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#ドアマット
黒須夜雨子
97
#離縁危機
あさぎかな
230
ルレイヤとルーシェリアは双子の姉妹だった。
姉のルレイヤと妹のルーシェリア。
彼女たちの名前は他国から嫁いできた母の国に語り継がれる、精霊の名前にあやかっている。
生まれたときから然程泣かず、静かな姉には厳冬の夜を告げる精霊であるルレイヤの名前を。
元気に泣いて乳母達を困らせた妹には、春の朝を告げる精霊であるルーシェリアの名前を。
名前は体を現したのか、持って生まれた性質に名前が合っただけなのか。
内向的で物静かなルレイヤと対照的に、明るく溌溂としたルーシェリア。
成長した二人に共通したのは外見だけだ。その外見すらも二人が持つ雰囲気のせいで、似ているはずなのに誰もが判別できるくらいに何かが違っている。
どちらも美人だと言ってもらえるが、誰もがルーシェリアへと目を奪われた。
家族はルーシェリアをルルと呼び、大層可愛がったが、ルレイヤはルレイヤのままだった。
さして長くもない名前なのだから、わざわざ愛称など必要ない、というのが家族の言い分である。
そんなルレイヤを軽んじる空気は、口にしなくても周囲に伝わるもので。
親戚が訪れれば、従兄弟達は率先してルーシェリアと庭を散策して回り、食事で同席したときと別れ際の挨拶のときにだけ、ルレイヤのことを思い出すくらい。
両親はさすがに存在を忘れる程ではなかったが、それでもルレイヤへのお土産だけ忘れたり、時には誕生日プレゼントまで忘れたりもした。
双子のルーシェリアのプレゼントは、一度も話忘れたことがないにも関わらずだ。
部屋で本ばかり読んでいるから、忘れられても仕方ないのよと言われた時には、さすがにまだ幼いルレイヤも思わず涙を溢し、祖父母やルーシェリアから抗議を受けた両親は渋々と謝罪をしてくれた。
バツの悪い思いに両親は、忘れるのには他に原因があるのではないかと、ルレイヤが呪われているのではないかと確認したが、そういうことは一切ないと神殿から言われている。
やはり単に忘れただけだと安心したルレイヤ達の両親は、これ以降も度々忘れることになるのだが、その頃には祖父母が領地から出ることもなくなり、ルレイヤも何も言わなくなっていたので益々気にしなくなっていった。
遅れて渡される誕生日プレゼントはルーシェリアと色違いの物であり、お詫びの言葉が書き連ねられていることから、悪気がなかったのだと受け取ることにしている。
──少し忘れただけ。
口にした言葉は全部悪気などないし、ちょっと気になる程度のもの。
自分の欲しかった物など何も聞かれたことないが、贈られた物には厚意が大事なのだから。
いつだってルーシェリアとお揃いだけど、それは双子だから。
全部ささやかで少しだけ引っ掛かる気持ちは、そっと蓋を押さえれば何もなかったことになる。
咎める程のことではないのだ。
大人になれば、きっとたいしたことないのだと両親のように流せるはず。
もう、全部気にしないほうがいいのだ。
だから両親が妹のルーシェリアだけ婚約者の話をまとめてきたときにも、妹に一生懸命なあまりにルレイヤの結婚のことを考えていなかったことも全部どうでもよくなっていた。
どうでもよいと思い込もうとした。
ルーシェリアはルレイヤが可哀そうだと怒ってくれてはいたが、ルーシェリアが優しい子に育ってよかったと両親と兄が褒めそやした。
話題がすり替わったルレイヤは、そっと離れて家族の団欒を見守るだけ。
まるで無関係の他人のように。
自分は異質なのだ。
春の日差しのように陽気さを持つ、あの家族の輪の中に上手く溶け込めない。
何が悪かったのかわからない。
静かに本ばかり読んでなどおらずに外へと出ていれば良かったのか。それとも家族がルレイヤのことを忘れる度に怒って、家の空気を悪くすればよかったのか。
けれど、そんなことをしたらルレイヤ自身が自分を否定しているようで、可哀そうな自分を認めたようで辛い。
貴族令嬢だから小さい頃から勉強してルーシェリアよりも成績はいいと家庭教師に言ってもらっていたし、行儀作法だってルーシェリアよりも先に身に付けた。
年に一度は領地に帰って祖父母と一緒に過ごしているし、領地の視察にだってついていく。
ルーシェリアのように、他の家族のように社交的ではないというだけで、どうしてここまで態度が違うのか。
家族からは、ルーシェリアの婚約がまとまったら次に探すからと取り成すように言葉を並べられた。
かと思えば、兄からはルレイヤがルーシェリアのように美人だったら、友人に紹介できるのにと残念そうに言われ、ぐっと手を握り締めた。
きっと彼の中では、ルレイヤとルーシェリアが双子だったことすらも抜け落ちているに違いない。
彼らは悪気などないのだ。父も、母も、兄も。
***
そんな、いつだって家族の中心にいるルーシェリアの婚約相手は、破格の相手である侯爵家だった。
一体どんな縁で見つけてきたのか。伯爵家へと婚約を持ち込んだのはマティス・ルフェーヴル侯爵令息。
次期当主となる一人息子だ。
既に学園は卒業していることから、ルレイヤとルーシェリアが通う王都の学園で会ったことなどはない。婚約の話が上がった時にはデビュタントもまだだった。
聞けば、卒業してすぐにとある手続きで学園に向かった際に、中庭を歩いている姿を見かけたというものだった。
さすがルーシェリアだと両親は満足そうに話した後、ルレイヤには妹を見習うようにと言ったのを聞こえないふりをする。
真正面から受け止めたら、また傷ついてしまう。
ルーシェリアとマティスの仲は良好だった。
婚約者同士のお茶会に一度だけ同席したことがあるが、太陽の輝きの下で浮かべた妹の笑顔は幸福そのもので。
マティスはルーシェリアを歌劇や室内管楽等に誘い、美術鑑賞へと連れて行き、デビュタントの時にはドレスと自分の色の装飾品を贈っている。
ルレイヤのドレスは叔母のお下がりで、装飾品は祖母が若い頃に使った小さなパールのネックレスだけだった。
だからデビュタントにもいい思い出なんかない。
美しく着飾られて婚約者に伴われた妹と、義務的に兄のエスコートで入場した古いドレスを着た姉。
貴族は察する生物だ。
すぐに姉妹での格差に気づき、妹が溺愛されているのだと判断する。
そこに浮かぶ感情が同情か嘲りかの違いだが、誰もがルレイヤに余所余所しくなり、原因が自分達だと気づかずに家族はルレイヤが内向的だから距離を取られるのだと溜め息をつく。
どうして自分が責められなければならないのかと思いながら、そっと目を逸らした先で、マティスとルーシェリアが二曲目のダンスを踊り始めていた。
コメント
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うわああ…第2話、めっちゃ胸が痛かったです…😭💔 双子なのに扱いの差が歴然で、ルレイヤが「忘れられても仕方ない」って自分を納得させてるシーン、もう読んでてギュッてなった…。 家族に悪気がないから余計にやりきれないですよね。名前の由来とかルーシェリアとの対比も美しいのに、ルレイヤの孤独が際立って切なすぎます… 次、ルレイヤに光が差してほしいなあ…応援したくなります!!✨