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あの時
先生に「好きなモンは?」って聞かれた時。
『私⋯先生 としか思い浮かばなかった』
「⋯はっ!?」
『え?』
「あーいや。何も」
ってきり、「ばかだなぁー」とか言ってバカにされると思ってたのに
『先生?』
「あ、ほら。夕陽おちちゃうぞ!」
『翔太くん』
「もう充分だから!」
先生が、自分の手のひらで私の口を押えてそっぽを向いてしまった。
『ねぇ先生、まだ終わってないよ?』
「うん…続けて?」
こっちは見てくれない。
先生の背中越しに話すのは嫌だったから先生が向いてた方向にグルってやったら
先生の目が、びっくりするくらい見開いた
ほら、先生って可愛い。
私もキュンってする
『ふふっ』
「…なんだよ」
『翔太くん、可愛いなぁーって』
『おまっ…調子のんなよ?』
まんまるになってた目はすぐ元に戻って、軽く頭を叩かれた。
でも、口角は上がりっぱなし。
私の好きな 意地悪な顔
「んで?続きは」
『あ、えっと⋯先生 しか思い浮かばなくて』
「うん」
『でも、国語 って言うのは、違くて』
ふはっ、って面白そうに先生は笑う
『どうしても、先生の印象に残りたかったから、「日本語」にしたんです 』
そう。
少しだけ、少しでいいから
先生に覚えててもらいたかった。
先生に気にして欲しかった。
「じゃあ成功だな」
『え?』
「印象に残ったよ。あの答え」
『⋯ホント?』
「初めてだもん、日本語って。だからこーやって今でも覚えてんの」
今度は、頭をクシャクシャに撫でられた。
『だからって、その答えを嘘にしたくなかったから』
「だなあ」
『だから、いっぱい本読みました。』
「本、楽しいだろ?」
『はい!先生のお陰ですきになれました』
「なら、よかった。」
先生のお陰で、私の知らない世界がわかった
知らなかった事を、たくさん知った
なんでも、先生のお陰だよ
空は、もう暗くて。
星まで見えてて
「さぁ、そろそろ帰るか」
『⋯』
何にも答えないでいたら
先生の口から、白い息が出て、私の身体を優しく抱きしめてくれた。
『⋯外じゃ、ダメじゃないの?』
「暗いし、大丈夫だろ。」
『ズル…』
うっせ、って軽く頬を抓られて
先生は、優しく微笑んで
そっと私の唇にキスをした。
コメント
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ふつーによすぎてるよーーー🤍