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地上を目指すことにした私とエストは、ダンジョンを進んでいた。
「モンスター居ないね?狩り尽くしたかな?」
周辺でレベル上げをしていたせいか、なかなかモンスターが出てこない。
「楽で良いけどね。でも、レベルも上げたいし!」
エストが杖を振り回す。
「何よりもお姉ちゃんの新しい武器を試したいよね」
私は腰の「無道・斬」を軽く撫でた。
確かに、刀を一度は使っておきたい。
しばらく進むと、私に冬眠スキルを教えてくれた、クマ型のモンスターが姿を現した。
「エスト様は下がってて。奇襲をかけてくる」
「やっぱり奇襲!ワクワク」
私はゆっくり歩き出し、突然飛びかかる!
「喰らえ! 私のフェイバリットを!
ザ・グレートムダ様……愛しています!
ドラゴン・スクリュー!!!!!」
「おい! 刀ぁーッ!?」
エストが叫ぶ。
同時に腰の刀も一緒に悲鳴を上げた気がした。
ぐるん!!!
ドガッ!!!
ガウッ!!!
クマ型モンスターを地面に叩きつけ、無事撃破。
「ふふ……戦う私は美しい……」
「まさかの刀を使わなかった…」
「だって、刀使ったことないし」
「なんで選んだの!?」
「カッコいいからやろがいッ!」
「方言!?」
私は肩をすくめた。
(なんか力が前よりヤバい気もするけど、まあいいか。気にしたって始まらんし、こっちは筋肉でぶん殴るだけ!)
◇◇◇
ダンジョンをしばらく進んで行くと、巨大な広間にたどり着いた。
「こ、この広間……なんて広さなの……
東京ドーム2個分はあるわね……」
「東京ドームってなに!?」
「選ばれし18人の戦士が死闘を繰り広げる闘技場」
「な……お姉ちゃんはどんな世界に居たの!?」
そうこうしていると、広間の奥から強大な気配が迫ってくる……
そして、その先から低く響く声が聞こえた。
「……この魔力……まさか魔王か?」
ドシン……ドシン……。
気配の主は、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
私の額に脂汗が滲んだ。
「エスト様……これは……かなりヤバい……」
「うん……そうだね……」
「気付かれたから奇襲が出来ない……ッ!」
「確かにそうだけど!?」
そして、気配の主の姿を確認した瞬間、
私は咄嗟にエストを盾にした。
妹を盾にする外道ムーブ発動。
(あ……やっちゃった……)
「……ぅ…ぁ……ぁ……」
気配の主を見て戦慄するエスト。
──気配の主。現れたのは、巨大なドラゴンだった。
全身を覆う黒い鱗。
鋭い爪と牙。
そして、圧倒的な威圧感。
エストがキョロキョロしてから震える声で呟く。
「……あれ?
私、今ドラゴンとお姉ちゃんの間にいる?
え、これ盾じゃん」
「気のせい」
私はエストの後ろから囁いた。
(……あとで甘いものあげよう)
ドラゴンはエストを凝視し、喋り出した。
「そこの小娘、杖がピカピカ光って眩しいんだが?」
「あ!『かわいい機能』消すの忘れてた!」
慌てるエスト。
「バカ野郎! 設定画面どこだ!?」
杖を取り上げる私。
ドラゴンが続ける。
「ふむ……魔王ではないか……魔王の子供か?
鬼の女は子供を盾にしてるのか……?引く……」
ドラゴンが引きながら続ける。
「……最近の乱れた魔力の流れ、貴様らが原因か?
いや……貴様らよりもっと強大な……」
「な! なんのことだか!」
私は慌てて声を上げた。
「ぅ……ぅ……」
今度はちゃんと震えているエストを私の背後に隠す。
「わ、私とエスト様は地上に行くんだ!
その為にも……ここを通してもらう!」
言いながら、《神眼》でドラゴンのステータスを確認する。
=====
・名前:リンドヴルム
・種族:ドラゴン族
・レベル:300
=====
レベルしか見えない。
詳細が“霧”みたいに弾かれてる。
(レベル300……!
今の私のレベルは141……これは普通に考えたら無理……)
「……ふむ。通るのは構わんが………我に勝てたらなーーーーーッ!!!!!」
叫ぶと同時にドラゴンが戦闘体制をとった!
