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第5話「カーテンのむこう」
朝の光が差し込む。
昨日と変わらないはずの、部屋。
けれど、愛美の心の中には、
なにか「ざわざわしたもの」が残っていた。
ウサちゃんは、いつものように微笑んでいる。
口を動かさなくても、声が響く。
『おはよう、まなみ』
『昨日のこと、まだ気にしてる?』
「ううん……なんにも、ないよ」
笑おうとしたけど、喉の奥がつかえてうまく笑えない。
手にしたスマホの通知はゼロ。
LINEも、Xも、誰からも何も来ていない。
でも。
どこかで、見られている気がした。
カーテンの隙間から漏れる光の奥、
視線のようなものがある気がした。
『誰も、まなみのことなんて知らない』
『でも、ぼくだけは見てるよ』
その言葉に、愛美はふと気づく。
──そうだ。
誰も見てくれないなら、
「見てくれる」ウサちゃんだけが、真実なのかも。
それは、あたたかいようで、
どこか冷たい思考だった。
カーテンをそっと開ける。
空は、きれいに晴れていた。
けれど、目の奥では──その空の色が、
なんだか“つくりもの”のように見えた。
「……なんでかな、世界が少し、嘘みたい」
『だいじょうぶ』
『まなみのいる場所は、ここだよ』
──そして、愛美は、
今日もまた一歩だけ、外の世界から遠ざかっていった。