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──「それでは、サーテム対策を始めます」
しかし、先生はその一言を述べたきり、何かを待つかのようにしばらく静かに立っていた。
子どもたちは、リアルな森の中、いつ{サーテム}が襲ってくるかと緊張した面持ちで周囲を見渡していた。
突然、森の奥から、光により形成されたサーテムの姿が浮かび上がる。
先生は、子どもたちに木(茎木)に隠れるよう小声で指示した。
子どもたちは静かに身を隠し、息を殺していた。
──「このサーテムが、肉食、草食どちらの状態か見極めてください」
「群れてないから、草食?」
「正解です」
「その場合は、どうするのでしたか?」
「ゆっくりと、距離をとる?」
「そう。ゆっくりと距離をとり、その場から離れましょう」
──「では次」
仕切り直されると、{サーテム}は一度消え、森の奥にまた現れた。
──「このサーテムは身長約3メートルで、やや大きい個体です。肉食、草食どちらの状態でしょう」
「デカくね?」と{サーテム}を見て興奮するオウエン。
「べつに本物じゃないし」と強がるユウマ。
「……こわ。けど群れてないから、草食だよね?」とサーテムから目を離さずに怯えながらリヨクは言った。
「…なら離れてみる?」ユウマは平然とした顔だが、声は震えていた。
3人は木に隠れながら、ヒソヒソと話あっていると、となりの木に隠れているポピュアの少年が小枝を踏んでしまったようで、「あ」と言う声が聞こえた。
その音に反応したサーテムは、猛スピードで少年の方へと接近していった。
「ひ、ひぇーーー!」
──「クロスケくんアウト」と先生が言うと、少年は先生の元へ行き、お山座りをして他の子どもたちの様子を静かに見守った。
「あのクロスケって奴の顔見た?『ひぇー』だって」とユウマが嘲笑っていると、「ユウマくんアウト」と先生が言った。
ユウマは、リヨクの顔をみて「なんで?」と言うと、後ろを振り返った。
「ひぇーーー!!!」
ユウマは、クロスケの隣に座った。
ユウマは、仕切り直すと思って気を抜いていたらしく、離れた場所でぶつぶつと不満を言い続けている。
そんなユウマに、先生は、「森なら死んでたわよ。気を抜いてはいけません」と言った。
「クロスケって子よりユウマの方がビビってたな」
「だね」
オウエンとリヨクは、笑いながらユウマに手を振った。
ユウマはむすっとした顔でぼくらを見続けている。
仕切り直されると、2頭の光の{サーテム}が森の奥に現れた。
子どもたちは、一斉に《ケオワ》の実を潰した。
すると、サーテムは植物を食べ始めた。
──「素晴らしい判断速度です。ですが、このサーテムは、現れたときすでに草食の状態でした。
2匹以上で現れたとしても、必ずしも肉食であるとは限りません」
「先生!」
「はい」
「潰しながら歩いてたら、肉食のサーテムに会わずに済むんじゃないですか?」
旧楽園の子が聞いた。
「『ゾクニカ』くん。ポピュアの子が言うならともかく、旧楽園育ちのあなたなら、《《なぜそれをしないか》》を知っているはずですよ?」
ハテナを浮かべるゾクニカに、坊主頭の旧楽園の子が小声で言った。
「鎌の人だよ」
すると、ゾクニカは怯えた顔になり、「あ、そっか」と言った。
当然、オウエンは気になり、先生に質問した。
「鎌の人って聞こえたけど、なにそれ?」
「『鎌の人』は、簡単に言えば、自然を愛する人の事よ。
むやみに獣の特性を変えたりすると、生物をいじめてると思って怒ってきます。
ですから、鎌の人に怒られないためにも、人と獣の共存を保つためにも、対処する順番は大事なの。
獣も縄張りに入りさえしなければ危害を加えてくることはないですから──」
──メヒワ先生は仕切り直すと、5頭の{サーテム}が森の奥に出現した。
子どもたちは、武器となる突植物《ゼズ》のタネと笛を握りしめ、警戒を強めた。
しかし、素早い{サーテム}にタイミングよく《ゼズ》を成長させ撃退することは難しく、次々にアウトになっていく子どもたち。
──リヨクとオウエンは、まだ生き残っていた。
「{サーテム}を退治することが目的ではありません。
逃げられるなら逃げてください」
オウエンは、先生の話をまったく聞いていないようで、{サーテム}の目を盗み、次々に違う木に移動し、アウトになった子たちを盛り上げていた。
一方、リヨクは、ひたすら木に隠れ、見つからないようにじっとしていた。
すると突然。
「リタちゃん! 後ろ!」
と、アウトになったポピュアの少女が叫んだ。
テクノカットの少年が、灰色ロングヘアの少女リタを助けるため、すぐさま駆けつけ、サーテムに近づき「ピー」と笛を吹いた。
すると、《ゼズ》がブワッと成長し、{サーテム}を貫いた。
{サーテム}が倒れる瞬間を初めて見た、アウトになった観客からは拍手が湧き起こった。
しかし、笛の音を聞いた、他4頭の{サーテム}が一斉に、テクノカットの少年に向かった。
リヨクは、少し目立ちたくなり、サーテムの背中めがけて、小石を投げつけた。──見事命中。
すると、1頭のサーテムが、リヨクに向かって来た。
リヨクは、勇気を振り絞り、震えるかたい手を前に出し、《ゼズ》のタネを芝生に落とした。
──(こ、こい!)
リヨクは、笛をくわえ、射程距離に近づくまでじっと成長させるのを我慢していた。
──サーテムが消えた。
(あれ?)
「リヨク! 上!」ユウマの声が聞こえてきた。
リヨクは目を閉じ、笛を吹いた。
──ゆっくりと目を開けると、《ゼズ》が刺さった{サーテム}が目の前にいた。
そして、拍手喝采が聞こえてきた。
(え、やった! ぼく、倒せたんだ!)
リヨクは、喜び、拍手するアウトになった子たちを見た。
しかし、その拍手は、リヨクに対して向けられているものではなかった。
目線の先には、オウエン、グオ、シユラの姿があった。
3本の《ゼズ》が骨組みとなり、倒された{サーテム}のテントが完成していた。
襲われていたポピュアの少年少女は、その中にいた。
青髪の少年オモトは、それを見て、
「アート…」
とつぶやいた。
メヒワ先生は、オモトの口に葉っぱを貼り付けた。
オウエンは、スキップしながら向かって来た。
「お! リヨク! おまえも倒したのか!」
「うん、ユウマのおかげで」
「イェイ!」
リヨクは、オウエンとハイタッチした。
──メヒワ先生は、子どもたち全員を集めると、話し出した。
「おさらいです。
迷いの森に行った際に《ケオワ》の花を見つけた場合、念のため実を取り、それ以上近づかない事。そして──」
メヒワ先生は、ポピュアの子たちに向かって話しを続けた。
「道に迷い、帰れなくなった場合。
移動する茎木《イズデ》に、《《道が塞がれていなければ》》ですが、見学時に説明した、この記憶植物、《リンル》を頼りに帰る事ができます。
《リンル》は、君たちの家に生えており、匂いを記憶し、ちぎると葉が本体に戻ろうとするので、方向がわかります。森などに出かける際は、ちぎって持っておいて下さい」
──「キーンコーンカーンコーン」
「皆さんお疲れ様でした。何度かやれば、{サーテム}に臆することなく冷静な対処が出来るようになるでしょう。
──それでは、獣学 生態と接し方を終わります」