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*.꒰ঌ𝕐𝕦𝕚𝕜𝕒໒꒱.*
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Luna Emma
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チェックの制服の上からフリースの上着を羽織って、乃江が裏口から出たときどこからか鼻歌が聞こえてきた。乃江が鼻歌のする方へ足を向けると、店の裏にあるごみ捨て場に人影が見えた。他には誰もいない。
ごみ捨て場にいた男が顔をあげて、乃江と目が合うと鼻歌が止んだ。すぐ側の店の駐車場を照らす明るい照明が、男の姿を夜の闇の中に映し出した。薄汚れた顔、くしゃくしゃの長い髪、よれた服、そして手にはハンバーガーの包みを握っている。
「頼む、見逃してくれ。今日一日何にも喰ってないんだ。な、頼むよ」
両手を合わせて、男は拝むように言った。
「それより今の歌。どうして…」
男はもう一度鼻歌を口ずさんだ。
「ノエっていう歌姫を知っているのか?」
「歌姫ですって?」
乃江の眉間に深く皺が寄る。
「最近はさっぱり聞かなくなったんだが、俺は結構好きだったんだぜ、あの娘この歌」
ハンバーガーの包み紙を薄いコートのポケットに突っ込むと、男はさらに言った。
「君みたいな若い子じゃあ知らないかもしれないけど、俺も昔は結構売れたギタリストだったんだ。でも、指がこうなっちゃあもうギターはかき鳴らせない」
まるで芸能人の婚約会見みたいに、左の指を揃えて乃江の方へ見せた。乃江の両目がはっと見開いた。男の左手の薬指と小指の第一関節から上がない。
「おいおい、そんなに怖い顔するなって。ヤバいことして怖い人にやられたんじゃないぜ。事故だから、これは事故」
笑えばいいのか、頷けばいいのかわからずに曖昧な表情をする乃江に、男は口の端をにっとあげて笑った。
「君さ、神原桜子という名前を聞いたことないかな? ずっとアメリカで音楽活動をしていて、神の耳を持つ女と呼ばれている。神原桜子に見込まれた人物は必ず売れる。歌姫になれると言われている。だが最近はどうしているんだか誰も知らない。もう結構いい歳のばあさんだから生きているかどうか…」
「私には関係ないことなので」
男の話を断ち切るように乃江が言うと、男は黙った。
「残念だな。それじゃあな」
小さく言うと、男は片手を振りながら店の前の横断歩道を渡っていく。その後ろ姿を見ながら、フリースのポケットから紙ナプキンを出して乃江は見つめた。
神原桜子。確かにそう書かれている。
小石が転がる音に振り向くと、そこには樹の姿があった。驚きのあまり声をあげてしまいそうになる乃江に樹は言う。
「行かない方がいいですよ」
「え? 今なんて?」
「危険な気がします」
それだけを言うと樹は行ってしまった。
「今の何?」
全く気にもされていないと思っていた樹から声をかけられた驚きに、乃江はしばらくその場から動けなかった。
コメント
1件
うわあ、めっちゃ気になる展開……! 最初の鼻歌から始まって、指がない元ギタリストの男、神原桜子って名前の紙ナプキン、そして樹くんの「行かない方がいい」って忠告。不穏な空気がじわじわ来てて、私こういうの好きです。乃江の戸惑いもリアルで、続きが気になって仕方ないです🌙