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「専務、専務?」

「へ?」

「先ほどから何度もお呼びしているのですが……」


由紀子の顔がふっと頭をよぎり、ユリとの関係について思案していたせいで、美玲の声が耳に入っていなかった。


「すまない。で、何だ?」

「はい。少し早めですが、外出のご準備をお願いできますでしょうか。これから式場の視察になります」


邸宅を見学して、今後のコンセプトや改装の方向性を検討する。そのための資料を手に専務室を出ると、颯斗は待機している車があるエントランスへと向かっていった。


「うーん……思っていたのと違うのよね」

「ですが……ご希望どおりのお花でプランを作成させていただいております」

「でも……」


サロンの前を通りかかった時、そんな会話が耳に入った。プランナーは困惑の声を上げているものの、新婦の女性は納得がいかない様子。新郎は黙ったまま成り行きを見守っている。


「どうしたんだ?」


様子を察した専務が足を止め、プランナーに声をかけた。


「はい。お式が近づいておりますが、お花のイメージが違うと仰られて……」

「それはお客様のご要望が最優先だ」

「ですが……具体的にどこが違うのか、明確にわからなくて……」


新婦の中でも何となく違和感はあるが、決定的な糸口が見つからずにいるようだ。


「あのっ!」


専務とプランナーのやり取りをそばで聞いていた美玲が、思わず声を上げる。


「はい? 何でしょうか?」


冴えない見た目の美玲に声をかけられ、プランナーは訝しげな表情を浮かべる。


「少し見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい? あなたは……初めてお見かけしますが、プランナーではないですよね?」


いきなりの申し出に苛立ちをにじませた。


「そのとおりですが、花に関しては少し心得がありまして」

「そうなのか? 解決できていないなら、試しに彼女に見せてみろ」


驚いたように声を上げた専務が、美玲にプランを見せるようプランナーへ指示する。どこかで、彼女なら状況を打開できるのではと期待していた。


「はぁ……」


専務に言われては逆らえない。だが、素人に何がわかるというのかと言いたげな表情だ。


「わぁ! とても素敵ですね」

「本当ですか? ありがとうございます」


にこやかに褒める美玲に、新婦の表情が少し和らぐ。隣では、プランナーが鼻で笑うように馬鹿にした表情を見せていた。


「一つだけ提案してもよろしいでしょうか?」

「はい」

「ここの花の配置をこちらへ移して、この黄色い花を少し減らせば、全体のバランスがさらに良くなると思います」


新婦とプランナーは、美玲の言葉を頭の中でイメージしてみる。


「それっ! 私の思っていたイメージにぴったりかも……」

「……確かに」


現状でも華やかではあるが、ほんの少しの調整で印象が大きく変わる。華道の師範資格を持つ美玲だからこその視点だった。


「専務、そろそろお時間です」

「あ、ああ……」


時計を見た美玲が颯斗に声をかける。


「あのっ! 本当にありがとうございます」

「とんでもございません。どうぞお幸せに」


新婦からの感謝にも、さらりと返事をして立ち去る。その冷静な振る舞いと確かな才能に、颯斗はふと父の言葉を思い出す。才色兼備――確かに才覚は認めざるを得ないが……自分はまだまだ美玲を理解しきれていなかった。


エントランスには、剛田が扉を開けて待っている。


「お疲れさまです。お待たせいたしました」

「とんでもございません」


以前の秘書たちは当然のように乗車し、車の準備が少しでも遅れれば文句を言ったものだ。こんなふうに颯斗の秘書に丁寧な対応をされるのは、不思議なほど慣れていない。


颯斗が車に乗り込み、後部座席の扉を閉めようとしたその時――


「ちょっと待て」

「いかがなさいましたか?」


剛田が扉を閉める手を止め、颯斗の言葉を待つ。


「隣に乗れ」

「えっ?」


運転手が隣に乗る? では誰が運転するのか。剛田と美玲の頭の中に同じ疑問が浮かんだ。


「あの……私、大きな車なんて運転できませんよ?」

「……はぁ? 誰がお前に運転しろと言った? 打ち合わせするから隣に座れと言ったんだ」


ようやく言葉の意味を理解する。隣に座るのは剛田ではなく、自分――美玲だったのだ。言葉足らずにもほどがある。目的地までは一時間ほど。確かに打ち合わせには十分な時間がある。


「わかりました。失礼します」


本音を言えばあまり近寄りたくないが、仕事中に私情を挟むわけにはいかない。心の中で大きくため息をつきながら颯斗の隣に腰を下ろすと、剛田が外から扉を閉めた。


車内は広々としているが、隣に座るのは身内でもない男性。美玲は表情には出さないが、珍しく緊張していた。居心地の悪さを誤魔化すように、すぐさまパソコンを取り出して仕事を始める。


しばらくの間、車内に響くのはパソコンのタイプ音と資料をめくる音だけだった。


「なぁ」

「……えっ?」


不意に颯斗から声をかけられ、一瞬反応が遅れる。


「お前は何者なんだ?」

「……何者って……ただの秘書ですが」

「なわけないだろ!」


そう言われても、素性を明かすつもりはない。知られれば、きっとややこしいことになる。


その時――


――キキィッ


「うわっ、危ない!」

「きゃあっ」


突然の急ブレーキに体がシートベルトに食い込む。とっさに颯斗が美玲を抱き寄せ、次の衝撃に備えた。

地味な秘書は名家のお嬢様⁉~御曹司の子守は大変です~

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コメント

1

ユーザー

美玲ちゃんさすがだね〜🌼 にしてもほんとスーパーウーマンだよね。でも美人っていう自覚はなさそう🤭あのプランナーきっとイラついてるよ。嫌がらせされないといいんだけど… それより車大丈夫?まさかミルク瓶の眼鏡外れちゃう???

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