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ジホの寝息が止んだように静かになったのを確認して、ヒョヌはベッドの端からゆっくりと体を滑らせた。
暗闇の中で、ジホの紫の髪が月明かりを吸っている。
心臓が喉の奥で大きく鳴って、
思わず手のひらで口を覆った。
――死ぬほど、怖い。
けれど、ここにいたらもっと駄目になる気がした。
ヒョヌは小さく息を吐いて、
机の上に置きっぱなしの上着を掴むと、
床に散らばった錠剤を踏まないようにそっと歩いた。
ドアノブに手をかける。
――ギ…
小さな軋む音が、やけに大きく響いた。
ヒョヌは息を止めたまま、
振り返る。
ジホは寝返りを打っただけだった。
紫の前髪の奥の瞼は、まだ閉じている。
ヒョヌは心の中で「미안(ごめん)」と呟いて、
ドアをゆっくり押し開けた。
廊下の外に出た瞬間、
足元から冷たい風が吹き込んできて、
酸欠みたいな胸の奥が少しだけ自由になった気がした。
靴も履かずに非常階段を降りる。
コンクリートの冷たさが裸足を刺すけど、
それが逆に現実を確かめさせた。
――逃げろ。
――どこへでもいい。
ヒョヌは歌舞伎町のネオンが滲む夜の隙間へ、
自分の影を紛れさせた。
という夢だった…。