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『地中の衝撃よ大気の鼓動よ我が請願に答え敵を貫きたまえ』
ウジェニーさんの手が光輝く。
土風属性混合第五階層! 【極雷撃】だ。
太い雷が空中を走り、水蒸気が集まった部分を通り抜け増幅され巨大な雷球となって、ファイヤードレイクに直撃した。
GAAAAAYAAAAAAAN!!
赤い竜は青い稲妻に包まれて絶叫しながらのたうった。
壁が、天井が砕けて散らばった。
よし、今のはかなり効いた。
竜は唸りながら頭を持ち上げた。
「もう一発!」
と私が声を掛けたら、ウジェニーさんがぐったりと床に座り込んだ。
魔力切れか!
鞄からマジックポーションを取り出して飲ませる。
「あ、ありがとう」
「こちらこそありがとう」
ずいっと、偉丈夫と神経質そうな男、そして聖女アグネスさんが我々の前に出た。
「あとはまかせとけっ、こんだけの大物、九十階でも見た事ねえぜっ」
「まあ、なんとかなるでしょう」
『我が体内の神聖なる力をこの者と共用させたし』
聖女アグネスさんがウジェニーさんに近寄り、神聖術第二階層の【共用】をかけた。
「助かります」
「よく一人で頑張りましたね、マレンツ博士」
S級パーティの『黄金の禿鷹』の面々か、正直安心感が違うな。
ペネロペもいた。
「おう、マレンツ、がんばったな、ガキどもと王女さまは無事に地上に出たぜ」
「ありがとうペネロペ」
「転移の間でちょうど禿鷹の連中と行き会ったんで連れてきた」
「助かる」
「気にすんな」
ペネロペはニッカリ笑った。
ウジェニーさんの体に力が戻った。
「やれます、あと一発ぐらい」
「よし、まあ、全員の全力でいけば、なんとか首を取れそうだ」
ウゴリーノさんは太く笑うと剣を構えた。
青白い光が剣身にまといつく。
魔剣!
ファイヤードレイクはウゴリーノさんを警戒して背中を丸くして唸っている。
神経質そうな青年は背中から槍を取って構えた。
こちらは緑色の光がまといついていく。
魔槍か!
ウジェニーさんも立ち上がり、アグネスさんも隊列に付いた。
私も参加しよう。
「一気に最大攻撃を叩き込むぞっ!!」
「奴のブレスは封じる事ができます」
「おおっ、それは助かる!」
ファイヤードレイクの目に迷いがある。
口を開きかけて、私を見て閉じる。
竜にとってブレスは最大の武器だ。
それを塞がれてとても怒り狂っているようだ。
『主よ我が要請に答え、我が友に堅牢たる守りを与えたまえ』
アグネスさんが低い声で神聖術第三階層の『防護』を唱える。
白い膜のような物が我々の体にまといついた。
「いくぞっ!!」
「「「「おうっ!」」」」
ウゴリーノさんがファイヤードレイクに駆けより魔剣を振り上げた。
神経質そうな青年が背中を丸めて低く走り竜の左側から槍で突こうとする。
『地中の衝撃よ大気の鼓動よ我が請願に答え敵を貫きたまえ』
ウジェニーさんの右手が光輝いた。
アグネスさんが聖なるシンボルを掲げて竜の動きを観察している。
「【着火】」
ズドン!!
水蒸気爆発が竜の真下で発生した。
ギャインン!!
突然、純白の障壁が現れ、ウゴリーノさんの斬撃を、青年の槍の刺突を、ウジェニーさんの 【極雷撃】を、私の水蒸気爆発を、
跳ね返した。
「【完全防壁】……」
半透明の障壁の向こうにいたのは銀色の髪、赤い目の美しい女性だった。
転移してきたのか?
「ま、魔王レティシア……」
アグネスさんがつぶやいた。
巨大、それは、あまりに巨大な魔力であった。
威圧されて、この場の全員の動きがピタリと止まった。
魔王レティシアは我々を冷たい目で見た。
一瞬、私と目が合うと、薄く笑って片手を上げた。
手を下ろすと、その姿は一瞬で消えていた。
ファイヤードレイクの巨体も無かった。
ただ、水蒸気だけがもうもうと動いていた。
「転移魔法! 魔王レティシアが出るなんて、三百年ぶりだわ……」
アグネスさんがかすれた小声でつぶやいた。
「出るんですか、この迷宮に、魔王」
「はい、百年に一度ほど、出現の報告があります。ここ三百年は途絶えていましたが」
「魔王領から遠いのに……」
「迷宮にだけですね。何か重大な物を隠してある、とも、最下階には魔王の玉座があり財宝を守っている、とも伝わっています」
あれが、魔王……。
とても美しい姿だった。
なぜか彼女の姿を思い浮かべると、胸の奥が痛むような感じがする。
――もう一度会いたい。
私はなぜか、そう、思っていた。
ふう。
私は気が抜けて床に崩れ落ちてしまった。
なんという凄い体験をしたのだろうか。
「くっそー、剣さえ折れてなければ、魔王に突っ込んで行ったのに」
「死ぬぞ、お前、ペネロペ」
「ったく、おまえらはS級パーティなんだから突っ込んでいけよ」
「この令嬢、無茶苦茶だ」
「マレンツ博士~~、良かった~~!」
ウジェニーさんが抱きついて来た。
「ありがとう、助かりましたよ、ウジェニーさん」
「無事で良かった~~、うええええん」
ウジェニーさんは私の胸に顔を埋めて泣き始めた。
私は彼女の後ろ頭を撫でてあげた。