたのは翌朝のことだった。
武蔵が何をしたのか、そもそも武蔵のおかげで解放されたのか。
未だに真実を俺たちは知らない。
家に帰ってから実里の声を一度も聞いていない。ほとんど部屋に閉じこもっている。
リビングでの両親の会話を俺はこっそりと聞いていた。実里に関することが何か聞けるかもしれないと思ったからだ。
「あの子……何も口にしないのよ」
「それより潤はしっかり勉強しているのか?」
「実里が心配じゃないの?」
「そのうち食べるだろう。空腹だって限界がくる」
父さんの関心はずっと実里に向いていたのに、今は全くない。そういう人間だ。九條で価値のある人間になれなければ意味はないという考え方なんだ。
両親は実里のこと救ってはくれない。守ってもくれない。
あの日だって伯父さんに逆らえなくて見て見ぬ振りをしていたんだから。
耳を塞いでしまいたい両親の喧嘩はしばらく続いた。
廊下ですれ違う実里は無表情で以前の生気を感じられない。まるで人形のようだった。
〝潤にい〟
明るい声で呼んでくれる実里はもういない。俺の後ろについてくる実里はもういない。
心が裂けそうなほど苦しくて、鼻の奥がツンと痛くなってくる。
どうして俺はいつだって実里を邪魔者扱いして、酷いことばかり言ってしまったんだろう。今更後悔したって遅いのに。
でも、このまま実里が何も口にしなかったら……。
なにかできることを必死に考えて図書館で大量に料理の本を借りてきた。
両手で抱えて持つのが精一杯なくらい重たい。どれも物語になっている料理入門の児童書。
フライパンなんて使ったことない。包丁は家庭科で少し使ったくらいだ。
分量とかもよくわからないし、小さじとか大さじってどうやったらわかるんだ?
「くそ……っ!」
慣れないことだらけでイライラする。
でも、こんなことで音を上げてちゃダメだ。気持ちを込めてがんばって作るんだ。
実里が食べてくれますように。
実里の笑顔がまた見れますように。