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「兄ちゃん…!」
「りく!」
病院につくと、平野の弟と思われる男の子と平野のおばあちゃんとおじいちゃんと思われる人たちが駆け寄ってきた。
平野「おばあちゃん!ママは!?」
祖母「今、手術が終わってね。でも、まだ意識が戻らなくて…」
平野「病室は!?」
りく「こっち!」
急いで病室に向かおうとして、もう一人男の人が、平野の家族から少し離れたところに立っているのに気が付いた。
男性が一歩足を前に出すと、平野はキッと男性を睨みつけた。
平野「家族じゃない人は、入らないでください…!」
そう言って、私の手をグイグイ引っ張りながら病室へ向かう。
そういえば、新幹線の中からずっと手をつないだままだった。
風「平野?あの人誰?」
平野「ママの彼氏」
風「え!いいの!?あんな態度して。それに、家族だけなら、私も病室に入るの遠慮しなきゃ…」
平野「お前はいいんだよ!お前は俺の大切な…クラスメイトなんだから!」
そのまま強引に手を引っ張られ、病室に入れられる。
ひえ~~。
クラスメイトって、お母さんの彼氏よりもはるかに他人なんですけどぉ~~(‘꒪д꒪’)!!
さっきから平野の横にくっついているこの子は誰なんだろう?とチラチラと家族からの疑問の視線を感じていただけに、居心地悪~!(><)
平野「あ、この人は舞川風さん。俺のクラスメイトで、心配してついてきてくれたんだ。一緒に病室入ってもいい?舞川、こっちが俺のおじいちゃんとおばあちゃん、弟のりく」
思い出したように平野がみんなに紹介してくれる。
おじいちゃんとおばあちゃんは微笑み頷き、りくくんは「あーなるほどね」と納得した表情で私の顔と繋いだ平野と私の手を交互に見比べている。
しばらくみんなでじっとベッドに寝ている平野ママのことを見ていたけど、途中でお医者さんが来て、「麻酔の影響でまだ目は覚めないけど、もう大丈夫だ」と言ってくれた。
でも、本当に一時は命の危険があったらしい。
まだ意識が戻るまでに時間がかかりそうなので、交代で食事を取りに行くことにした。
平野の家族はお昼も食べずに手術の無事を祈っていたそうだ。
まずは私と平野が二人で病室に残ることになった。
風「平野、さっきの男の人って…」
平野「あぁ、ママの彼氏」
風「えっ!?じゃあ平野のお父さんやん!あんな態度とってええの!?」
平野「お父さんじゃねーよ!結婚なんて認めてねーし!それにあいつ、俺に反対されたらあっけなく結婚のことは諦めてさ。人に反対されてあきらめるようじゃ本気で好きじゃなかったんだよ!うちのママ美人だから、昔からいろんな男が寄ってくるけど、あんなにあっさり引いた男は初めてだぜ」
平野が鼻息荒く怒る。
風「ええ人やん」
平野「は?なんで!?」
風「平野のママもあの男の人も、平野やりくくんの気持ちを一番に尊重してくれてるってことやろ?結婚って家族になるっていうことやから、家族に反対されてたら強引に話を進めることなんてできないやん」
平野「…」
風「美人なママに恋愛感情を向けるだけじゃなくて、子供達の気持ちを自分の気持ちよりも優先して考えてあげられるって、すごくいいパパって気がするけどなぁ?」
平野「…。でも!うちの親、俺が3歳の時に離婚してんだよ。だから、本当の父親も全然覚えてない。母親はずっとシングルマザーで俺らを育ててきてくれたんだ。でも不幸だなんて思ったことない。うちの家族は今の形が完成系で、新しい父親なんて必要ない。
なのに今さらなんで…。ママは俺のたちだけじゃ、足りなかったのかよ…」
風「平野…ママを取られちゃう気がして嫌なんやね?」
平野「えっ!?ひ、人をマザコンみたいに言うなっ!╭(°ㅂ°)╮」
風「ええやん、マザコン(笑)お母さん好きじゃない人なんて、逆に嫌やわ。
でもな平野、”大切な人って、増えていくもの”って思えん?大切な人ができたら、1番だった人が2番に落ちちゃうんやなくて、1番大切で大好きな人が増えていくんよ。
それって、すごく幸せなことやと思わん?」
まるで自分に言い聞かせるみたいに。
風「ママが平野やりく君のことを大切だと思っているのは、昔も今もこれからもずっと変わらなくて、だけどそれとはまた別の、パパっていうポジションの大切な人が入ってきてもいいと思う。
平野はママのことすっごく大切に思うてるやん?そんなママが、”一緒にいたい”って思ってる人と、引き裂いてもええの?
