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第42話 〚手を伸ばした、その先〛
放課後の廊下は、
昼間の騒がしさが嘘みたいに静かだった。
窓から入る風が、
少しだけ涼しい。
澪と海翔は、
並んで歩いている。
話題は、
他愛のないこと。
「夏休み、何する?」
「……まだ、決めてない」
「そっか」
海翔は笑う。
「一緒だったら、何でも楽しそうだけど」
その言葉に、
澪の心臓が強く鳴った。
(……一緒)
足元を見ながら歩いていると、
段差に気づくのが遅れた。
「……っ」
小さくよろける。
その瞬間――
海翔の手が、
澪の手首に触れた。
「大丈夫?」
優しい力。
掴むでもなく、
引き寄せるでもない。
ただ、
支えるためだけの触れ方。
でも――
それだけで。
澪の体が、
一瞬、固まる。
(……手)
触れているところから、
熱が伝わってくる。
「……うん」
そう答えたのに、
声が少し震えた。
海翔も、
そのことに気づいたのか、
すぐに手を離す。
「……ごめん」
「……ううん」
沈黙。
でも、
気まずくない。
むしろ――
空気が、
少し甘い。
歩き出してしばらく。
澪は、
自分の手を見つめた。
(……もう一回)
そんなこと、
思ってしまう。
その時。
海翔が、
ほんの少しだけ歩幅を狭めた。
二人の手が、
また近づく。
触れそうで、
触れない。
――妄想(予知)。
未来の映像は、
流れなかった。
でも、
胸の奥に
確かな感情が浮かぶ。
(……触れたい)
勇気を出して、
澪はほんの少しだけ、
指を伸ばした。
小指が、
海翔の手に当たる。
一瞬。
二人とも、
止まる。
海翔が、
澪を見る。
驚いたように、
でも、優しく。
何も言わずに、
そのまま――
そっと、指を絡めた。
強くない。
離れない程度。
初めての、
“繋ぐ”という行為。
澪の胸が、
いっぱいになる。
「……澪」
名前を呼ばれるだけで、
世界が静かになる。
夕焼けの中、
二人は手を繋いだまま歩く。
言葉はいらない。
この温度が、
答えだった。