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朝早くウルトは宿の自身の部屋で身支度をしていた。普段商談の予定などが入っていない限り朝は起きず昼過ぎまで寝ているウルトだが、今日は朝からご機嫌だった。

それもそのはず、2日ぶりに最愛の弟ユリウス・ユークリウス、そしてヨシュア・ユークリウスに会えるからだ。

ヨシュアは正確に言うとウルトの実弟ではないが、弟の義弟は実の弟と変わらないという思考回路を持つウルトにとってはユリウスと同じくらい大切な人であり最愛の人間なのだ。

しかし、ウルトにはずっと考えていることがある。それはユリウスたちへの接し方だ。

普通の兄弟ならば兄弟らしく無邪気に何も気にせず接すればいいだろう。

しかし、ユリウスには幼少期共にすごした時期のウルトに関する記憶は無い。

そのため、変に距離を縮めて接すれば不審に思われてしまうだろうし、自身に対する好感度が落ちかねない。

そのため、ある程度フレンドリーに、しかし年上らしい口調を気をつけながら本人は話しているつもりなのだが、どうも根本的な理由で中々難しいのである。

何故かというと、彼の容姿があまりにも幼すぎるのだ。

彼の実年齢は27歳なのだが、彼の容姿は12歳ほどにしか見えないのだ。

これにはわけがあり幼い頃に少し特殊な魔獣に襲われ、そのせいで襲われた時の容姿や体型が一切成長しなくなってしまったのである。

まぁ、そのおかげなのか、彼がユリウスと血縁があると疑われたことは1度もない。

「……よしっ…」

ウルトは自身が普段からよく着ている服を着用しお手製のローブを羽織った。

ウルトの着用する服は真っ白なワイシャツに黒のベストそして黒のリボンにズボンはハーフパンツスタイルの燕尾服だそして、黒いソックスガーターと黒いレースアップブーツを履いている。その上からウルトが少し手間をかけて作った自分お手製の黒いローブコートを羽織る。

このローブコートにはウルトが毎日少しずつ自身のゲートを通じてマナを送りいざという時のために貯めているのだ。他の服もウルトが作ったものだが、多少伸縮性や耐久性関連の付与はしているが、毎日少しずつマナを送っているものはこれだけだった。

ウルトは脱ぎ散らかした浴衣をたたみ、既にたたみ終わり重ねていた布団たちの上に置いた。

コンコン、と窓を何者かがつつくようなノックするような音がした。

ウルトはそれが何者なのかをわかっていたため焦らずにゆっくりと窓を開けた。

「ホー!」

「おはよう、ツク」

窓をつついていたのは相棒兼ペットのミミズクのツクだった。

正確にいえばツクはミミズクではなく、かなり上位の精霊らしいのだが、本人にとってはユリウスやヨシュアと同等の尊い命なのだ。

「フッフルッフ〜」

ツクはウルトに頭を撫でられ気持ちよさそうに鳴いた。

「っと、いけない!いけない!もう既に遅刻してるのにこれ以上遅れたらどんな要求されるかわかったもんじゃない!早く行かないと!」

「ホー!」

ツクが肩に乗ったのを確認し、ウルトは部屋を後にした。

ーーーーーーーーーー

同じ宿のとある一室、その部屋ではこの国の重要人物といえる人物ばかりが集まっていた。

王選候補者の1人、プリステラを代表する大商人のアナスタシアその騎士であるユリウスそしてその義弟であるヨシュア。

王選候補者の1人、銀髪のハーフエルフのエミリアその騎士であるスバルそしてスバルと契約した大精霊であるベアトリスそしてエミリア陣営の内政官であるオットー。

王選候補者の1人、他の王選候補者より少し遅れて王選候補者になったフェルトそして現在の剣聖でありフェルトの騎士であるラインハルト。

そしてーーー

「遅くなりました、私たちが最後のようですね。」

そう言い、部屋に入ってきたのは王選候補者の1人であるクルシュとその騎士フェリスだ。ちなみにクルシュ陣営にはもう1人先にこの部屋にいたヴィルヘルムという剣鬼と呼ばれた男もいる。