大切な人がずっとそばにいると思ったら大間違いなんよ?ある日突然いなくなっちゃうかもしれん…」
ん?
なんか今のこの状況でこのセリフって凄く縁起悪ない?まるで平野のママが、このまま死んじゃうような言い方に聞こえる。めっちゃ失言やん…(;゚Д゚)!
服「あ、違う違う!そういう意味やなくて…:(´ºωº`):」
今、「大切な人が突然いなくなるかもしれない」って言ったのは、岸くんのことを思い出して言っただけ…
っていうのも、なんとなくはばかられる。
ずっと私の手をぎゅっと握って離さない平野に、「今、別の人のことを考えていました」って言うのをなんとなく遠慮しちゃう…。
何を気を遣ってんだろ。
平野に気を遣ってるんじゃないのかもしれない。なんとなく、私自身がそのことを平野に知られたくないと思っているような…。
その時、平野ママの手がぴくりと動き、ゆっくりと目を開けた。
平野「ママっ!」
ママは平野の顔を見てうっすらと微笑み、次に私の方に目を向けてそのまま固まる。
やばいやばい、「はて、この子誰だっけ?」って絶対思ってる…。
「全然思い出せないわ。私、病気の後遺症で、頭がおかしくなっちゃったのかしら」って混乱してるよー!∑(O_O;)
こんな家族の大事なご対面の瞬間に、滅茶苦茶関係ない人が混ざっててごめんなさーい!(>ω<ノ)ノ
風「ちょっと私、りく君たち呼んでくるから!」
逃げ出すように病室を飛び出した。
それから平野たち家族はしばらくお母さんの病室にいて、私は1人休憩室のソファーに座って考え込んでいた。
「大切な人は増えていく。新しく大切な人ができても、前に好きだった人の順位が落ちるわけじゃない」
平野にそう言ったのは自分への言い訳のような気がしていた。
とっさに新幹線に乗り込んでしまったあの時、「平野を支えてあげたい!」その一心で勝手に体が動いた。
まるで子供のように私の手を握ってずっと離さなかった平野を、守ってあげたいと思った。
思えば、平野はいつも側にいた。
転校して早々、いわちにいじめられた時。
岸くんに告白してスルーされた時。
初めて岸くんの家庭の事情を知った時。
岸くんの熱愛発覚で岸家が修羅場になった時。
岸くんをホームで見送った時。
海ちゃんが血迷って、オス化した時。
最初はイケメン苦手って警戒してたけど、今では気付けば隣にいて、自分が自然体でいられる人。
私にとって平野は、いつの間にか凄く”大切な人”になっていたんじゃないだろうか?
だけど、”大切な人が増えていく”の理論でオーケーなのは、家族愛や人間愛。
普通の恋愛では、それダメでしょ。
恋愛は一番は一人じゃなきゃダメ。
平野が大切な人になったなら、岸くんはどうなっちゃったの?
私、岸くんのこと忘れ始めてる?
まさか…。
さっきだって、岸くんのこと思い出してたやん。
いつだって岸くんのこと思い出す。忘れたくないから。
…?
忘れないように、思い出そうとしている?
それってもう”思い出”に変わってるっていうことじゃない…?
何か凄く重要なことに気づいてしまった気がした。本当は自分でも気付いていたのかもしれない。
”岸くんを思い出す時の胸の痛み”が時間と共に徐々に薄れていってること。
岸くんがいなくなった当初は、何をしてても岸くんのことばかりを考えてしまって、その度に締め付けられるように胸が痛かった。
だけど、今は岸くんのことを思い出すと温かい気持ちになる。こんな風に安らかな気持ちで思い出せるのって、現在進行形の恋じゃない。
そうか。
恋愛の場合は、”新しい大切な人”ができたら、前の恋は”大切な思い出”に変わっていくんだ。
流れゆくときの中で、私の岸くんへの思いは形を変えて、いつのまにか恋は終わっていたんだ…。
それなのに、どうしてそのことに気付かないふりをしていたのか?
