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数日後、来春の就職に向けた企業説明会が開かれた。大教室の棚田のような机に座ると教卓両脇に各学科の教授陣が並んだ。勿論、その中に井浦教授の姿もあった。
「え、誰、あれ」
「カーネルサンダース」
「うっそ、イケオジじゃん」
井浦教授はベージュの帽子を被っておらず、濃灰のスーツに黒い革靴、髪はオールバックに撫で付けていた。これまで「カーネルサンダース、ださーー」と眉間に皺を寄せていた女子生徒たちもざわついた。
(ーーーー眼鏡、眼鏡を外した顔を見てみたい)
私の煩悩に塗れた視線に気が付いたのか井浦教授が振り向いた。私の右隣は男子生徒でパンフレットに肘を突いてボールペンを回し、左隣の生徒は机に突っ伏していた。視線が絡み合い井浦教授の口元が緩んだ、やはり私を見ていた。
(ーーーーえ、なんで、なんで)
耳から心臓が飛び出しそうになり頬が赤らんだ。
(ちょ、ちょっと待って)
思わず視線を膝に落とし恐る恐る顔を挙げて見ると、井浦教授は素知らぬ顔で脚を組みパンフレットのページを捲っていた。その指先は赤や黄色の油絵具に塗れ、パイプ椅子に座っている男性が紛れもなく井浦教授である事を示していた。
(ーーー井浦教授の指に指輪はない)
いつものゆったりしたTシャツやチノパンツの下には予想外の肢体が隠され、その二面性に強く惹かれた。
(ーーーあ、あの顔)
そして時折見せる少し気怠げな表情は魅惑的だった。