「どっちかは、すごく悪いものなの?」
悟の問に、ヨウくんは困り果てた顔で頷く。
「そう。高山がそう言ってた。でも、僕はわからないんだ。同じに見えるんだもん!」
ヨウくんは頬を膨らませる。
「触っても大丈夫なの?」
優月の問いに、ヨウくんはニカッと笑った。
「うん!大丈夫だよ。所有したらだめだけどね」
優月と悟は首をかしげながらも、それぞれ目の前の箱を手に取った。
「見た目より重いね」
優月が言った。
「これ、おもちゃ?」
悟の問に、ヨウくんは首を横にふる。
「ううん。箱って言ってた。中に何か入れるやつ。でも、どっちにも何も入ってないよ」
悟は箱を振ってみた。音はしない。
優月はくるくる回してみた。特に変わった様子はない。
そうして、三人で箱を矯めつ眇めつしていると、羊羹を持った高山が居間に入ってきた。
「お待たせ。おや、ヨウくん。まだそれ考えているのかい?」
「だって全然分からないんだもん!」
ヨウくんは頬を膨らませた。
高山はくすくす笑いながら、三人の前に羊羹の乗った皿を置くと、三人の対面に胡座をかいた。
「それで、二人にも見てもらってるのかい?」
「二人ならわかるかもしれないでしょ?」
高山は優しく笑った。
「そうだね。二人はどう?わかりそう?」
高山の問いに、優月と悟は首を横にふった。
「わからない」
二人の答えに高山はおかしそうにまたくすくす笑った。
「まぁまぁ、そんなの置いといて、羊羹でもどうぞ。」
そう言って高山は羊羹の横に温かいお茶を置いた。
ヨウくんが目の前の羊羹に齧りつく。
ヨウくんは、嬉しそうに頬張りながら優月と悟を見た。
「すっごくおいしいよ!」
「いただきます」
優月が一口に切った羊羹を口に入れる。
甘すぎず、なめらかな舌触りの羊羹に優月も嬉しそうに笑った。
「おいしいね」
悟は、羊羹に菓子楊枝を突き刺して齧る。
「ほんとにおいしい!」
悟も目を丸くした。
「ぼく、あまり羊羹って食べたことないよ。おやつはクッキーとかシュークリームが多いんだ!」
「へぇ〜。洋菓子かぁ。僕、クッキーは食べたことあるよ」
ヨウくんが笑う。
「でもあれ、おいしくない!ボロボロ落ちるし、甘すぎて口の中ベトベトするし!」
べ―っとヨウくんが舌を出す。
その様子に高山が笑う。
「それはそうと、二人はどうしてここに来たの?」
高山が羊羹を頬張る優月と悟に尋ねた。
優月と悟は目を見合わせた。
いつの間にか、優月は神社を訪ねた理由を忘れていた。
ーどうして来たんだっけ?
優月と悟の顔から笑顔が消えた。
悟が真剣な眼差しで、透の事故について話し始めた。
優月は、自分が兄のことを忘れていることに気づいて、心臓がズキンと一度、大きく痛んだ。
「それで、ぼくの代わりにお兄ちゃんがけがをして、動けなくなっちゃったんだ。」
ーそうだった。
優月は思った。
ーお兄ちゃんは動けなくなった。
「インターネットで調べたら、女の人をオハライしたら、お兄ちゃんが元気になるってかいていたんだ。」
ーそうだ。悟くんが調べてくれたんだった。
「だから、オハライをしてもらいたくて来たんです」
ーそうだ。お祓いのために来たんだった。
―どうして忘れているんだろう。
高山が頷いた。
「わかった。お祓いをしよう。」
高山は優しく微笑んだまま続けた。
「悟くんのポケットに入っているキーホルダーと、ゆづちゃんのポケットに入っているハンカチを貸してもらえるかな?お祓いに必要なんだ。」
優月と悟は目を見合わせた。
ーどうして知っているの?
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