「岸くんを一生懸命好きなお前が好きだから」
平野のその言葉が引っかかっていたからだ。
1年も経たないうちに簡単に岸くんのことを忘れてしまった私を、平野はどう思うんやろう?
「簡単に岸くんのこと忘れて、俺の方を向いちゃうような舞川じゃ、なんか嫌だわ」
そうや、平野は私が岸くんを好きでいる間だけ、私のことを好きだと言ってくれる。
平野の方を向いた瞬間に、平野は私に幻滅するんや。
だから私は頑張って、岸くんを忘れないようにしようとしてた。
気づかないようにしてた。自分の中に芽生え始めていた気持ちに。
私、平野が好きだ…!
平野「舞川ー!こんなところにいたんだ!ママの容態落ち着いたし面会時間も終わりだから、とりあえず今日はみんな帰ろうかって」
平野の声に、すっかり入り込んでいた自分の世界からシャボン玉がパチンと割れるように引き戻される。
風「あれ…っ!」
ぞろぞろとこちらに歩いてきた平野家の一番後ろに、ちょこんとさっきの男性がいた。
風「パパと和解したんや!?」
平野「べ、別にまだパパじゃねーし!でも、”ママの彼氏”としては認めてやった。つーか、ママの彼氏は、俺らが認めなくてもママが選んだ時点で、もうママの彼氏だし。それでいいよな、りく!」
りく君も、こくんと頷いている。
とりあえずパパと別れ、もう時刻は9時を回っていた。
祖母「風ちゃん、もう遅いから泊まってく?」
平野「おぅ、泊まってけよ!うち部屋あるし」
風「えっ!?」
確かに、なりゆきで岸くんの実家に泊まったことはあるけど…。あの時はみんなもいたし。
今回は平野と2人っきり!?いや家族がいるから2人っきりじゃないけども…(´,,・ω・,,`)
風「でも、こんな部活ジャージのまま来ちゃって着替えもないし…」
平野「うーん、もしよかったら俺のパンツ貸すぞ?」
風「よくないわ!ゞ( ̄□ ̄;)」
りく「でも、明日学校は?」
Σ(゚ω゚ノ)ノ
風「そうやった、学校あるんやった…。帰らなきゃ」
平野はお母さんの容態がもう少し落ち着くまで学校を休むらしい。でも私は。
まさか「平野くんのお母さんが病気なので学校休みます!私、クラスメートで友達なので!<(`・ω・´)ゝ」なんていう理由が通用するわけがない。
岸くんの熱愛発覚した時と同じや。気持ち的には本人と同じくらいショックを受けているのに、当事者じゃない。
どんなにショックを受けても、授業を受けなきゃいけないし、部活に出なきゃいけない。
友達って意外と離れたところにいる存在…。
名古屋駅までは平野のおじいちゃんが車で送ってくれて、平野がホームまで送りにきてくれた。
平野「母親が退院するまで、何日か学校休むかも」
風「うん、ゆっくり側にいてあげて」
平野「うん」
風「なんか勝手について来ちゃってほんとごめんね」
平野「全然!舞川がいてくれてよかった。俺さ、普段から”この人ともう会えなくなったとしても、絶対後悔しないように”っていう気持ちで人と向き合うように心掛けてんの」
風「うん?そうやね」
確かに平野はいつも人の目をしっかり見て受け答えしていて、みんなに優しく誠実に接してる。
平野「それなのに自分の気持ちだけいっぱいいっぱいになって、大切なことを見失ってた。母親を好きな人との仲を引き裂いたまま死なせてたかもしれないって考えたらゾッとした。
舞川がいてくれなかったら、またすごい後悔するところだった」
また?
