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ストーリーがよくて、考察も出来そうな物語だと思いました!続き楽しみにしています!
久しぶりのノベル連載です! 1話を大体5000字程度を目安に書いていこうと思ってるので、気軽に読みやすい連載になると思います😚 この作品の注意点⤵⤵⤵ ・1部キャラクターの名前が途中まで異なります。
_あらすじ_
_普通の社会人だった天馬司は、ある日突然行方不明になってしまった妹、咲希を探すために奮闘していた。
行方不明になってから2年後、ようやく咲希がとある場所にいることを突き止める。
しかし、そのとある場所とは、怪しげな宗教団体が運営する巨大な施設だった_
Episode.1/楽園
街から、社会から隔離されたような場所にあったのは、真っ白で巨大な施設だった。
(ここに、咲希が……)
思わずグッと拳に力が入る。
「歓迎いたします。中へどうぞ。」
オレをここまで案内してくれた信者が扉を開け、中へオレを招き入れた。
内にある緊張と不安を悟られないよう、堂々と中へ足を踏み入れる。
(うわぁ……)
建物の内部はどこもかしこも真っ白で、見ているだけで気が狂いそうだ。
そのまま信者に着いていくと、少し重厚そうな扉の部屋に案内された。
中へ入ると、そこには白い袋を被った人(?)と、隣に立っている男が1人いた。
白い袋を被った人(?)は、部屋のど真ん中にある椅子に座っている。
(な、なんか異質だな……大きなてるてる坊主みたいだ…)
緊張した面持ちで硬直していると、隣に立っている男が笑顔で話しかけてきた。
「初めまして、天馬司さん。貴方を歓迎します。」
男は笑っているが、どこか笑っていない。
男は更に続ける。
「ここは魂を救済する場所。貴方の過去も罪も、全てをヒガタト様が赦し、救済するでしょう。」
なんとまぁ、胡散臭いセリフだろうか。
(ヒガタト様……それが、この宗教が信仰している教祖か?)
「ここには様々な規則が存在します。後ほど纏めた紙をお渡ししますね。」
ニコニコと貼り付けたような笑みを浮かべていた男が、少し視線を鋭くした。
「さて、それでは入信にあたり、最終審査をさせていただきます。」
最終審査……と聞き、少し身構える。
ここで落ちるわけにはいかない。
オレが身構えていると、男は白い袋を被った人(?)の横に跪いた。
「ヒガタト様、ヒガタト様。この者は家族になるに値しますか?」
しばらく、部屋は静寂に包まれた。
“ヒガタト様”と呼ばれた人(?)は、微動だにしない。
(もしや……これは落ちるのでは…?)
そう不安に感じ始めた時、ヒガタト様の右手が微かに意志を持って動いた。
それを見た男は静かに立ち上がり、オレの所に歩み寄る。
そして、オレに向かって手を差し出した。
「ようこそ。今日から貴方も、我々の家族です。歓迎します。」
オレは素直に差し出された手をとった。
「ありがとうございます。」
男と握手を交わすと、男がまたニコニコと話し始める。
「天馬司さん、今持っているものを全てお出し頂けますか?」
心臓がドキッと跳ねた。
(持っているもの全部…スマホもってことか?中身を見られるとマズイんだが…どうするか…)
必死に頭を働かせていると、男が一瞬真顔になった。
「貴方のためです。お出しください。」
その圧に負け、オレは素直に持っていたもの全てを差し出した。
男はそれを受け取ると、オレが出したスマホと時計を床に落とし、勢いよく踏みつけた。
「?!」
真っ白な部屋に、大きな破壊音が響き渡る。
オレは画面が粉々になったスマホと時計を唖然と見つめた。
そんなオレのこともお構い無しに、男はまたニコニコと笑顔で話し始める。
「ここにそんなものは必要ありません。貴方には我々”家族”がいますから。」
背中にどうしようもない悪寒が走った。
ここはおかしい。異様だ。
しかし、オレはそんな恐怖心を抱いているのを悟らせまいと、必死に平静を装った。
男は少し間を開けてから、オレに部屋から出るよう促した。