その鋭い爪と牙がダンジョンの明かりで不気味に輝いている。
凄まじい殺気が私たちを襲い、息をするのも困難なほどだった。
「くっ!」
(無理無理無理……これ絶対やばい)
(殺気で出口ごと塞がれてる……逃げ場がない)
息が詰まる。音が遠のく。
全ての感覚が鈍る中、唯一鮮明に感じるのは──恐怖だけ。
──その時、ムダ様の声が脳内で鳴った。
『恐怖は力だ。逃げることは恥じゃない。問題は、逃げる方向だ。俺は選んだ──歯医者という地獄を』
(……歯医者?)
(ウィーン……キュイーーン……水……吸われる……)
(やめろ、やめろ、思い出すな)
(……待て)
(ドラゴンは歯、削ってこない)
(……勝った)
「……逃げられないなら、やるしかない!
死ぬ覚悟はないけど、殴る覚悟はある!!」
……怖い。でも、それでいい。
ムダ様も歯医者で戦ってる!
「お姉ちゃんの世界一タフな性格が発動してる!?」
「エスト様!? 歯医者──じゃない、戦える?」
声に力を込めて尋ねる。心臓が早鐘を打つ。
「歯医者!?……ぅ、うん……やるしかないよね!」
エストの声は震えているが、決意が感じられた。
その小さな背中には、魔王の威厳が宿っている。
(へぇ……勇気あるじゃん。いいね!
それでこそ私のご主人様ってとこかな!)
「私に考えがあるから!いつものように魔法で気を逸らして!」
「わかった!」
「いくよ! 3、2、1……」
私は姿勢を低くし、戦闘体制をとる。
心臓が激しく鼓動を打っている。
── 戦闘開始 ──
時間が遅くなったように感じる中、全神経を敵に集中させた。
「闇の矢よ! 敵を貫け! ……ダークアロー!」
エストの魔法で空気が震えた。漆黒の矢が闇を切り裂く。
「よし!」
タタッ!!
魔法と同時に私は地を蹴った。
左へ一歩、次に右──ジグザグに細かく動いて接近する。
(脚か? 頭か? どこを狙う?)
ドラゴンは右前脚を振り上げ、地面を砕くように叩きつけた。
ドォン!!
「くっ……!」
爆風のような衝撃波。
私は片膝をつきながらも前進を止めなかった。
「ふん」
ザッ!!!
──エストの魔法の矢をドラゴンの前脚が掻き消す。
「ふむ? 流石は魔王の血か。なかなかの威力だな」
その瞬間を逃さず、私は全力でドラゴンの胸部に向かって跳躍した。
「てやぁっ!」
刀を両手に握り締め、渾身の力で斬りつける!
ザシュッ……!
キィィン!
金属のような音が鳴り響く。
刀がドラゴンの鱗を削った。
「よし! いける!」
しかし──
「ふん。その程度か」
ドラゴンの尻尾が横薙ぎに私を襲う!
「しまっ──」
ドゴォッ!!!
──私の体が宙を舞い、広間の壁に叩きつけられる。
「うがぁっ!」
石壁にひび割れが走った。
「お、お姉ちゃんが刀を使った…!?」
エストが二度見。
一瞬の静寂。
「驚くとこそこかよ!」
エストの驚きの声が響く中、私は血を吐きながら立ち上がる。
全身が軋み、視界がぼやける。
「……いたた……ちょっと斬れた?って思ったらこれだよ!!」
(武器はしっくりこないね!)
「はぁ……やめやめ。刀なんて性に合わないわ。私にはやっぱ拳だわ」
ガランガラン……
刀を地面に投げ捨てた。
刃が石を割り、鈍い音を響かせる。
「ごめんね無道・斬。君は悪くない。私が拳派なだけ」
(つづく)
◇◇◇
──グレート・ムダ様語録:今週の心の支え──
『恐怖は力だ。逃げることは恥じゃない。問題は、逃げる方向だ。俺は選んだ──歯医者という地獄を』
解説:
恐怖を否定せず、利用する。
ムダ様の哲学は”逃げる勇気”にある。
だが逃げるにもベクトルが要る。
戦場か、歯科医院か──
目的地を誤らなければ、それは前進になる。
歯が痛いのは地獄なのである。
そして──恐怖をエネルギーに変えた男は、
あの日、歯を抜かれて勝利した。
──今も、彼の奥歯は沈黙している。