テラーノベル
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凪川 彩絵
#独占欲
痛いところを突かれた晴永は、一瞬だけ動きを止めると、生唾を呑み込んだ。だがすぐさま頑張ってポーカーフェースを作ると、さも平然とした様子で答えるのだ。
「まぁ見ようによってはそう見えなくもないな」
結構苦しい言い訳だ。
だが、あえてそれ以上は説明しない。
というか、下手に口を開けば墓穴を掘りそうで説明できない。
(心臓……うるさすぎだろ!)
内心では、今にも心臓が胸から飛び出しそうなのに、表情には出さない。
「……見ようによっては……」
瑠璃香はどこか納得がいかない様子でつぶやいたけれど、その目は明らかに戸惑いに揺れていた。
「うち、カップとか少ないからな。お前が来てもろくなもてなしがしてやれん。まあ、嫌なら戻すが……」
「……あ、嫌ではないです。あの……ご提案なんですけど、五つとも買うのはどうでしょう?」
「五つとも?」
「はい。そうしたらお客さんがいらしても困りませんよ?」
瑠璃香の家にも、一応来客に備えて揃いのカップとソーサーのセットが用意してあるらしい。
それを聞いて、さすが気遣いのできる子は違うなと感心した晴永だったのだが……。
「これ、ソーサーついてねえから、来客用は別のにしよう」
というか、実は実家から持たされたものが箱に入れられたまま倉庫に仕舞い込んである。だが、そのことを今話題に乗せれば、「だったらこれ、買わなくてよくないですか?」になりそうだから言えない。
「とりあえず、今日はこの二つだけにしよう」
話はここで終わりとばかりに、瑠璃香の手を握ったままカートを押して箸の売り場へ移動する。
「木とプラと金属。どれが使いやすいと思う?」
「私は木が好きですけど……たらいの中につけっぱなしにしちゃうとたわんだりしちゃうんですよね」
言いながら、ちらりと視線が流れた先には白木の箸があった。天の部分が斜めにカットされていて、そこにハムスターの絵が描かれている。
イチゴを持った白いハムスターが一番瑠璃香っぽかったので、それを選んで勝手にカゴへ入れた。
「……あ、あのっ。もしかして……それ、わたし用ですか?」
「別のがいいか?」
そっけない返事に、瑠璃香は困ったように笑った。
「あ、いえっ。すごくかわいいと思います。……でも」
「でも?」
「なんだか……気持ちが追い付かないままにどんどん決まっていく感じがして」
それが不安なのか、くすぐったいのか、自分でも分からないという顔。
晴永は、少しだけ歩調を緩めた。
絡めたままの指に、意識が向く。
「別に食器や箸が増えるぐらいのことで……そんな深く思い悩むことはねぇだろ? 婚姻届けまで書かせといて……今さらって思うかもしんねぇけど……今すぐに全部を決意する必要はねぇよ」
思っていたよりも、穏やかな声が出た。
「あー、自分専用の食器があるんだーくらいの軽い気持ちで、使ってくれりゃーいい。さしあたって……今夜からでも」
瑠璃香は、その言葉に少し驚いたように目を瞬かせてから、ゆっくり頷いた。
「……そんな……ゆるっとした感じでいいんですか?」
「お前が望むならガチガチに外堀固めてもいいけど……どうする?」
自分でも信じられないくらいすんなりと軽口が叩けたことに晴永は内心驚いている。
でも、それはある意味本心だった。
同棲とか将来とか結婚だとか。
そういう言葉は今はひとまず避けておいてもいい。
けれど。
コメント
1件
けれど???(*´ω`*)ノ