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四月二十日……巨大な亀型モンスターと合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋では……。


「……スゥー……スゥー……」


「はぁ……やっと静かになったわね……」


ミノリ(吸血鬼)は自分の膝《ひざ》を枕にしているコユリ(本物の天使)の頭を撫でながら、そう言った。


「やあ、調子はどうだい? お姉ちゃん」


その時、彼女の背後から声が聞こえた。

彼女は、そのままの体勢でこう言った。


「あのね、ミサキ。今、あたしの膝を枕にしている銀髪天使が言ってたことは、ぜーんぶ嘘《うそ》だから信じちゃダメよ?」


「あはははは、それくらい僕にだって分かるよ。だって、ミノリちゃんとコユリちゃん……全然、似てない

から」


黒髪ベリーショートと水色の瞳が特徴的な美幼女『ミサキ』(巨大な亀型モンスターの本体)がそう言うと、ミノリ(吸血鬼)はポツリとこう呟《つぶや》いた。


「……おかしいわね……。あたしの記憶では全《まった》く似てない姉妹が近くにいるはずなんだけど……」


「ミノリちゃん、コハルと僕が姉妹じゃないと思うのは分かるけど、コハルの前では絶対に言わないでね?」


ミサキは彼女の耳元で、そう囁《ささや》いた。

コハル(藍色の湖の主)のことを……いや、妹のことを悪く言われるのは、やはり気持ちがいいものではないらしい。


「はぁ……分かったわよ。コハルの前で言わなきゃいいんでしょ……言わなきゃ」


「うん、分かってくれてありがとう。ミノリちゃんは優しいね……」


「いや、別にあたしはそんなつもりじゃ……」


ミノリ(吸血鬼)が最後まで言い終わる前に、ミサキは彼女の正面に座ると、こう訊《たず》ねた。


「ところで、さっきコユリちゃんがミノリちゃんのことを『お姉ちゃん』って呼んでたけど、あれはどういう意味かな?」


ミノリ(黒髪ツインテール)は少し苛立《いらだ》ちを露《あら》わにしながら、こう言った。


「知らないわよ、そんなこと。というか、あたしは一人っ子だから、そもそも姉妹なんていないわよ」


「へえ、そうなんだ。けど、さっきのコユリちゃんは明らかにおかしかったよね? あれはどうしてかな?」


「うーん、それはまだ分からないけど、もしかしたら、あたしの『魔力タンク』に溜《た》まってた魔力を直接、自分の体内に取り込んだせいかもしれないわね」


「うーん……たしかにそれはあり得るかもしれないね。けど、こうも考えられないかな? 姉であるミノリちゃんの血液を摂取したことで何らかの方法で封印されていた記憶の一部が解放された……とか」


ミノリ(吸血鬼)は、それを聞くと溜め息を吐《つ》いた。


「はぁ……。あのね、あたしにはこんな腹黒い妹なんていないし、育成所に連れて来られる前だって、両親からそんな話は聞いてないのよ? 今さら妹だって言われても対応に困るわよ」