オレはそれに従い、素直に部屋から出た。
部屋の外には、ここまで案内してくれた信者が待っていた。
「貴方の部屋へ案内いたします。こちらへどうぞ。」
案内された部屋は、やはり真っ白な空間だった。
1面真っ白な床と壁に、ベッドと机、椅子と棚のみが置かれている。
(精神がおかしくなりそうだな…)
オレはひとまず、部屋を調べることにした。
盗聴器や監視カメラが置いてあっても不思議では無いからだ。
10分ほど捜索したが、部屋にそれらしきものは見当たらなかった。
…というか、そもそもさっき述べた家具以外は何も無かった。
オレはとりあえず、ごろんとベッドに寝転んでみる。
早速、さっき信者の人からもらったここでの規則が書かれた紙に目を通すことにした。
以下は、紙に記されていた規則を抜粋したものだ。
『原則として、我々は皆家族であり、一切の裏切りを許さない。
信者はヒガタト様を崇め称え、気軽にその名を口にすることも慎むこと。
ここはヒガタト様によって生み出された楽園である。
いつ寝ても、起きても良い。何をしても良い。何を食べても良い。誰も咎めない。
ここは楽園である。
ヒガタト様は信者の幸せと、家族の繁栄を第一に想っておられる。
故に我々もヒガタト様を崇め、称え祀るのだ。』
(……なんか、よく分からん…)
オレは紙を棚の引き出しに仕舞い、またベッドに転がった。
(ヒガタト様…が、多分あれだよな。あのてるてる坊主みたいな座ってた人。…あれ、人なのか?)
オレはさっき見た、白い袋を被って座っている異質な人(?)を思い出した。
あれが動いていたのは、隣の男に最終審査を促された時のみだ。
それも、右手が微かに動いた程度で、それ以外は微動だにしていなかった。
(若干頭(?)が傾いていたし…なんか、思い出すほど異質だな…)
そんなことを考えていると、ふいに部屋の扉を叩く音がした。
「は、はい!どうぞ!」
反射的にそう答えると、ガチャッと扉が開かれた。
扉を開けたのは、ここまで案内してくれてたさっきの信者さんだ。
「お休みのところ失礼します。説明し忘れていたことがありましたので、お伝えに参りました。」
信者さんは一礼し、そのまま続ける。
「ここは好きな時に好きなことをして良い場所で御座います。例えば、お食事でしたら食堂が24時間開いておりますので、いつでも、なんでも好きなだけ召し上がってください。こちら、この棟の地図になります。」
信者さんは地図を差し出し、更に続けた。
「地図を見てくださったら分かります通り、ここには様々な施設が備えられております。例えばサウナ、エステ、温泉。これを利用できるのは招待券がある方のみですが、水族館や遊園地も御座います。」
水族館や遊園地…と聞いて、驚いきながら地図を確認する。
すると、棟から少し離れた場所に、本当に水族館と遊園地の記載があった。
(な、なんちゅう施設だ……)
他にもよく見てみると、生活していく上で必要なものも、娯楽も揃っている。
ここに唯一無いものは、外の世界…社会との繋がりだけだ。
これはここから出たくなくなってしまうかもしれない、と思い、少し恐ろしくなった。
「天馬様も、いつでも気軽に好きなことをなさって下さい。もし何か分からないことがあれば、私や、他の家族の方にお尋ねください。我々家族は、必ず貴方の力になります。」
信者さんは胸に手を当て、柔らかい笑みを浮かべた。
「は、はい!ご丁寧に、どうもありがとうございます。」
礼を伝えると、信者さんは丁寧に会釈して、部屋から出ていった。
(ふぅ……)
もう一度地図を見てみる。
とりあえずは、この施設のことを調べたい。
まずはこの棟の探索からだろう。
オレは地図を持ち、廊下に出た。
(まずは……1番近いし、食堂から行くか。)
食堂はとても広く、普通の体育館かそれ以上の大きさだった。
しかし、相変わらず壁も床も、机も椅子も真っ白だ。
(何か食べるか……いや、食べて大丈夫なのか?洗脳作用のある何かとか、クスリ盛られてたりとかしないだろうか…)