プルルル。
風「あ、そろそろ乗らなきゃ」
平野「あ、うん」
なんとなく名残り惜しくて無言で向き合ったまま動けない。
平野「あ、静岡着いてから、暗くて危ないから、海人…(はもっと危ないから)ジンに迎え頼んどくから」
風「えっ、う、うん。そやね、ちょっと暗くて怖いし、じゃぁお願い。ありがと」
また、無言になる。
風「じゃ、行くね」
平野「おぅ」
風「早く…お母さん良くなるといいね」
本当は「早く戻ってきてね」って言いかけて、とっさに言葉を変えた。
なんかそんなの恋人に言うセリフみたいで、違和感あるかなと意識しちゃって。
平野「うん、ありがとう」
風「じゃ」
平野「おぅ」
何回「じゃ」って言ってんやろ。
こんな時、恋人同士だったらハグでもキスでもして大いに別れを悲しめるのに、友達って何もできへんのな。
さっきまではあんなにずっと手を繋いでたのに、一度離して決まったら、もう一度手を繋ぐタイミングもない。
そりゃそうよね、あの時はお母さん死ぬかもっていう状況で、平野は普通の精神状態じゃなかったし、不安でたまたま隣にいた私にすがっただけ。私が勝手について来たんやもん。別に平野に頼まれたわけやないし。
あぁ、無情だな友達って。
こんなに後ろ髪引かれる思いなのに、ちょっと触れることさえできないなんて。
風「じゃ、本当に行くね」
乗り込んだと同時に扉が閉まった。窓ガラスに手をつく。すると、平野がハッとした様子でガラス越しに手を合わせてきた。
「黄色い線の内側までお下がりくださーい!」
ピー!というけたたましい笛の音と共に怒られ、平野はすぐに後ろに離れた。
ゆっくりと車両が動き出し、だんだんと平野の姿は小さくなっていった。
ねえ、平野。
私が平野を好きって言ったらどう思う?
やっぱり幻滅する?
それならいっそこの気持ちを隠して、ずっと岸くんを忘れられないふりをして…。
そうしたら「岸くんを思い続けている舞川が好きだ。やっぱり俺が認めた舞川だな!」って、今までみたいに隣で笑っていてくれる?
だけどそうだと、すごくそばにいて大切な存在には変わりないのに、愛しいと思った時に自由に触れられないこの”距離”は変わらないままだね。
さっき2人の間にあったガラスみたいに、薄くて透明で目の前に見えているのに絶対に触れることのできない強固な壁があるみたいに。
いつか”友達”という大きな壁を壊して、私が描く未来にたどり着けることはあるんだろうか?
”「俺は一生懸命岸くんを好きな舞川が好きだからさ」
「じゃあ、ずっと平野に好きでいてもらえる自信ある。この先ずっと岸くんを忘れられそうにないから」”
あの日の誓いが私達の未来の邪魔をする。
あの日の誓い いつもここにある
King & Prince「描いた未来~たどり着くまで~」
作詞:坂室賢一、作曲:GRP/草川瞬
平野の家。
りく「にいちゃんさ、あんな可愛い彼女いたんだね」
平野「え?舞川?彼女じゃないよ」
りく「えっ!?じゃあ、なんで一緒に名古屋まで来たの!?しかもずっと手…」
平野「でも、好きだよ。ママの容態が落ち着いて静岡帰ったら、気持ち伝えようと思ってる」
りく「えっ…な、なんでそれ俺に言う!?」
普段兄弟で恋バナなんてしたことないから、りくの方がマジ照れしてた。
自分への決意として口に出しておきたかったんだ。
”「岸くんを好きな舞川が好き」”?
そんなことあるわけない。
あまりにも舞川が岸くんのことばかり見ているから、たぶん無意識に自分を防御して、岸くんとの恋を応援するというスタンスでごまかしていただけだ。
”「簡単に俺のほう向いたらがっかりする」”?
まさか。
こっちを向いて欲しいに決まってる。
傷つきたくないから、”何でも相談出来る優しい友達”の枠からはみ出ることを恐れてた。
だけど、自分でかけたその呪縛に囚われて身動きとれなくなるくらいなら、そんなものぶち壊してしまえばいい。
もう恐れない。
辛い時、支え支えられてきた。
その絆が、俺たちを導いている。
”友達”でも”相談役”でもなく、あいつの笑顔を一番そばで見ていられる場所。
そんな俺の描く未来に手を伸ばす。