テラーノベル
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「頑張ってる」なんて、誰にも言ってもらえなかった。世界でたった一人、この人だけが自分の努力を見ていてくれたような気がして、柊吾は目頭が熱くなるのを必死に堪えた。
「そんなことはないですよ。僕なんかよりもっと大変な人はたくさんいると思うし……。全然ダメなんです。今日も母が粗相をして、頭では怒っちゃダメだってわかってたんですけど、カッとなって酷いことを言ってしまって……。でも……、ありがとうございます……。黒瀬さんに話すと、すごく心が軽くなります」
「それは良かったです」
瑞樹はフッと優しく微笑むと、手すりに置いていた煙草を灰皿で消し、ポケットからスマートフォンを取り出した。
「あ、そうだ。柊吾さん、良ければLINE交換しませんか?」
「え……? らいん、ですか?」
「ええ。これからの時期、梅雨本番で大雨の日も増えますし、ベランダに出て話すのも難しくなるでしょう? 豪雨だと雨音で声も聞こえづらくなりますしね。それに『要支援2』がついたなら、これからケアマネジャーとの面談やデイサービスの選定なんかも始まります。何か困った時に、LINEの方がすぐ連絡が取れて安心かなと思いまして」
言われてみればそうかもしれない。今だってベランダに出られないほど酷い雨の日はあるが、梅雨末期の豪雨が続いたら相談できる機会は減ってしまう。そんな夜でも、この人と話せる――そう思った瞬間、柊吾の胸は大きく高鳴った。断る理由なんて、どこにもなかった。
柵越しに互いの画面をかざし、QRコードを読み取る。画面に表示されたのは、『黒瀬瑞樹』というシンプルな名前と、どこか景色の写真が設定されたアイコンだった。
「これで、雨の日でもいつでも連絡してください。夜中でも、母さんのことでパニックになりそうになったら遠慮なく投げてくれて構いませんから」
「そんな、黒瀬さんの仕事の邪魔になっちゃいます……っ」
「いいんです。僕が好きで言っていることですから」
自由気ままに言い切る瑞樹の言葉に、柊吾は「あ……」と声を詰まらせた。
(好きで……言ってる……?)
湿った夜気のせいか、それとも瑞樹の低く優しい声のせいか。ドクン、と胸の奥で小さな跳ね返りがあった。それが何という感情なのか理解できないまま、柊吾は赤くなった顔を誤魔化すように慌てて頷いた。
「じゃあ……お言葉に甘えて、よろしくお願いします……!」
「ええ。では、おやすみなさい。柊吾さん」
ひらひらと手を振って部屋の中へ戻っていく瑞樹の背中を見送り、柊吾もサッシを閉めた。
自分の部屋に戻っても、胸のドキドキが収まらない。ベッドに腰掛け、画面に表示された『黒瀬瑞樹』の名前をそっと指でなぞる。
(LINE……交換しちゃった……)
雨の音だけが響く静かな部屋で、冷たい暗闇にずっと一人だった自分にできた、初めての「味方」。画面に浮かぶ緑色のアイコンを見つめながら、柊吾は小さく息を吐き、抱きしめるようにスマホを胸元にぎゅっと挟み込んだ。
そあふぃー
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コメント
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「頑張ってる」って言われた瞬間の柊吾の気持ち、すごく伝わってきた…。ああいう一言がどれだけ救いになるか、わかる人にはわかるんだよね。LINE交換のシーン、瑞樹さんの「好きで言ってる」って言葉にどきっとしたのも柊吾と同じ気持ちになったわ。冷たい雨の夜にできた初めての味方、スマホをぎゅっと抱きしめるラストが胸に沁みた。かんなさんの心情描写、今回もめちゃくちゃ丁寧で刺さりました🔥