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武器庫を進むと、私は “漆黒の着物” と “漆黒の刀” に目を留めた。
「……ん?」
私は足を止めた。
武器庫の奥、札だらけのガラスケース。
その中に漆黒の着物と、漆黒の刀が置かれていた。
「触るな」「死ぬ」「戻れ」みたいな字が踊ってる。
「※自己責任」もある。なにそれ。
「……あ、これ絶対カッコいいやつ」
その周囲だけ、空気がやけにピリピリしている。
見えない風が唸り、周囲の埃すら弾き飛ばされている。
(なんか……この辺だけ空間が違う気が……)
刀からは、ぼんやり青白いオーラが立ち上っている。
着物の刺繍部分が、ほんの一瞬だけ妖しく光った。
私は一歩近づく。
ビリッ。
空気が震えた。
肌がピリピリする。
(ヤバい。これは絶対ヤバい)
でも──
「まあ、カッコいいし。黒は正義」
私は一切気にせず、着物を手に取った。
ずしり。
予想以上の重量感。
でも、手に馴染む。
(……いいな、これ)
私は着物を広げた。
漆黒の生地に、赤い刺繍。
鬼の角が描かれている。
「……センス良すぎでは?」
私は着物を羽織った。
すると──
ふわり。
着物が体に吸い付くように馴染んだ。
まるで、最初から私のために作られていたみたいに。
「……え? なにこれ」
私は帯を締める。
鏡に映る自分の姿──
漆黒の着物が、妙にしっくりくる。
赤い刺繍が、私の赤い瞳と呼応するように輝いた。
「……最悪。似合いすぎ」
私はニヤリと笑った。
次に、刀を手に取る。
スッ。
鞘から抜くと、刃が青白く光った。
切れ味が凄そう。
刀身に、小さな文字が刻まれている。
「無道・斬」
(読めない)
「むどう…ざん? 無職みたいで縁起悪いな。
やっぱり拳が最高」
私は刀を鞘に戻し、”修学旅行の日光で買ったお土産の木刀”感覚で腰に刺した。
(……やっぱり、いいなコレ。うん、決まり)
「よし! これにします。エスト様、覚えてください」
私はニヤリと笑った。
「見た目で選べ。効果は、あとからついてくる」
「またムダ様!?」
エストが振り向く。
「だって正しいし」
「その宗教怖いよ!?」
私は胸を張った。
「ふふ……鬼と言えば日本。日本と言えば刀と着物」
「ビジュアルは正義。見た目大事。中身は知らん」
「かっこいー!」
「小娘が! 美しいと言いなさいッ!」
「怒りの沸点が分からないよ……」
エストが小首を傾げる。
*
そして、エストも武器庫の奥をきょろきょろと見回し始めた。
「えっと……私も装備、選んでいい?」
「当然です。我が配下たる者、身だしなみは大事です」
「……うん!……うん? うん?」
一瞬首をかしげたが、すぐに忘れたように物色開始。
エストは武器庫の中をふわふわと歩き回る。
「これは……重そう」
大きな剣を持ち上げようとして、ぐらり。
「うわっ!」
エストが倒れそうになる。
「危ない!」
私が支える。
「ありがとう、お姉ちゃん……」
「エスト様、もっと軽いのにしよう」
「うん……」
エストは次の装備に向かう。
「これは……ちょっと怖い」
真っ黒な鎧を見て、ぶるぶる震える。
「これは……地味」
茶色のローブを手に取って、首を横に振る。
次々と装備を手に取っては、首を横に振る。
そして──
「あ!」
エストの目が輝いた。
ショーケースの奥。
星の刺繍の入ったドレスと、先端が光る細身の杖。
「これ……可愛い……!」
エストが駆け寄る。
ショーケースの前で、エストは背伸びをした。
「うーん……届かない……」
「エスト様、これ?」
私がドレスを取ってあげる。
「ありがとう!」
エストが嬉しそうにドレスを受け取る。
ドレスを広げると、ふわりと広がる。
星の刺繍が、月明かりに反射してキラキラと輝いた。
「わぁ……!」
エストが目を輝かせる。
「エスト様、着てみたら?」
「……着ていい?」
「当然です。我が配下は美しくあるべきです」
「わーい!……あれ?」
エストが首を傾げながらドレスを着る。
ふわり。
ドレスがエストの体に馴染む。
星の刺繍が、エストの周りでキラキラと輝いた。
「……似合ってる」
私は思わず呟いた。
「ほんと?」
「ほんとです。魔王らしい」
「えへへ……」
エストが照れくさそうに笑う。
次に、杖を手に取る。
すると──
杖の宝石が虹色に輝き、空間に淡い星屑が舞った。
「すごい……!」
エストがぐるぐる回る。
ドレスの裾がふわりと広がり、星屑が舞い散る。
そして天井から、”神秘的なオルゴールのBGM”が流れてきた気がした。
(なんか聞こえた?)
