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【3年前】
洋平は会議室の大型モニターの、電光掲示板チャートの前に立ち尽くしていた・・・・
額には薄い汗が浮かび、喉はカラカラだ、彼の周りには、開発チームのメンバーの荒元と松田が集まり、同じく息を潜めて画面を見つめていた
キンコンカンコーン♪『あと10秒で株式取引開始です』
会議室にアナウンスが響き渡った、洋平は無意識のうちに拳を握りしめた、株式の取引と同時に仮想通貨界も動きが活発になる
過去の失敗・・・そしてそこから這い上がってきた日々が、走馬灯のように洋平の脳裏をよぎる
午前9時00分!洋平は大声で叫んだ
「ラビットコイン!取引開始だ!」
一瞬の静寂の後、仮想通貨チャートグラフが動き始めた
最初の取引が成立し、ラビットコインのチャートは、緑の線が右上に向かって伸びていく、洋平の心臓が高鳴りドラムのように打ち鳴らしている
「上がっている・・・上がっているぞ!」
「そうだ!もっと行け!」
荒元と松田が叫んだ、チャートは着実に上昇を続けていた、洋平は息を呑み、目を見開いたままチャートから動けずにいた
歓びの涙が目にじわりと浮かぶ
取引量が増えるにつれ、チャートの動きは激しくなっていった。まるで生きているかのように上下の揺れに部屋中が息を呑む、洋平の表情も、希望と不安の間で揺れ動く
徐々に、チャートは安定した上昇傾向を示し始めた、洋平の肩から力が抜け、深いため息が漏れる。
「やったぞ!上昇に乗った!」
「やった・・・やったんだ!」
三人は輪になって何度も飛び上がり、その目には、喜びの涙が光っていた
新たな挑戦の始まりだった、洋平の心には、未来への希望と決意が満ちていた
「荒元君!松田君!君達のおかげでなんとか、僕達が開発した新しい仮想通貨、『ラビットコイン』が軌道に乗った!」
「これは革命ですよ!僕達のラビットコインはただの仮想通貨ではない!」
荒元も興奮して言った
グスッ・・・
「これでみんな救われるっ」
松田が声を震わせてそう言った
洋平達は長年次世代仮想通貨「ラビットコイン」を開発して来たさまざまな光景を思い浮かべた
いつだって心はあの原点にすぐに帰る、松田の肩をポンポンと叩いて洋平が言った
「そうだね・・・今の現代は、一日中仕事を朝から晩までこなし、働いても、働いても暮らしは楽にならない、働かないと食べていけないので、仕事を辞めることはできない・・・それは税収で僕達の稼ぎが半分以上国に獲られるからなんだ」
「半分以上・・・・」
荒元がボソッと呟く
「うん・・・正確には年収の47%、これは市民税や介護保険を抜いてだよ?全部合わせると、たとえば年収600万稼ぐと、実質300万以下で生活させられている、という事になる」
「いつの間にそんな多く獲られる様になったんですか?10年ほど前までは20%ぐらいだったと記憶してますけど?」
と・・・荒元、洋平が続ける
「多分、誰も何も言わないから、ここ数年で政府があり得ないぐらい上げたんだよ、海外では今のこの日本の状況を(slaveJapan※奴隷の日本人)と呼ばれてるんだけど・・・信じられない事に多くの日本人がこの事に関心がないんだ」
これでやっと座れるとばかりに洋平は会議椅子にドサッと腰かけた、ハァ・・・と憂鬱と安堵のため息が漏れる
「所得税に、社会保険、もらえるか分からない年金の支払いに追われ・・・生活できないから借金をすれば高すぎる利息・・・市民税に消費税・・・とにかく生活と比べて支払うものが多すぎるんだよ、貯金など夢のまた夢・・・みんな食べて行くのがやっとの生活だ・・・」
松田もグスッと鼻をすすり、窓の外のタワーマンションを見て悲しそうに言う
「ここ何年かで知らないうちにこうなってる。このままでは定年など無く、自分のやりたいことはそっちのけで、生活のために死ぬまで働かないといけない・・」
色々と思いが心の中に去来しているようだ。彼は去年感染症で自分の父親を60代で亡くした
父親は定年を過ぎても年金では生活出来ないので、死ぬ間際まで仕事をしていた
「一方、働かずして濡れ手に粟で大儲けする人々が、存在するのも事実、貧富の差は広がる一方だよな・・・・」
「大学出の初任給手取り21万だって・・・」
「また駅前にタワーマンション建てるんだって、億ションだよ?一体誰が買うんだ?」
「日本人じゃねーだろ」
『ラビットコイン』開発部の二人がそれぞれ思いを口にする
そして洋平が二人の言葉を繋ぐ
「現在の経済システムは、最初から国家や庶民に借金を負わせ、それを一部の人々が取り立てて苦労せずに儲けるように設計されているんだ」
「2025年、(独身税)法案可決だって、これ子供がいない夫婦にも適用されるんだよ!」
「Max(SNSサイト)見てくださいよ!新しくできた「子供家庭庁」の議員!年収二千万だって!怒りコメント6000付いてますよ」
「ウクライナまた寄付だって・・・・」
荒元がタブレットを手に呆れて言う、指は忙しく画面をスクロールしている
「俺達の税金がこんなにドブに捨てられるように、無駄に使われているのに、どうして日本人はみんな怒らないんだろう?」
「諦めてるんだよ・・・「おかしい」と声をあげたって何も変わらないって、無駄だって・・・目の前の生活で精一杯で若者は政治に興味を示さないんだよ」
ツカツカと洋平がホワイトボードの前に立ち、ペンを持って大きなピラミッド型の三角形を描いた
「現在の日本の経済システムは、僕達大衆からの吸い上げ式になっている」
コンコン・・と一番下の層をペンで叩いてさらに続ける
「ピラミッドの底辺には、賃金労働者と個人事業主がいて、その上に所属する会社や組織があるだろ?そのさらに上には投資家や資産家、大会社のオーナーなどがいて、その上にさらに国家グローバル金融資本家達が控えている」
洋平がピラミッドの頂点をぐるぐる黒く塗りつぶした
松田がそれを見てフンッと口を鳴らして言う
「このグローバル資本家達は、さまざまな法案や細工をして、この日本で何もしなくても自動の吸い上げ式で、自分達に富が入って来る仕掛けを作っている。それが「税収」と「利息」だ」
松田もため息をつく
「本当に・・・それそれは巧妙に一般市民にはわかりにくいシステムにされていますよね。だから普通の人は「稼ぎの半分取られているけど財政難だから仕方がない」と諦めさせられるんだ・・・」
「日本ほど金がある国はないのに・・・何年もこれを僕達は崩そうとしているけど本当に難しいですよね」
そう言った松田を元気づけるように、洋平は荒元と松田を見て言った
「そこで僕達が開発した(仮想通貨ラビット・コイン)の誕生だ!」
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