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「信じられん光景じゃのう…」
市壁の上から遠くに見える魔物の群れを見ながらヴェスティガさんがボソッと呟いた。俺も彼と同じ気持ちでこの光景を眺める。
未来視の儀式で分かっていたとはいえ、実際に起こった状況を目の当たりにした時の迫力は凄まじいものだ。
「私が見た光景とほぼ同じだわ…」
「こんな光景をあの時に見てよく平静を保ってられたな」
ガーディスさんがイルーラさんの胆力に感心していた。確かに俺がイルーラさんの立場なら平静を保っていられたか怪しいところだ。
「まあ、ここまでになると逆に現実感なくなるでしょ?」
「…確かにそうだな」
イルーラさんは苦笑いしながら答える。
逆にガーディスさんはずっと難しい顔のままだった。
「あれが話にあった人為的に作られた超越種か…」
「たしかに大群の中に数匹だけじゃが今までに感じたこともないような威圧感を放っておるやつがおるのう」
グランドマスターとヴェスティガさんの言う通り、群れの中には一際存在感を放っている魔物が計5匹確認できる。そのそれぞれがあのゴブリン・イクシードよりも強力な個体であると感じられる。
しかし全てがドラゴン・イクシードよりは見劣りする魔物たちである。つまりは俺なら勝てる見込みが十分にある。
しかし問題はその数で、超越種だけならいざ知らず他の魔物たちですら500は軽く超えている。
にも関わらず今もなお黒い沼から湧き出ているためその総数は計り知れない。こいつらを全て漏らすことなく全て倒し切るのは難しいだろう。
せめてSランク冒険者たちがそれぞれ超越種の相手をして残りを他の冒険者たちで対処出来ればいいのだけれども…
「うむ…たしか教団の男は紛い物の超越種と言っていたんだよね」
「はい、確かに紛い物と言っていました」
するとグランドマスターがボソッと「なるほど…」と呟いて何かを考えているようであった。
「どうかしましたか?」
「いや昔の話だけれども、私は以前にも超越種と一度対峙したことがあってね。その時の感じを思い出しながら奴らと比べてみていたんだけど、明らかに昔に戦った相手の方が桁違いに強力だったな、と」
「えっ…?!」
俺はグランドマスターの言葉を上手く受け止められずにいた。ドラゴン・イクシードでも今群れにいる超越種より桁違いってほどではなかった。
そうなるとその昔戦った相手って世界を簡単に滅ぼせるレベルの相手だったのではないか。よく今もこの世界が続いているなと俺は不思議に思った。
「まあ、あの時は勇者様がいてくれたからどうにかなったものの、今はあの方はいない。どっちにしろ私たちにとって目の前の相手が脅威であることには変わりないね」
そういえば以前、教団のジェラからイリス様と勇者の話が出てから気になってイリス様に聞いてみたことがあるんだった。
「勇者とマモンのことですか?確か、あれは今から100年ほど前のことですね。魔王マモンが色々ありましてこの星の敵となった際、例外的に私が勇者を召喚するという形で事象介入したことがあったのです。しかしその時に勇者が魔王マモンを封印してくれているので心配はないですよ」
「その封印は解けるということはないのでしょうか?」
「勇者にはかなり強い能力を与えていたのでその勇者を上回るほどのものが現れない限り大丈夫です。それにそんな能力を持つ存在は今は私以外にいませんし、今後も決して現れることはありませんよ」
「たしかに神様であるイリス様と同等の存在なんて現れるわけがないですよね」
「ええ、なので安心して大丈夫ですよ」
イリス様の話とグランドマスターの話から推測するに、おそらくはグランドマスターは昔に勇者と共に魔王マモンと戦ったことがあるのではないだろうか。
前にマモンのことを知っていると言っていたことがあるし、その超越種っていうのは魔王マモンなのかもしれない。
しかしそうなるとグランドマスターは一体何歳なんだ?今の見た目は3、40代ほどで歳をとっているようには全く見えない。それに俺の推測通りならもうすでに100歳は超えていることになる。
グランドマスターって人族だよな…?
