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私と安浦は本だらけのテントに招かれた。異臭がしなくて大助かりだ。まるで、つい最近浮浪者になった人のようだ。けれど、もう何年もここに住んでいる生活感があった。
「兄ちゃん。そして、お譲ちゃん。わしの知ってることが何か……知っているんだろう。いや違うな。体験しているんだね。わしも何度か夢の世界で死ぬ思いをしているんだ」
私はテントの中で腰掛けていたのだが、腰を浮かす。
「あなたもリアル過ぎる夢の体験をしたんですか」
「ああ。銭湯のようなところと、ビル。そして、船」
「え?」
「ああ。どうやら、お兄ちゃんたちはそこへは行ったことがないみたいだな」
浮浪者はそういうと、私と安浦にギラギラしている眼を向ける。
「お兄ちゃんとお譲ちゃんは夢の世界に行って無事、生還したようだな。そして、人によって体験することが違うところがあるようだな」
浮浪者は私が買ってやったサイダーの蓋を丁寧に開ける。
「頂くよ。それから、奢ってくれた君たちの今後のために、わしの体験したことで解ったところを話そう」
一口、サイダーを飲み。
「まず、夢の世界で死ぬと元の世界には決して戻れない。さっきも言ったな。わしの友人は夢の世界で死んでしまって、この世界には戻って来てない。もっとも、この世界(現実)は虚構なのかも知れないが」
「御友人がいたのですね」
「ああ」
「お察しします」
私は丁寧に頭を下げた。私も小さい時、同級生の死を体験している。確か何かの病気だったようで、悪いと思うがあまり悲しい気持ちはしなかった。あの時は何歳だったかな……。
「ああ」
浮浪者は遠い方に眼差しを向ける。しばらくすると、視線を戻して、
「君達はこの世界をどう思うかね」
「この世界ですか……」
私は考えた。
「夢に侵食された現実……? 」
「あたしもそう考える」
安浦も同意した。
浮浪者はあっという間に空になったサイダーを、名残惜しく近くのゴミ箱に捨てると、
「わしはこの世界(今の現実)を恐らくは虚構だと考える。心或いは精神が見せているのだ。現実でもあるのだが、我々人類は精神を歪められ、その身で見える世界を、その歪んだ精神で見るから。世界が歪んで見えるのだとわしは考える。つまり、夢のような現実なのだ」
浮浪者はふと湿っぽい顔をして、