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借金の残り50万円をくれるって言った人だし、本名を明かさないワケにはいかないよね――。
「……私、遠藤綾香って言います」
「遠藤綾香、さん? 本当に?」
「ええ。疑うなら社員証でも見ます?」
本名を言った瞬間に、ケンジさんはすっごく難しい顔をした。それを目の当たりにしたため、彼に疑われていると考えた私は社員証を提示して、遠藤綾香であることを直接確認してもらった。
「エリカさんっていう名前もステキだなぁと思っていたら、本名が綾香さんだなんて……。これってもしかして、天が与えてくれたご褒美じゃないだかろうか!」
ケンジさんは私の存在をしっかり無視して、ブツブツと独り言を言いながら両手に拳を作り、頬をどんどん紅潮させていった。よく分からないけど、私の名前ひとつで興奮しているみたい。
「あのぅ、ケンジさん?」
「行きましょう、綾香さん。今すぐに!!」
「はぃ?」
「ああ、名前を呼んだら返事が返ってくる……。そんなありふれたことでも、感動で胸がいっぱいだ」
(この人、大丈夫だろうか――)
「あはは……。好きなコの名前だったりするのかな?」
「いやぁそのぉ、実はそうなんです。近づきたくてもそれを阻む、高くて分厚い壁がありまして。見つめながら思い続けて、早1年になるんですよ」