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私の脇からサイダーを持った手が、にゅっと出てきた。また、あの浮浪者だ。上機嫌の流れで私は嫌な気分一つせずに、会計を済ましてあげようかと思い。そのサイダーを受け取った。
「ご主人様。優しーい」
隣から安浦がにこにこしている。
会計を済ませると、浮浪者はにっこりして、私に、
「よ。お兄ちゃんに、いいにこと教えてあげようか」
浮浪者は目だけは笑っていないが笑顔で話しかけている。その時の老人は若々しく精悍な顔をしていた。
私は不思議とこの浮浪者に心を許そうとする気持ちがあった……。
「夢の世界ってのがあってだな。その世界で死ぬと、元の世界に二度と戻ってこれないんだ。だから、どんなに怖くて危険な夢の世界でも死ぬなよ。今の夢の世界はそういった恐ろしい世界になっているんだ。解ったかいお兄ちゃん」
私と安浦は驚いて浮浪者の顔を見た。
「ご主人様。何か知っているみたいですよ。この人」
「ああ。それが何であるか……」
私はそういうと、何か食べ物も買った。
「ありがとな。これは明日の朝飯にすることにして」
浮浪者は大切にコンビニ弁当を左手に抱え、それから、私と安浦をどこかへと案内しようとしている。
「別に取って食う訳じゃない。こっちに来い」
「どうします。ご主人様」
安浦は少しだけ不安になったようだ。
私は少し考えると、
「解った。ついていきます。行ってみようよ安浦」
私と安浦はこの浮浪者についていくことにした。
夏の午後、6時の青空は少しは涼しい気持ちにさせられる。歩く人も疎らな道を通って、浮浪者は私たちを映画館「ヘルユメ」の裏通りに案内した。
そこには、薄汚れていて人気がないところに、小さなテントがある。地面にはゴミ一つ散乱していない。どうやら奇麗好きのようだ。かすかに人が住んでいるといった生活感が漂っていた。
「異臭がしませんね。ご主人様」
「ああ。臭くなくて助かる。でも、俺たちの知っていること以外を、知っているようだし。しかも、一連の夢のことをだ。何かいい知識が入るのかも知れない。俺たちは夢の世界を知っているようで、知らないのかもしれないからな。呉林も今は勉強中だし、霧画は行方不明。この人の知識を知っておいて、損は無いと思う」