「いや、そうでも無いんよ。あと一人来るはずなんやけど…」

「ギリセーフ!!いやー危なかったー!」

そう言いウルトは部屋に滑り込んだ。

「残念、時間内に来てしもうたかぁ。遅れて来はったら色々とお願いごとしようと思っとったんやけど」

「お願い事って…、そんな可愛らしいもんじゃないでしょ…」

「あの、そちらの方は?」

2人の親しげな様子を見たクルシュが尋ねた

「この子はウト君、こんな小さいけど天才錬金術士なんよ!」

「ちょっ!?こんな小さいけどって何!?」

ウト、というのはウルトが普段からよく使っている偽名の一つだ他にもウルなどと呼ばれていたりする

「まったくあなたは、初めての方々には挨拶からですよウト様」

「ウト様、今日も元気そうでなによりです」

ウルトは2人の声を聞きパァと表情が明るくなった

「おっはよー!!!2人共!相変わらず今日も顔が良いねー!!もう2人の顔で世界平和目指せるよ〜!もう最高!顔面国宝!!」

「ちょっと抱きつきに来ないでください!朝からなんですか!?兄様の顔ならまだしも自分の顔じゃ無理ですよ!」

「大丈夫大丈夫、武力でゴリ押すから」

「それはもう平和から離れてませんか!?」

「ふふっ、それよりウト様からも自己紹介をされた方がいいのでは?」

「ウトでいいって言ってるのに…。えーと、先程紹介されたようにこの国を旅しながら錬金術師として活動してます。ウトやウルなどと呼んでいただけると嬉しいです。武器や魔道具などの制作付与などはお任せ下さい。知り合い料金で多少はお安くしますよ」

そう言いウトは右手でお金のマークを作りニコッと笑って見せた。

「まぁ、知っとる人もおると思うけど一応ウチがここにおる人の事紹介するわ。まずはそこの子が……」

紹介が終わりーーー

「なるほど〜、ここに王選候補者の方々が5人中4人も集まってるんですね〜。」

「お前知らなかったのかよ!?」

「ふふ、あまり政治には詳しくなくて」

「一応商売やってんのなら知っといた方がいいだろ…」

「別に商売が好きなんじゃないんですよ、作るのが好きなんです。たまたまそれを欲しいって人がいるから打ってるだけで、別に僕は無料であげてもいいんですよ、ただそれじゃ納得して貰えなくて」

「まぁ、タダより高いもんは無いからな」

「………久々に聞きましたね、それ(ボソッ)」

「ん?なんか言ったか?」

「いえ、というかナツキさんってやっぱり…」

「?」

「なんでもないです。それより、アナスタシア様さっきからシュアくんの顔が見えないんですけど」

「あぁ、ヨシュアには大正門に手紙を届けに行って貰ってるんよ」

「流石シュア君っ!頼りになる〜!」

「お前、変わってんな」

「ナツキさんに言われたくないでーす」

「さてと、そしたらっ運び込んでくれるー?」

そう言い、アナスタシアが手をパンパンと2度叩くと宿の女将さんたちが朝ごはんらしきものを運んできた

みんなが席につくと女将さんたちがテーブルの上蓋のようなものを開けた。するとその下には鉄板が仕込まれていた。運び込まれてきた材料、そして鉄板を見てスバルは声を上げた