寿命どうなっているんだ?
謎は深まるばかりだが、詳しいことはこの戦いが終わってからゆっくりと聞くことにしよう。
「何か出て来たぞっ!」
すると魔法望遠鏡で大きな黒い沼を注視していた警備兵の一人が大きな声で叫んだ。その声を聞いて俺も魔力感知で黒い沼周辺を探ってみることにした。
「…来ました、奴です」
そこには奴、ローガンスの魔力反応があった。そのローガンスのすぐ近くにドラゴン・イクシードに似た強力な魔力反応も確認できたので、これがおそらくイルーラさんが視たというドラゴンゾンビなのだろう。
「なっ……く、腐っているドラゴンのような魔物の存在を確認!!!」
すると少し遅れて先ほど叫んでいた警備兵がドラゴンゾンビの存在を告げる。
これでイルーラさんの視た未来が残念なことに全て現実になった。
「他の方面からの出現は…今のところはなさそうだな」
グランドマスターが後ろを向き、東西南の空を確認してそう告げる。
それを聞いた俺やヴェスティガさん、イルーラさんたちも同意するべく頷いた。
事前に北以外の方角からの襲撃が確認された場合にそこに配置されている警備兵が上空に信号弾を発射する手はずとなっているのだ。そのため信号弾を一切確認できていないということはどうやら敵は北からのみ一点集中攻撃を仕掛けるつもりだろう。
分散させた方がこの街を攻め落とすのであれば効率的なはずなのにそうしないということはよほどの自信があるのか、それとも街を攻め落とすことが目的ではないのだろう。
実際のところ、ローガンスはプレゼントだと言っていたので自身の研究の成果の披露ぐらいにしか考えていないのかもしれない。
「では、我々も行こうか」
グランドマスターの掛け声とともに俺たちSランク冒険者たちも市壁の上から外へと風魔法で飛び下りて戦闘準備を開始する。俺の準備はすでに万端、いつでも戦える!
俺の隣にはイルーラさんやヴェスティガさん、ガーディスさんにグランドマスターがいる。そして後ろにはゲングさんたちを含めた多くの実力のある冒険者たちが戦いの時を今か今かと待っている。その光景を見てこれほど心強いと思ったことはない。
そしてここからは見えないが後方には魔法や物資による支援を行っているセレナやセラピィを含む人たちが待機している。彼女たちも前線で直接戦う訳ではないがこの戦いにおいて重要な役割を背負ってくれている。
彼女たちのおかげで安心して前線を張って居られるので感謝しかない。
「…そろそろ準備ができたじゃろう」
そう呟くとヴェスティガさんが上空に魔法弾を打ち上げた。
その魔法弾はかなりの上空まで飛翔し、綺麗な花火のような爆発を起こした。
すると背後の王都を取り囲む市壁に沿って青い魔力障壁が展開され始めたのだ。それは大きなドーム状に広がっていき、次第に王都を全てすっぽりと覆い尽くすまでとなった。
「もしかしてあれを準備していたんですか?!」
「そうじゃとも。以前から研究しておった都市防衛魔法結界を大急ぎで王都に設置させたんじゃ。まあ雑魚共の攻撃ではびくともせんと思うがまだ完成度が高くないのでな。気休め程度じゃと思ってくれ」
俺は後ろを守るこの素晴らしい光景に一種の感動を覚えた。
これは本当にありがたい…!
例え住民が地下施設への避難が行われているとはいえ、何が起こるか分からない。だからこそ後ろの巨大な魔力結界は前で戦う俺たちにとって後ろを気にしないで戦えるので非常に心強いものだ。
「では、諸君!!私たちの力を奴らに見せつけてやるぞ!!!」
「「「「「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」」」」」」」
グランドマスターの号令と共に冒険者たちが一斉に雄たけびを上げる。
こうして俺たちの王都を守る戦いが始まった。