「へえ、いつもはケンカばかりしてるのに、妹かもしれないってことが分かった途端《とたん》に、しおらしくなるんだね」


「あ、あんたに何が分かるっていうのよ。というか、あたしたちの問題に首を突っ込んでこないでよ!」


彼女の声が部屋中に響き渡ると同時に、コユリ(本物の天使)が目を覚ました。


「お姉……ちゃん……。どうしたの? 何かあったの?」


いつものように真顔で罵《ののし》ってくる気配はない。

コユリ(本物の天使)の金色の瞳には不安げな表情をした自分の姿が映っていた。

それを見たミノリ(吸血鬼)は、半《なか》ば無理やりに笑顔を作った。


「あ、あたしは大丈夫だから、あんたはおとなしく寝てなさい」


「そうなの? でも、今のお姉ちゃん、とっても苦しそうだよ?」


キョトンとした表情でミノリの顔を見るコユリ。

その無邪気《むじゃき》な眼差《まなざ》しは今のミノリにとって、とても辛《つら》いものだった。


「あ、あんたはあたしの心配なんてしなくていいのよ。だから……」


その時、コユリは彼女の両頬に手を添えた。


「お姉ちゃん。無理に笑うのは良くないよ。私が何かいけないことをしたのなら、ちゃんと謝るよ。だから、そんな辛《つら》そうな顔しないで」


ミノリ(吸血鬼)は微笑《ほほえ》みを浮かべたまま、彼女の頭を撫でた。


「ありがとう。あんたのおかげで、あたしは少し元気になったわ。これからどうなるかは分からないけど、あたしと一緒にいてくれる?」


彼女はそう言うと、コユリはニッコリ笑った。


「うん、もちろんだよ。お姉ちゃんと私は、ずーっと一緒だよ」


「ええ……そうね。そうよね……。ありがとう……コユリ」


ミノリ(吸血鬼)は、目尻《めじり》に溜《た》まった涙が溢《こぼ》れ落ちないように頑張った。

それがコユリのきれいな肌を自分の涙で汚すわけにはいかないと思ったからなのか、それとも妹の前で涙を見せてはいけないと思ったからなのかはよく分からなかったが、コユリが眠《ねむ》りにつくまで彼女は微笑《ほほえ》みを浮かべていた。


「……ねえ、ミノリちゃん。これからコユリちゃんとの関係が大きく変わるかもしれないけど、それでもミノリちゃんはコユリちゃんと一緒にいる……。それでいいんだね?」


コユリ(本物の天使)が再び寝息を立て始めた頃、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)はミノリ(吸血鬼)に対して、そう言った。


「……ええ、もちろんそのつもりよ。だって、こんなに無邪気で優しい子を追い出すわけにはいかないじゃない」


彼女は自分の目の下が赤く腫《は》れていることに気づかないまま、ミサキにそう言った。


「なるほどね……。つまり、今日からミノリちゃんはコユリちゃんのお姉ちゃんになるってことだね?」


「え? そ、それはその……。そ、それとこれとは話が別よ。あたしはナオトのことで忙しいし、それにみんなのリーダーとして、しっかりしないといけないから」


「今はそんなことを悠長《ゆうちょう》に考えられない……ってことかな?」


「え、ええ、そうよ。その通りよ。というか、さっきからずっとニヤニヤしてるけど、いったい何なの? あたしのことバカにしてるの?」


「ううん、別にそんなつもりはないよ。ただ……」


「ただ?」


「ミノリちゃんはいいお姉ちゃんになれそうだなって思っただけだよ」


ミノリ(吸血鬼)はミサキから視線を逸《そ》らすと、ポツリとこう言った。


「ふ、ふん、別にあたしはお姉ちゃんになるつもりはないわよ。ただ、せめて、この銀髪天使が元に戻るまでの間くらいは、優しく接《せっ》してあげてもいいってだけよ」


「ふーん、そうなんだー。まあ、そういうことにしておくよ。あっ、そうだ。言い忘れてたけど、ご主人はミノリちゃんが目を覚ます前に『ラブプリンセス国』。ご主人の世界でいうところの『愛媛県』に向かったよ」


「は? ちょ、ちょっと待って。もしかして、ナオトは一人で向かったの?」


「ううん、チエミちゃんと一緒だから、二人で向かったって言った方が妥当《だとう》かな。けどまあ、ここにいないメンバーでなんとかご主人の進行を食い止めてるから、今から行けば間に合うと思うよ」


