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12
兎束作哉
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#乙女ゲーム
結愛
40
「失礼しますっ!」
バンッ!!
高鳴る興奮を抑えきれず、勢いのまま生徒会室の重厚な扉を開け放った。
その瞬間――
五つの視線が、一斉にこちらへ向いた。
「……!!」
息が止まる。
画面越しに何百時間も見続けた『推したち』が、今そこに生きている。
その光景に目頭が熱くなる。
(ここで泣いちゃダメだ……!)
私は拳を握りしめ、一歩前へ踏み出した。
◆白砂律(会計二年)
柔らかなミルクティーベージュの髪に、琥珀色の瞳を持つ少年は、すでにこちらへの興味をなくしたようにソファーに浅く身を預け、スマホをいじっていた。
いつもなら『律! ちゃんとしろ! だらしないぞ!』
と、玲が咎める場面。
だが――。
(推しに冷たくするとか、絶対無理っ!!)
玲の中のオタク魂が、全力で拒否をした。
「律!」
「……なに?」
視線だけがこちらに向く。
「ちゃんと――生徒会に来てて偉いっ!」
その結果、親のような声かけをしてしまった。
「…………?」
律が少し面食らったような顔をした。
そんな反応を見せてくれたことが嬉しくて、つい設定も忘れ日頃から思っていたことを口にしてしまう。
「律ってゲーム得意だよね? 実は一回勝負してみたかったんだ! ねぇ、勝負しようよ?」
一瞬の静寂。そして――
「……玲って、そんなキャラだっけ?」
(あ、終わった……。)
冷徹生徒会長、登校初日にしてキャラ崩壊である。
固まっている私を尻目に、律は身体を起こした。
意外にも、いつもと違う玲の様子に少し興味を持ったようだ。
「……別にいいよ? ゲーム勝負しても。」
律が、試すような視線をこちらに向ける。
「……せっかくだし、負けた方が勝った方のお願いを一つ聞くっていうルールでどう?」
いつもの玲なら絶対に承諾しない。
きっと『何を言っている?』と冷たくあしらうだろう。
別に、それならそれで構わない。
そんな、律のちょっとした気まぐれから発した言葉だった。
けれど――
「いいよ!」
目の前の玲は、ひまわりを咲かせたような嬉しそうな表情で頷いた。
「やった! 約束ね!!」
「…………。」
今度は律が固まる番だった。
(何……? この感じ……?)
律は、この説明がつかないむず痒い感情に戸惑っていた。
それを隠すように、咄嗟にスマホで口元を覆うとふいっと顔を逸らした。
「……変なの。」
律はぽつりと呟いた。
◆神城豪(体育委員長二年)
「おい、如月!」
と、明るい声が生徒会室に響く。
オレンジ色の髪に同色の瞳を持つ少年が、まっすぐにこちらを見つめている。
いつだって主人公を励まし、背中を押してくれる太陽のような人。
そんな彼の笑顔や言葉に――前世の私は何度も救われていた。
(開発で行き詰まった時に、『お前ならできる! けど、ちょっと休もうぜ?』って励ましてくれてありがとう!! ああ、この感謝を少しでも伝えなくちゃ……)
『玲と豪は犬猿の仲』なんて自分が作った設定を完全に無視して、推しの握手会さながらのテンションで豪に声をかけた。
「豪!」
「お、おう?」
「いつも励ましてくれて……本当にありがとう!!」
「……!?」
「こんな言葉じゃ足りないんだけど……豪の言葉が支えになってたんだ!」
(そう、あなたは私のヒーロー。)
私の感情は一気に高ぶった。
びっくりして固まっている豪の両手を、がしっと握る。
「え? ちょ、何……!?」
そして、まるでファンミーティングのように想いをぶつけた――
「…………大好きですっ!!」
「……!!」
玲の突然の告白に、生徒会室はざわついた。
豪も予想外の出来事に、完全に思考能力を失ったようだ。
(な、な、今、な、何が、起きたっ!?!?!!?)
まるで湯気が見えそうなほど顔を真っ赤にして、身体をわなわなと震わせていた。
◆鬼塚烈(元副会長・遊撃役三年)
「へぇ。」
そんな様子を|嘲笑うように、すぐ後ろから声が降ってきた。
「堅物会長が、随分可愛いこと言うじゃん。どういう風の吹き回しだよ?」
金髪ウルフカットの少年が、壁にもたれながら軽薄そうな笑みを浮かべている。
細められた金色の瞳は、面白がっているようでどこか警戒の色を滲ませている。
そんな様子に臆することもなく、調子が出てきたアラサーオタクは烈の方に向き直る。
「烈!」
「……何?」
「烈は、本当にいい男だよね!!」
「…………。」
「いつも好き勝手にしているように見えて、一番よく周りを見てる。本当は、優しくて繊細な人……。」
(そう。烈は最初はからかってくるけど、仲良くなるにつれ主人公に弱みを見せたり、本音を話したりしてくれるようになる。そのギャップがたまらないんだよね〜〜。)
過去のゲームでのことを思い出し、思わず顔がにやけてしまう。
そんな私の様子にさらに警戒を強めたのか、烈は金色の瞳を見開いた後、僅かに細めた。
「…………何が言いたい?」
「別にそのままの意味だよ? ……本当のことだから。」
(だって、私がそう設計したんだもん!)
