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「は、はい……、もちろんです頑張ります。坪井も笹尾も、悪かった、ごめん」
高柳と、そして坪井と笹尾に、交互に頭を下げる川口。
謝るくらいなら、もっと冷静でいられないものか。
そして、人を見て態度を変えるいやらしい真似をやめてくれないものだろうか。
「いや、俺に謝られても困りますけど」
「そ、そうだな、ごめん。立花さんにも」
坪井は、これでもかと冷たい声を返した。しかし、もちろん本心だ。
「あと、このまま笹尾さんに楽をさせるのも癪だと思ってな」
「え!? 私!? ですか……」
高柳の口から直接、自分の名前が出て驚いたのだろう。坪井の背後で笹尾が大きく声を張り上げた。
「何か?」
「い、いえ……あの……」
見れば、もぞもぞと指を動かして、高柳を見つめている。怖がっているのだと、何度も唇を舐める仕草で見て取れた。いい気味だなと、これに関しては嬉しい。
「2人とも、何も起こっていない状態で、クビにも異動にもできるわけありませんし。川口の面倒を見ながら反省していて下さい」
「は、反省……。はい……」
素直に返事をしながら、目を合わせていられないのか、落ち着かなく視線を彷徨わせたが、最後には下を向いた。
「そう、反省しましょう。サンプルが見つからないまま明日が失敗していたなら、君はどう責任を取るつもりだったんですか?」
高柳がメガネの奥で目を細めて笹尾に聞いた。口元は、よく見れば口角だけを僅かだが上げている。一応、笑顔のつもりなのだろう。
……楽しくは、なさそうだが。
「困らせることができてラッキーだとでも、思えているはずでしたか? でしたら少し残念な頭ですね」
「え? あ、あたま……」
「そうです。どのみち、こうして必ずバレてしまうのですから。今日のうちに終わってよかったと、バカそうな見かけどおりバカらしく騒ぎ倒してくれた川口に、君は感謝でもしておきなさい」
やれやれと肩をすくめた後「女性は本当に面倒ですね、この忙しい時期に」と吐き捨てた。
「似たようなことが……ごく最近ありましたが、まあ”その女性”も君も、できれば触れたくないものができてくれたようですし。とりあえずは、いいでしょう」
「触れたくないものですか……」
「そうです。例えばそこにいる胡散臭い男とかですね」
高柳が坪井に視線を向けながら言ったので、心から「どっちが!」と思ったことは、早く場がおさまればいいの一心で、黙っておいた。
「た、確かに、胡散臭い……というか、怖いです。はい」と、コクコク何度も頷いた笹尾にも「誰のせいで!」とツッコミたくもなったが、これも黙っておいた。