私は周囲をキョロキョロ。
エストはただドレスのふわふわ感に夢中でぐるぐる回っている。
「これ、ふわふわで可愛い~!」
杖の宝石がキラッと瞬き、周囲に小さな星の幻影が現れた。
(なんか、ちょっとヤバそうな雰囲気あるけど……)
「可愛いからヨシ!!」
(気のせい。気のせいってことにする)
私は手をパンと叩いた。
「うん、見た目が一番大事!」
エストはまだぐるぐる回っている。
「お! ムダ様イズム!」
「えへへ……ちゃんと魔王っぽい感じにしたかったんだ!」
「うん。魔王らしい。だいぶオシャレ」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
エストが満面の笑みで、くるりと回ってみせた。
ふわり。
ドレスの裾が広がり、星屑がキラキラと舞う。
(……ふふ。可愛いじゃん?)
私は思わず微笑んだ。
◇◇◇
──天の声ナレーション──
補足。
サクラとエストが選んだ装備──
いずれもかつて世界を震撼させた”伝説級”の代物である。
だが二人は、見た目だけで選んだ。
バカだからだ。
──歴代魔王の肖像画が涙を流していたのを二人は知らない。
◇◇◇
── ここからサクラ視点に戻ります ──
装備を選び終えた後。
私とエストは、武器庫の鏡の前に立った。
鏡に映るのは──
漆黒の着物を纏った鬼と、星のドレスを着た魔王。
「……なんか、様になってるね」
エストが呟いた。
「でしょ? ビジュアルは正義です」
私は胸を張った。
「お姉ちゃん、かっこいい」
「エスト様も可愛いよ」
「えへへ……」
エストが照れくさそうに笑う。
そして──
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「私たち……本当に世界征服できるかな?」
エストが不安そうな顔をする。
「……」
私は少し考えた。
「できるかじゃない。やる」
私はエストの頭をポンと叩いた。
「お姉ちゃん……」
エストの目が潤む。
「泣くな。魔王が泣いてどうする」
「だって……嬉しいんだもん……」
エストが私に抱きつく。
「……ったく」
私はエストの頭を撫でた。
「さて。行くよ、エスト様」
「うん!」
エストが笑顔で頷く。
「まずは私の配下を集めるためにも、ダンジョンの外に出ないとね?」
「……ぇ?……え?
私の配下……だよね?」
「……」
私は無視した。
返事を待つエスト。
「聞こえてないのかな?……えっと!うん、そうだね!
レベル上げも兼ねて外に行ってみようか!」
「愚かな人間どもの街を襲撃しましょう。高らかに笑いながら」
エストが固まった。
「お、お姉ちゃん……?」
「……という選択肢もありますが」
私は真顔で続けた。
「まずは偵察からですね。邪魔した奴は潰す」
「お姉ちゃん!?」
「冗談」
「冗談じゃない目してたよ……」
*
「そうだ!転移魔法とか使えないの?」
「使えないの……」
「……」
私は沈黙した。
「お、お姉ちゃん……?」
「なに?」
「今、何か言いたそうな顔してたよね……?」
「気のせい」
私はそっぽを向いた。
「絶対何か思ってたよね!?」
「思ってない」
「嘘だ! 絶対『使えない魔王』とか思ってたでしょ!?」
「……」
図星。
「やっぱり!!」
エストが涙目になる。
「冗談。エスト様は有能な魔王」
「ほんと……?」
「ホント。転移魔法が使えなくてポンコツなだけ」
「フォローになってない!?」
「まずはこのダンジョンのモンスターを完全制圧し──」
エストがビクッとする。
「死兵にして汚い人間どもの街を襲わせましょう」
エストが杖を落とした。
「お、お姉ちゃん……?」
「……って、魔王軍は、そんなイメージじゃない?」
私は真顔で続けた。
「でも私たちは、まずレベル上げから」
「そ、そうだよね……」
「私は私のやり方で世界征服する」
私は拳を握った。
「……それって、どんなやり方?」
「筋肉以外にある?」
「やっぱりそっち!?」
*
──ここはダンジョン最深部である。
こうして私たちはダンジョンを逆に攻略することになった。
「あ、あのッ! お姉ちゃん!?