しかし、食べねばこれから生活するのが困難になるだろう。
しばらく迷った末、オレはカットされたフルーツを食べることにした。
なんとなくだが、まだ安全そうに感じたからだ。
注文は食券制で、券売機があった。
しかし、その券売機にお金を入れる所は無い。
(凄いな…本当に、何も支払わずに食べられるのか。)
カットフルーツは、食券を提示してすぐに出てきた。
(さて、どこに座るか…)
食堂全体を見渡してみる。人はまばらで、席はたくさん空いている。
(…誰か、話せそうな人は作った方がいいよな。あわよくば、オレと似た目的でここにいる人…とか、)
そんな都合よく見つかるわけは無いが、とりあえず誰かと話してみようと思った。
しばらく考え、なんとなく窓際の席に座っていた男性に目をつけた。
(…あの人に声掛けてみるか。)
「すみません。相席いいですか?」
フルーツを持ちながら近付き、そう声を掛けてみた。
男性は少し驚いたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「えぇ、もちろんです。どうぞ。」
その笑顔と言葉に安心し、腰を下ろした。
(この人……横から見たら分からなかったが、髪の毛がツートンカラーだ…)
そして、かなりの美形だ。整った切れ長の目に、目元のほくろが色気を感じさせる。
男のオレでも思わず見とれてしまうほどに綺麗だ。
「最近入信された方ですか?」
見とれていた所に声を掛けられ、驚いて挙動と声が大きくなってしまった。
「は、はい!!今日からです!!」
オレの勢いが面白かったのか、男性は口元に手を当てて微笑した。
少し恥ずかしくなり、頬が熱くなるのを感じる。
「今日から…なら、分からないことも多いでしょう。俺で良ければ、ここを案内しましょうか?」
「い、いいんですか?ぜひお願いします!」
勢いよく頭を下げると、また男性は優しく笑ってくれた。
(優しそうな人で良かった…!!案内してもらえるのはありがたい!)
「オレは天馬司です。よろしくお願いします!」
名前を述べ、男性に手を差し出して握手を求めた。
すると男性は少し考えてから、握手に応じた。
「…柏木夏斗(かしわぎ なつと)です。よろしくお願いします。」
自己紹介を終えて握手を交わし、もう少し親睦を深めようと試みる。
「柏木さん、何を飲んでるんですか?」
「あぁ、これですか?緑茶です。」
柏木さんは緑茶を口に含み、オレに質問した。
「天馬さん、コーヒーはお好きですか?」
(こ、コーヒー…?緑茶とかではなく、急に何故コーヒー…)
少し疑問に思ったが、素直に答える。
「飲めないという訳ではありませんが、好んでは飲みません。」
微かにだが、柏木さんが笑ったような気がした。
「そうですか。でしたら、ここのコーヒーは飲まないことをお勧めします。」
柏木さんは更に続ける。
「まぁ…何もかも忘れて楽になりたいのなら、飲んだ方がいいのかもしれませんけど。」
その言葉を聞いて、思わず身を乗り出してしまった。
「やっぱり…あるんですか?ここの食べ物に、催眠作用や何かしらの効果をもたらすものが…!」
柏木さんはしばらく何も言わなかった。
沈黙のあと、やっと柏木さんが口を開いた。
「ふふ、冗談です。少しからかっただけですよ。」
柏木さんはまた柔らかく笑ったが、その笑みはさっきまでとは違うような気がした。
(冗談じゃ無いのだろう…ここのコーヒーは飲まない方が良さそうだ。)
「天馬さん、どこか気になる場所はありますか?」
柏木さんに問われ、オレは地図を確認する。
「えっと……そうですね…柏木さんのお勧めの場所とか、お気に入りの場所ってありますか?」
柏木さんは少し考え、地図の左上を指さした。
「ここ…特別何かがあるという訳では無いのですが、芝生と、綺麗な噴水があるんです。綺麗ですよ。」
「なら、そこから行ってみたいです!」
「分かりました。ご案内しますね。」
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