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その日の夜、康二に誘われ、ふっかさん、佐久間くんと一緒に飲みに行くことになった。
最初は軽く飲むつもりだったのに、ふっかさんと康二の「まだいけるやろ!」というノリに巻き込まれ、気づけばかなり酔いが回っていた。
「めめ、ちょっと顔赤くね? 大丈夫か?」
「……全然、大丈夫」
「おっ、珍しく酔ってんな? なんか悩みごとでもあんの?」
佐久間くんが冗談っぽく言った。一瞬、言葉に詰まる。
(やばい……今、絶対言ったらダメなやつ……)
わかっていた。わかっていたのに。
「……好きな人が、いるんだよね」
言った瞬間、しまった、と思った。
康二とふっかさんと佐久間くんが、一瞬動きを止めた。
「お?蓮が恋バナするの、めっちゃ珍しくない!え、誰誰?」
佐久間くんが食いついてくる。ふっかさんも「お前、好きな人とかそういうの、あんまり話さないのに!」と驚いている。
(終わった……)
酔った勢いとはいえ、ここまで言ったらもう止められない。
「……でも、たぶん叶わない」
ぽつりとそう漏らすと、ふっかさんが「え、なんで?」と不思議そうに眉をひそめた。
「相手に、好きな人がいるとか?」
「いや……そういうのじゃないけど」
「じゃあ、ワンチャンあるんちゃうん?」
康二が軽く言うが、苦笑するしかなかった。
「……どうなんだろ。俺らはアイドルだし、簡単にどうこうできる話じゃないから」
そう呟くと、空気が少し変わった。
ふっかさんも佐久間くんも、少し真剣な表情になった。
「……確かにな」
ふっかさんが静かに呟く。
「恋愛がダメってわけじゃないけど、俺らはファンがいて、事務所があって、グループとしてのバランスもある。誰かが熱愛報道でも出たら、一気に騒ぎになるし……」
「俺らの仕事って、そういう面もあるよな」
いつもは騒がしい佐久間くんも、こういう時はちゃんと真面目に考えてくれる。
「だからこそ、考えちゃうんだよね……。気持ちだけで突っ走れないし、そもそも言うことで関係が壊れるのも怖いし」
曖昧に誤魔化しながら、グラスを傾けた。本当は言いたかった。
(だって、男だし、相手は岩本くんだし)と。でも、そんなこと言えるわけがなかった。
「……めめが本気で好きになった相手か……」
ふっかさんが、呟く。
「そっか。まあ、好きになっちゃったもんは仕方ねぇよな」
「……そう、だよね」
「でも、そんだけ思ってるなら……伝えるのもアリなんじゃね?」
「えっ?」
「いや、マジでダメってわけじゃないならさ。後悔するより、ちゃんとぶつかってみるのもアリかもよ?」
ふっかさんの言葉に、何も言えなかった。
伝えたら、関係が変わってしまうかもしれない。今まで通りにいられなくなるかもしれない。
でも、今のままでいいのかと聞かれると、それもわからなかった。
(どうすればいいんだろう……)
酔いのせいで少しぼやける視界の中で、ただ静かにグラスを見つめていた。