集めるのは……お姉ちゃんの配下じゃなくて、私の配下だよね……?」
エストがまっすぐに見つめてくる。
「……」
私は無視した。
エストが目で訴えてくる。
「なんで黙ってるのお姉ちゃん……?」
エストが抱きついてきた。
「お姉ちゃん!!……グスッ」
エストが泣きそうになる。
「……分かった分かった」
私は深く息をついた。
「私の配下のエスト様の配下を集めよう」
「ほんと!?」
エストの顔がパッと明るくなる。
「では──」
私は拳を突き上げた。
「ダンジョンから出て、世界征服すっぞっラァアアア!!!」
「わーい!! いくぞー!! おー!!」
エストがピョンピョン跳ねる。
その小さな手が、私の拳に重なった。
──こうして、私たちの世界征服が始まった。
鬼と魔王の、無謀で、バカで、でも──
きっと、誰よりも楽しい冒険が。
「あれ?私の配下のエストの配下って言った!?」
「……」
私は無視した。
「お姉ちゃん!?」
(……ふふ。姉妹って、めんどい。悪くない)
(つづく)
◇◇◇
──グレート・ムダ様語録:今週の心の支え──
『見た目で選べ。効果はあとからついてくる。』
解説:
見た目で選ぶ。それは覚悟の現れ。
派手に飾るのは恐れを隠すためだ。
だがムダ様は恐れない。
なぜならリングの外のムダ様はいつもジャージ姿だからだ。
──ムダ様は独身だ。今日もファスナーが神聖に光る。
◇◇◇
☆おまけ☆
【最新ステータス】
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【名前】:サクラ(鬼・勇者)
【レベル】:140
【称号】 :ぺったん鬼女(呪い:全ステータス−20%)
勇者(成長補正:極/EXスキル解放)
【性格】 :横暴・自己中・勝利至上主義
【特技】:プロレス技(ドラゴン・スクリューほか)
【スキル一覧】(※主に物理で殴りたい系)
・怪力 Lv140
・暴食 Lv10(モンスターのスキルを一定確率で習得)
・冬眠(LvMAX/進化待ち)
【エクストラスキル】(※思いがけず得た副産物)
・神眼(相手のステータスを解析)
・光魔法解放
【魔法】(※珍しく魔法もある)
・ライトアロー(光)
・フラッシュ(光)
【理論】(※謎の学術体系)
・量子筋肉学
・筋肉相対性理論(E=mm²)
・多言語筋肉学
【装備】
《無道・斬》
・攻撃力+500%
・クリティカル時、炎属性追加ダメージ(200%)
・攻撃時、対象の防御力を20%無視
※なお使用者コメント:「拳最高。抜くのめんどい」
《夜叉ノ装》
・全耐性+50%
・被ダメージの30%を自動回復
・魔力増幅+100%
※なお使用者コメント:「黒くてカッコイイから選んだ」
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【名前】:エスト
【種族】:魔族(魔王家)
【称号】:魔王
【レベル】:35
【ステータス】
・HP :100(微増)
・MP :∞(ほぼ無限/制御不能)
・筋力 :7(子供並み)
・魔力制御 :5(バリア張れる程度)
・知力 :10(バカ)
・精神 :2(ガラス・豆腐)
【スキル】
《天与の魔力》〔ユニーク〕
本人のレベルに見合わない膨大な魔力
※持ってるだけで周囲が困惑
《奈落穿つ咎の瞳》
勇者特攻。敵意のある勇者に対し自動で攻撃力数百倍
勇者以外には発動しない
発動時:空中浮遊+赤目+重低音BGM付き
《純真》(性格スキル)
すぐ信じる
《単純》(性格スキル)
褒めたら泣く
《バカ》(性格スキル)
バカ
【弱点】
・アゴ(物理的にも精神的にも)
【装備】
《深淵ノ杖》
・闇魔法の効果+300%
・詠唱速度3倍
・近くの味方(主にサクラ)に魔力供給(無制限)
※なお使用者コメント:「軽くて可愛い」
《夜ノ星衣》
・全属性耐性+70%
・被ダメージを確率で無効(50%)
・魔力暴走を防ぐ自動制御
※なお使用者コメント:「大人っぽいから選んだ」
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