テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
仁人side💛
昨日ぶりのスタジオ。
扉を開けて中に入った瞬間、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
太「昨日、大丈夫だったん?」
舜「ほんまびっくりしたわぁ」
柔「もう平気そ?」
次々に飛んでくる心配の声。
覗き込まれて、誤魔化すように少しだけ笑う。
仁「うん、大丈夫、心配かけてごめんな」
ほんと、いい奴らだよな…
当たり前みたいに心配して、普通に受け入れてくれる。
このグループが…みんなが…大好きだ。
でも、その“好き”の中に、ひとつだけ、濁った感情が混ざる。
視界の端に勇斗がいるだけで、意識が強引に持っていかれる。
昨日の、あの熱、吐息…
なんで、お前はそんなに普通なんだよ…
レッスンが始まり、音が流れる。
身体は勝手に動くけれど、よりによってその振りが、今の俺には残酷すぎた。
ペアで向かい合い、至近距離でお互いの額を合わせる。
何百回とやってきたはずの動きなのに…
勇斗の顔が迫り、思わず一瞬、止まってしまう。
太「何照れてんねーん」
太智の茶化す声。
仁「いや、別にっ」
咄嗟に否定するが、声が上擦る。
太「顔赤いや~ん」
仁「うるせぇ!笑」
反射で返しながらも、視線は泳いでしまい、勇斗の顔をまともに見られない。
無理だ…
昨日の距離、息、声が、全部フラッシュバックする。
「もう一回いくよ〜」
逃げ場はない、と覚悟を決めて、ゆっくりと視線を上げた。
仁「……っ///」
また、止まりそうになったその瞬間、勇斗が、ほんの少しだけ先に視線を逸らした。
拍子抜けして、その隙に、なんとか額を軽く当てる。
終わった瞬間、肺の空気をすべて吐き出した。
ふと見ると、舜太と柔太朗が、何も言わずにこちらをじっと見ていた。
気づいているかもと、少し不安が過るが、深追いする余裕はない。
レッスン休憩中
空気が緩んだ瞬間、舜太がいつもの距離で近づいてきた。
舜「じんちゃん、ほんまに大丈夫なん?」
仁「あー、うん、余裕」
無理に普通を装う。
その直後だった。
勇「仁人」
低い、少しだけ温度の低い声。
勇「ちょっといい?」
何でもないトーンだけど、拒絶を許さない圧がある。
仁「あ、うん」
すると、俺が答えるより早く、舜太がすっと距離を取った。
仁「飲み物買ってくるわ」
適当に言って廊下へ出る。
背に勇斗を感じながら…
自販機の前、ガコンと音がして飲み物が落ちる。
それを取ろうと屈んだ時。
勇「仁人」
すぐ後ろに、勇斗が立っていた。
勇斗side🩷
ちゃ
レッスン中、ずっと見ていた。
見ないように意識すればするほど、視線が勝手に吸い寄せられる。
赤くなった耳、泳ぐ視線、全部分かりやすすぎる…
でも、おでこを合わせる瞬間、一瞬だけ、目が合った。
その時の、潤んだような、怯えたような瞳。
昨日の感触が蘇り、指先に残って消えない。
レッスンの休憩中、舜太が仁人に近づく。
いつも通りの、信頼し合った距離感…それが、猛烈に癪に障った。
気づいたら、名前を呼んでいた。
勇「仁人」
視線がこっちに固定される。
それだけで、ざわついた胸が少しだけ鎮まる 。
仁人が外に出るのを、数秒待ってから追う。
自販機の前、少しだけ丸まった背中。
勇「仁人」
…やっぱり、目は合わない。
勇「体調、大丈夫?」
仁「……うん」
短い返事。
でも、頑なに視線を逸らす。
流石におかしいだろ…
勇「なんで…そんなに目、合わせてくれないの」
少しだけ、責めるようなトーンになってしまい、一瞬、仁人の動きが止まる。
仁「……っ///」
見る間に、顔が真っ赤に染まっていく。
仁「あんなこと…して…普通でいられるわけないだろ……」
消えそうな声。
仁「勇斗は…なんで、そんなに普通なんだよ…」
胸の奥が、熱いもので焼かれるような感覚。
勇「はああああああ」
たまらず手で顔を覆い、しゃがみこんでしまう。
勇「俺が、普通に見えた?」
指の隙間から、仁人を見る。
仁「見えた」
勇「こっちだって…意識しすぎて…あぁもう!普通に照れるわ!」
沈黙の中、自販機の唸る音だけが響く。
この空気を逃したくなくて…今しかないと思い、立ち上がり、仁人の方をまっすぐ見た。
勇「仁人、次のヒート、いつ?」
仁「……は?!」
目を大きくして固まる仁人。
仁「なんっでっ…」
勇「一人じゃしんどいだろ」
逃げられないように、視線をまっすぐぶつける。
勇「俺、いるから…噛んだりしない、保証する。だから…」
勇「辛くなったら、俺を頼ってほしい」
数秒の静止。
仁「なっ!何言ってんだよ…!」
顔を真っ赤にして叫ぶ仁人。
でも、その瞳は俺を拒絶していない。
分かりやすくて、少しだけ笑いそうになる。
勇「別に、無理にとは言わないけど」
軽く肩をすくめて、余裕を見せる。
勇「一人でやるよりは、マシだろ」
迷うように視線が揺れた後、
仁「……おう」
蚊の鳴くような、小さな、小さな声。
一気にこみ上げる歓喜を、なんとかポーカーフェイスの下に隠す。
勇「じゃ、戻るわ」
軽く背を向けて歩き出す。
口元が緩むのを、止められない。
仁人が俺のことを意識してくれていることがこんなにも嬉しいなんて…
スタジオに戻り、ポジションにつく。
何も変わらない空間だが、さっきとは決定的に違う。
曲が始まる直前、視線を向けると、また、目が合った。
今度は、ほんの少しだけ、逸らされなかった。
コメント
2件