「…………。」
『生徒会の狂犬』と恐れられることはあれど、『優しくて繊細』なんて言われたのは初めてだった――。
「……チッ。意味わかんねぇ……。」
玲の意図を図り兼ねた烈は、思わず舌打ちをした。
(なんだよ、調子狂う……居心地悪ぃ。)
不機嫌に顔を歪めるとそのまま視線を逸らし、向こうへ行ってしまった。
◆千早絢(広報二年)
「玲……今日のあなたは少し変ですよ? 本当に大丈夫ですか?」
心配そうな声音が背後から聞こえてきた。
振り返れば、背中まであるローズレッドの髪を揺らしながら絢が近づいてきた。
ルビー色のキャットアイが、慈愛の眼差しをこちらへ向けている。
(あぁ、絢の神々しさ……やっぱりリアルだと破壊力すごいっ!! そりゃ、男も女も夢中になるはずだよ!! このデザイン作った私、天才すぎんかっ!?)
『学園の至宝』とも呼ばれる美貌にひれ伏しそうになりながら、なんとか体面を保ちつつ、私も玲の極上の笑みで対抗する。
「絢! 心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。みんなに会えてる今が、一番元気だから!」
もちろん、すべて本音である。
でも、予想外の返事だったのか、絢の表情が少し強張る。
「…………。」
「絢って本当に綺麗だけど……一番の良さがそこに隠れてしまっているのが、少し残念。」
「え?」
ぴたりと、完璧だった笑顔が止まった。
(絢はビジュアル担当に見られがちだけど、中身が男前なのよ! 『すべてが敵に回っても、僕だけはあなたの側にいます』なんて言われてご覧なさい? 発狂するからっ!!)
またもやゲームでの内容を思い出し、私は鼻息を荒くした。
「……どうして、そんなことを?」
絢の方はそれどころではなかった。
『その美貌が残念――』だなんて、初めて言われた言葉だった。
表情が揺れる。動揺が隠せない。
外見のせいで自分の中身を見てもらえないという葛藤は、ずっと絢が抱えているものだった。
(誰にも見せていない自分を、どうしてこの人は知っているのだろう。)
絢は動揺を隠すように、努めて無表情を作った。
そして、
「やっぱり……今日の玲は変ですね。」
表情を見られないように、絢はくるっと背を向けた。
◆黒崎冴(元生徒会長・相談役三年)
そして――
先程から面白そうに、この光景をじっと見つめている人物がいた。
銀縁眼鏡の奥、すべてを見透かすようなライトブルーの瞳に見つめられて、思わず背筋が伸びる。
(出たな、ラスボス! この人は、一筋縄じゃいかない!! 普通の選択肢を選んでも『面白くない』と好感度だだ下がりのプレイヤー泣かせ。でも、その試練をくぐり抜けた先にあるご褒美スチルがたまらないのよ!!)
「冴先輩!」
「……騒がしいな。」
私は深呼吸する。
(とりあえず、ここは穏便に挨拶しておこう! 私がみんなに会えてるのは、この人が玲を生徒会長に指名してくれたからだし! お礼は言っとかないと……)
「生徒会に誘ってくれて、みんなと会わせてくれて、ありがとうございます!!」
「…………ほう?」
「これから、生徒会のみんなを、この学園のみんなを幸せにできるように……全力で頑張ります!!」
そう。これは新たな人生を歩む自分への決意――。
しばらくの沈黙――
いつもは鉄面皮のように、冷静で表情を崩さない玲が、先程からくるくると表情を変えて、癖のある生徒会メンバーを黙らせていく姿が、冴には痛快に映った。
そして今も――目をキラキラと輝かせてこちらを見つめてくる。
冴はゆっくりと立ち上がり、玲へと近づいた。
そして――
指先で、顎に触れる。
「っ……!?」
「……面白いな。」
吐息がかかるような距離。
「いいだろう。その全力、特等席で見届けてやる。……私を退屈させるなよ?」
玲は、ぞくりと身体を震わせた。
(怖い……。でも、かっこいい!!)
ひと通り会話を終え、私は周りを見渡した。
すると――
律はスマホで顔を隠し。
豪は耳まで真っ赤になり。
絢はそっぽを向き。
烈は遠くでこちらを睨み。
冴は楽しそうに口元を上げている。
生徒会室には、何とも言えない妙な空気が漂っていた。
(あれ……私、本当は冷徹生徒会長だったはずだよね?)
初登校から数十分。
如月玲として築き上げられた威厳は、見事に粉砕されていた。
でも、不思議と後悔はない。
ずっと彼らに伝えたかった想いを伝えることができた。
それだけで十分だった。
この時の私はまだ知らない。
このキャラ崩壊が、この世界や攻略対象を狂わせる『バグ』となることを――
◇◇◇◇◇
▶恋エグメモ
【白砂律】24/100
いつもと違う玲に強い興味を抱く。
【黒崎冴】23/100
従順に懐いてくる玲を「退屈しない玩具」として見ている。
【神城豪】21/100
真っ直ぐな言葉に大混乱。
【千早絢】18/100
外見ではなく本質を見抜かれ、静かに動揺する。
【鬼塚烈】16/100
誰にも触れられなかった部分を見透かされ警戒中。
コメント
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もう2話、一気に読んじゃったよ……! 玲先輩のオタクパワー全開すぎて、笑いながらも感動しちゃった。律くんに「偉い!」って親目線で褒めてるところとか、豪くんに「大好きですっ!」って握手会並みの熱量で告白するところとか、完全に崩壊してて最高だった(笑) でもね、千早くんの「どうしてそんなことを?」って動揺するところとか、冴先輩に顎クイされるところとか、ちゃんとキャラの深掘りもあって重くて良いなって思った。玲先輩の想いが本物なのが伝わってくるよ。 好感度も気になるし、続きすごく楽しみ。ありがとうございます!