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朝のリビング。
ロイドが新聞をきっちり折りたたみながら、真剣な顔で言った。
「エデン校の面接は、家庭の“品格”を見られる。つまり、家族全員の協調が重要だ。」
「きょうちょー……?」とアーニャが首をかしげる。
「仲良くするってことよ」とエレナが微笑むと、アーニャがぱっと顔を輝かせた。
「アーニャ、がんばる! ママとおねーちゃんと、なかよし家族ー!」
「えらいですね、アーニャちゃん」とヨルが手をたたいて笑う。
「ではまず、“模擬面接”を始めよう。」
ロイドが眼鏡をかけ直し、手帳をぱらりと開く。
(※本気モードのときのロイドはだいたい怖い。)
「質問1。あなたの家族の好きなところは?」
アーニャがピシッと背筋を伸ばし、両手を膝に置いて答える。
「パパはかっこいい! ママはやさしい! おねーちゃんはピーナッツくれる!」
「……エレナ、ピーナッツを与えすぎでは?」
「つい……。でも“がんばったごほうび”なので。」
「……教育方針の一環として、まあ許容範囲だろう。」
ヨルが頬を押さえながら、ちょっと照れたように笑う。
「なんだか、こういう時間……いいですね。」
ロイドがうなずく。
「そうだね。家族が一緒に練習するというのは、悪くない。」
アーニャが、にやりといたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「じゃあつぎ、アーニャが先生する! 質問!」
「わっ、アーニャ先生ですか?」とヨルが目を丸くする。
「はい! ママ、すきなたべものは?」
「えっ……えっと……血の、じゃなくて、トマト料理かな!」
「ママあやしいー!」とアーニャが笑い転げる。
その笑い声につられて、わたしも声を出して笑ってしまった。
ロイドの口元も、少しだけやわらいで見えた。
──ほんのひととき。
任務も過去も、何もかも忘れていられる時間。
アーニャが笑い、ヨルが照れ、ロイドが少し困っている。
そんな日常の中に、自分がいる。
「……ねぇ、アーニャ。」
「ん?」
「ずっと、こうしていようね。」
「うん! アーニャ、おねーちゃんとずっといっしょがいい!」
ぎゅっと抱きつかれて、胸が温かくなる。
その瞬間だけは、本当に“普通の家族”だった。
***
夕方。
窓から射すオレンジの光が、テーブルを照らしていた。
ロイドが紅茶を注ぎながら言う。
「今日の練習は上出来だ。エデン校でもきっと通用する。」
「ほんとう? パパすごい!」
「アーニャが一番がんばったんだよ。」
ヨルが笑いながら、そっとエレナの肩に手を置いた。
「あなたも。……本当に、よく頑張ってる。」
「……ありがとうございます。」
その言葉が、なぜか少し胸に刺さった。
“頑張ってる”という言葉は、嬉しいのに、少しだけ苦しい。
わたしは、何を頑張ってるんだろう。
家族として? それとも、任務として?
その答えを探すように、アーニャの寝顔を見つめた。
小さな寝息が聞こえる。
――この笑顔を、守りたい。
それだけは、嘘じゃない。
🌸 次章予告
ある夜、エレナの過去を知る“来訪者”が現れる。
家族の幸せが揺らぐ時、少女は何を選ぶのか。
第5章「沈黙の手紙」 へ続く──