「はぁ……いざという時のために考えておいたプランが役に立ってるのは嬉しいけど、どうしてナオトは、あんなところに向かったの?」


「あー、うん、なんかご主人の世界だと、そこが故郷《ふるさと》みたいだから、この世界での故郷《ふるさと》がどうなってるのか見に行くー! とか言ってたよ」


「あのバカ……。自分が賞金首だってこと完全に忘れてるわね……。はぁ……ねえ、ミサキ、一つ頼まれてもらえないかしら?」


「うん、いいよ。コユリちゃんのことを見てればいいんだよね?」


「気持ち悪いくらい察《さっ》しがいいわね。まあ、そういうことだから、あとは頼んだわよ」


「うん、分かった。それじゃあ、気をつけてね」


「別にあんたに言われなくても、そうするつもりだけど、まあ、その……ありがとう」


「うん、どういたしまして。さぁ、早くしないとご主人に追いつけなくなるよ」


「……それもそうね……。じゃあ、いってきます」


「うん、いってらっしゃい」


ミノリ(吸血鬼)はそう言うと、コユリをミサキに預けた。

そして、アパートの二階にある廊下から、大空へと飛び立った。


「……さてと、今のところ嫌な予感はしないけど、一応、警戒モードにしておこうかな……」


ミサキは、自分の外装(巨大な亀型モンスター)を警戒モードにすると、コユリの寝顔を眺《なが》めることにしたのであった。



その頃……ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)とチエミ(体長十五センチほどの妖精)は……。


「ふぅー、ここまで来れば追ってこないだろう」


ナオトは気持ち良さそうに空を飛びながら、そう言った。

すると、彼の髪の中からヒョコッと顔を出した者《もの》がいた。

妖精型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 十五『チエミ』である。


「まったく、ナオトさんは相変わらず無茶ばかりしますねー。ナオトさんを止めようとしてくれた皆さんをいっぺんに相手するなんて……」


彼はニコニコ笑いながら、人差し指で頬を掻《か》いた。


「いやあ、それほどでもー」


「あっ、今のは褒《ほ》めてませんから、勘違いしないでくださいね?」


「……えっ? そうなのか?」


「はい、そうです」


「そ、そうか」


容赦なく自分の意見を述べて、彼のテンションを下げるチエミ。

しかし、これはわざとではない。これがチエミなのである。


「ところでさ『ラブプリンセス国』って、どんなところなんだ?」


彼はすぐに立ち直ると、チエミにそう訊《たず》ねた。


「えーっとですね。私も噂《うわさ》でしか聞いたことがないんですけど、とてもいいところらしいですよ」


「とても……いいところ?」


「はい、そうです。オレンジ色の果実『ミッカン』の種類は豊富で漁業や養蚕、真珠なんかも有名ですね」


「お、おいおい、俺のいた世界とほぼ同じだぞ、それ」


「え? そうなんですか? でもシンボル的なものは何もありませんよ? 『ミッカン』の生産量は『ヤングマウンテン国』に負けてますし……。知名度だってまだ低いです」


「おいおい、そんなことないだろ。今○タオルとか『千と千○の神隠し』に登場する『油屋《ゆや》』のモデルになった『道○温泉』本館とか、一部の地域のみ開催される『十歳式』またの名を『二分の一成人式』とか色々あるだろ。あっ、ついでに言っておくと、アニソン界の女王……いや、プリンセスとまで呼ばれるようになった『水○奈々』さんの故郷《ふるさと》でもあるぞ。うーん、けど、この世界では知名度が低いのか。なんか悲しいな」


彼が少しだけ落ち込むと、彼女はふと何かを思い出した。


「あー、でも最近、その国にモンスターが大量発生していて、国民たちは仕事をしようにもできない状況にあるそうですよ」


「何? それは本当なのか? チエミ」


「はい、私の風魔法にかかれば、リアルタイムで情報を手に入れることなど朝飯前です!」


チエミはドン! と胸を叩いた。

そして、ムフー! と自慢げに鼻息を吐いた。


「なるほどな。じゃあ、とりあえず行ってみるか。俺の世界でいうところの『愛媛県』に!」


「はい! それこそ光の速さで突っ込む勢いで!」


「おいおい、それじゃあ、何回か通り過ぎちゃうだろ」


「それもそうですね」


彼女がそう言うと、二人はしばらくの間、笑い合っていた。

まあ、この後、メイド服(?)っぽい服と黒髪ツインテールと黒い瞳が特徴的な吸血鬼がジェット機並みの速さで彼らの前に現れるのだが。

ダンボール箱の中に入っていた〇〇とその同類たちと共に異世界を旅することになった件 〜ダン件〜

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