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夏の終わり、校庭の木々は赤や橙に染まり始めていた。文化祭の余韻も冷めやらぬまま、二学期が始まる。彩乃は陽翔との距離を意識しつつも、どこか踏み出せない自分に苛立ちを感じていた。
そんなある日、クラスに新しい友人が加わった。高橋里奈は明るく社交的で、陽翔ともすぐに打ち解ける。
「陽翔くんって、本当に優しいよね」
「うん、彩乃ちゃんも同じくらい写真が上手で…」
彩乃はその会話を聞きながら、胸がざわつくのを感じる。里奈の笑顔に、陽翔が楽しそうに応える姿が、どこか遠くに感じられた。
ある放課後、彩乃は写真部の部室で一人、展示用の写真の整理をしていた。そこへ陽翔がやってきた。
「彩乃、これ見て」
差し出されたのは、里奈が撮った写真だった。
「…ありがとう」
彩乃は短く答えたが、どこか冷たい口調になってしまう。陽翔はそれに気づかず、無邪気に笑っている。
翌日、彩乃は陽翔と話すタイミングを逃し、言いたいことを胸にしまったまま学校を後にする。
「どうして、あんなに素直に話せないんだろう…」
彩乃の心はもやもやとした迷路に迷い込んでいた。
数日後、陽翔もまた彩乃との距離を感じていた。彼は何度も声をかけようとするが、彩乃が少しよそよそしい態度を見せるたび、どうしていいかわからなくなる。
「彩乃…ごめん、何か気に障ること言った?」
「ううん、別に…」
その短いやり取りが、二人の間に小さな壁を作ってしまった。
秋風が吹く校庭で、彩乃は思う。
「私、自分の気持ちに正直にならなきゃ…でも怖い」
初恋のもどかしさと、すれ違いの切なさが混ざり合う季節。二人の距離は、ほんの少しだけ遠くなったように感じられた。