「こ、これは…!」

「今日の朝食は!カララギの国民的な伝統料理!大すき焼きや!」

「お、お好み焼きだと〜!?」

そう言い驚愕するスバルの真反対の机、ユリウスの隣の席でウルトは目を輝かせていた。

「こ、これが…お好み焼き…!!」

「大すき焼きやで!」

そう言い、アナスタシアは見事形を崩さず大すき焼きをひっくりかえして見せた

「おおっ!」

「流石ですアナスタシア様」

「当たり前やろ!ウチが大すき焼きどれだけ焼いてきたと思うてるん!」

ちなみに反対の机ではーー

「ふんっ!」

エミリアがお好み焼きをじっくり見つめひっくり返す、すると上手くひっくり返ったのか嬉しそうに目を輝かせてスバルの方を見た

「スバル見て!綺麗にひっくり返せたの!自信作だわ、食べて!」

ベアトリスは焼けた大すき焼きに大量のソースをかけながらスバルの方を見た

「まぁまぁ上手くできたかしら。スバル、せっかくだからベティが焼いてあげたこの大すき焼き食べさせてあげてもいいのよ」

その二人を見ていたオットーがワナワナと震えながら立ち上がった

「ベアトリスちゃん…いくらなんでもソースかけすぎ!!エミリア様も!生焼けはお腹壊しますから!」

「まずは2人とも、自分で味見してから人に勧めようかぁ」

「モグモグ…エミリア陣営ではあのオットー君という子がお母さんしてるのかい?」

「してませんから!」

「よしっ!いっちょ僕もやってみますか!」

そう言いウルトも立ち上がり大すき焼きを焼き始めた。

数分後ーー

ウルトの焼いた大すき焼き、もとい大すき焼きになるはずだったものはプスプスと音を立てて真っ黒になっていた

「…お…おかしい……」

「ま、まぁ、元気出せよ?」

「薬の調合はミスしたことないのに……」

「今までの薬は偶然の産物だったんと違う?」

「そんなことない……よ!多分!」

「一気に自信ないなったなー」

「まぁまぁ、アナスタシア様もそんなにからかうものでもありませんよ。もし良ければ私が食べるのを手伝いましょうか?」

「それはダメ!こんな産業廃棄物ユーリ君に食べさせるわけにはいかない!」

「自分で作ったもんを産業廃棄物とか言うな」

「全くナツキさんは素直じゃないなぁ、そんなに欲しいんなら欲しいって言いなよ」ズボッ

「ムグッ!?お前人の口に勝手に入れんな!!てか苦っ!?ホントに同じ食いもんかよ!?」

「わっ、失礼だよナツキさん。バツでもう一個ね」ズボッ

「ムゴッ!?ホントに死ぬ!マジやめろ」

「あはは、君は面白いね〜」

「スバルったら!私が作ったのは食べないのにウト君が作ったのは食べるのね!」

「ホントなのよ!ベティのも食べるかしら!」

「ちょっ、2人共落ち着いて…モゴッ!? 」

「どう?スバル美味しい?」

「感想を聞かせるのよ!」

「あぁ、…うん…ぅまいよ……」

「あはは、ナツキさんっすごい顔〜」

「うるせぇな!お前も食えや!」

「ムグッ、モグモグ、うん、普通に美味しいじゃん」

「は?」「へ?」とスバルとオットーから困惑の声が上がった

「あぁ、そういえばウト君はなんというか舌が特殊やったね……」

「失礼な、普通だよ」

「まったく!三人ともラインハルト様を見習ってください!」

そういいラインハルトの方を見ると大すき焼きのタワーができていた

「フェルト様、次が焼けました」

「おぉ〜、じょーずじょーずその調子でガンガン焼けよー」

「くっ!流石cv中村悠一の男っ!」

「おいやめろ、メタいぞ」

ふとスバルがヴィルヘルムの方を見るとヴィルヘルムは丸焦げになった大すき焼きを見ながら険しい顔をしていた

「なんか、見ちゃいけないものを見た気分だな…」

【プリステラ市民の皆さん、おはようございます。気持ちのいい朝ですね】

ウルト達が話をしている頭上で声が響いた

「んあ?なんだこりゃ?」

初めて聞くスバルやフェルト達は手を止めて不思議そうな顔をした。

「この街の毎朝のお約束。都市庁舎のミーティアを使った放送なんよ。」

「ミーティアの放送…。」

「毎日放送があるのですか?それは何のために?」

不思議そうな顔をして問いかけるクルシュにユリウスが答えた

「有事のための備えと聞いております。この都市の構造上緊急時の避難経路が限られていますので。」

「ふーん。にゃるほどね」

「ちなみに、この放送の提案者もミーティアの提供もキリタカさんだそうです。」

【ここからは、リリアナ・マスカレードの出番ですぃぃぃぃ!!】

「あー、これ本人だわ(呆)」

【皆さんどもです!リリアナですよ〜!めいいっぱい歌って奏でて楽しませたい所存ですのでこの短い一時を皆さんもぜひぜひ楽しんでもらって応援よろでーす!】

【では、歌います。聞いてください。剣鬼でんか第二幕!】

「んっ!?、ばっ…」

スバルが一瞬焦った顔をした。それもそのはず剣鬼とはこの場にいるヴィルヘルムの事だからだ。

【街の離れの〜♪】

その場にいた全員の顔が自然と柔らかくなった。なんとなくウルトはそう感じた。歌が人を癒すもの、というのは彼が教えてくれたことだから何となくウルトも知っていた。だからなのか、ほんの少しだけ、ほんの少しだけだが、彼にはもう会えないと言う事実が寂しくなった

「……ラインハルト、その…だな…」

「はい、なんでしょうか」

「うまく、焼けそうにない。コツがあれば、教えて貰えないだろうか」

ラインハルトの表情は少し驚いたような表情をした後、ふっと柔らかい表情に変わった。

「はい、分かりました。お爺様。」

ラインハルトはヴィルヘルムの隣まで移動し大すき焼きを焼き始めた。ヴィルヘルムはそれをじっと見つめていた。その場にいた全員がその2人の様子を静かに見守っていた。

しかしその静寂は突如として破られた。

「そりゃあないぜ、今更都合が良すぎるんじゃないか?」

ある一人の男によって。

異世界転生してしまったのでとりあえず弟を愛すとこから始めます

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