飲み会が終わり、タクシーに揺られながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。
「……無理に答えを出さなくてもいい」
佐久間くんの言葉を思い出す。
確かに、その通りだと思う。
でも、それができるなら、最初からこんなに悩んでない。
(好きって気持ちは、そんな簡単に割り切れるもんじゃないんだよな)
ふと、スマホが震えた。
画面を見ると、「お疲れ!」と短く送られたメッセージ。
送信者は——「岩本くん」。
心臓が、少しだけ跳ねる。
(……酔ってるから、いつもより素直に反応してしまう)
「お疲れさまです」とだけ返し、スマホを伏せた。
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次の日。
「めめ、飲みすぎてない? ちょっと顔むくんでるよ」
楽屋に入るなり、翔太くんにそう言われる。
「……まあ、ちょっとだけ」
「あんまり飲みすぎんなよー。今日撮影あるんだから」
「ごめん、今度から気をつける」
そうしょっぴーと話しながら、楽屋の奥にいる岩本くんをチラリと見る。
岩本くんは台本を片手に、真剣な表情で読んでいた。
(……いつも通りだ)
変に意識しすぎてるのは、きっと自分だけ。
だけど、たまにふと岩本くんが視線を向けてくると、心が一瞬揺れる。
「目黒、今日の衣装チェンジのタイミング、ちょっと早めにね」
「あ、了解です」
いつもの仕事の会話。
たったそれだけなのに、心臓がドクンと鳴るのが分かった。
(なんでこんなに、些細なことで動揺するんだろう)
片想いは、こんなにも苦しくて、でも愛おしいものだったんだと、改めて思い知らされた。
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