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学院の門を出ると、
空が少し低く見えた。
さっきまでの静けさが嘘みたいに、
車の音や人の声が戻ってくる。
それだけで、
少し息がしやすくなった。
歩きながら、
母は何も言わなかった。
説明会の内容を振り返るでもなく、
感想を求めるでもなく。
だからこそ、
不意に来た。
「……どう思った?」
前を向いたまま、
母はそう聞いた。
まどかは、
すぐに答えられなかった。
頭の中には、
きれいな言葉がたくさん浮かんでいる。
品位。
誇り。
特別。
でも、
それを口にしたら、
何かが嘘になる気がした。
「……すごい学校だと思った」
ようやく出てきたのは、
無難な言葉。
母は、
それを否定しなかった。
「うん。そうね」
少し歩いてから、
まどかは続ける。
「でも……」
声が、
自分でも驚くくらい小さかった。
母は、
歩く速さを少し落とした。
「わたし、
ああいうふうに
なれる気がしなくて」
在校生代表の姿が、
頭に浮かぶ。
きれいで、
整っていて、
迷いがない。
母は、
しばらく黙っていた。
そして、
静かに言った。
「なれなくても、
いいんじゃない?」
まどかは、
思わず顔を上げた。
「鈴蘭学院が、
あなたに合うかどうかは、
あなたが決めることよ」
「“選ばれる”ことと、
“幸せになる”ことは、
同じじゃないから」
その言葉に、
胸の奥が、
少しだけほどけた。
答えを出さなくても、
いい。
そう言ってもらえた気がした。
家が近づいてくる。
門の向こうで感じた重さが、
少しずつ薄れていく。
でも、
完全には消えなかった。
まどかは知っている。
この問いは、
まだ終わっていない。
玄関の前で、
母が微笑んだ。
「焦らなくていいわ」
「でも、
ちゃんと考えなさい」
まどかは、
小さくうなずいた。
その夜、
布団に入っても、
鈴蘭の花のことを考えていた。
下を向いて咲く花。
控えめで、
折れそうで、
それでも、
確かにそこにある。