コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ずっと前から思っていた。
消えたい
死にたいと
最後は楽に逝きたい
そんな大きな夢を叶えるため、探偵社に入社してお金を貯め、英語を必死に勉強した。
だけど、私は過ちを犯した
また大切な人を作ってしまった
その人の名は太宰治
探偵社の一員だ
今では同居するほどの仲である
1度は夢を諦めて彼と一生を過ごすことを思い描いてみたが
やはり無理だ
あんな苦しみはもう耐えられない
だけど、別れられない
最後の時まで彼と居たい、という我儘で未だに別れるという話は切り出せたことがない
苦しい
彼を騙しているみたいでずっと苦しかった
そんな私の気も知らずに彼は何時も通りに笑って話しかけてくる
ああ、幸せだな
だけど、この幸せがこの先なくなると考えるとまた辛くなる
ほんとうに私は面倒くさい女だ
この時の気持ちが顔に出てしまったらしく、彼が心配したように私の顔を優しく撫でる
「大丈夫かい?最近ずっと不安そうな顔を浮かべているから心配だったんだ」
なんだ
バレてたんだ
『大丈夫ですよ。心配かけてすみません』
もう疲れたので寝ますねと云って彼の傍を離れる
自室のベッドに横になるがなかなか寝付けない
これから自分がどうするべきか分からなかった
だけどそんなことを考えていると余計に不安が積もってしまう
そんなことを考えている暇があったら英語を勉強しようと、ベッドから出て机に向かって座った
集中してやっているうちに眠気が襲ってきてペンが止まる
目を閉じてしまう瞬間に、誰かが部屋に入ってくる気がしたがきっと気の所為だろう
目を覚ますともう既に太陽が登っていた
体を起こすと背中に掛かっていた布団が落ちた
きっと彼がかけてくれたのだろう
彼の優しさに感謝しながら部屋を出る
まだ早い時間だ
彼はいつもこの時間なら寝ている
朝食を作ろうとしてキッチンへ向かおうとすると電気がついているのに気がつく
昨日彼が消し忘れてしまったのだろうか
電気代がもったいなかったなと考えながら部屋へ入ると、私の好きな味噌汁の香りがした
「おはよう。今日は君の好きな味噌汁を作ってみたよ。もうできてるから食べてくれ」
彼が朝食を作ってくれていた
私が寝坊すると、偶に作ってくれるがこんなに朝早い時間に作るのは違和感があった
彼を見ると笑っていた
だけど、なんとなくいつもと違う雰囲気を感じる
そんなことを思っても彼に直接言えるわけもないので、言われた通り席に着き彼の作った朝食を摂る
美味しかった
その美味しさに胸が詰まった
もうこれを食べることは無くなるのだろうか
もうお金も溜まった
英語力もかなり上がった
遺書も書いた
何時でも目的地に迎える準備は整っている
もう彼に逢えない
彼の作ったものを食べることもなくなる
そう考えるだけで涙が出てきそうになるが必死にこらえる
泣かないように我慢しながら朝食を食べ終える
『ご馳走様。美味しかったです。ありがとうございます』
彼にそう感謝を伝えると優しく笑ってくれる
その笑顔が胸を締め付ける
「そう云ってもらえてよかったよ。」
彼はそう云っただけで後に続く言葉はなかった
沈黙が続いた
気まずくなって水道水を取りに行こうと席を立とうとすると、彼に腕を掴まれる
彼を見てみれば、真剣な表情でこちらを見ていた
「大事な話しがあるんだ」
厭な予感がした
だけど、今この状況で逃げる勇気もないから席に座り直すしかなくなる
暫く沈黙が続いた後に彼が口を開いた
「最近君は英語を必死に勉強しているね。なんのためにやっているのかな」
優しい声だった
優しいからこそ、彼への罪悪感で胸が詰まって言葉が出てこなくなる
何も言えずに黙っていると、彼は自身のポケットから何かを取り出して机の上にそれを置いた
私の遺書だ
友人、探偵社の皆、お世話になった方
色んな方に書いた
そして1番端に置かれていたのは、開いた形跡がある彼へのものだった
「昨日君が遅くまで何かをしていたから部屋に入ったんだ。…机の上にあった英文をみて違和感を感じたのだよ」
昨日書いた英文は…確か安楽死をしたい理由を述べた文だったはずだ。
彼は英語が読めないと勝手に決めつけて安心していた…これは私の落ち度だ
「明らかに可笑しな文だった。もしかして、と思って鍵の掛かってる引き出しを開けさせてもらった…そしたらこれがあったんだ」
全部ばれた
どうしよう
なんて言えばいいのか、
涙が込み上げてくる
だけどそれを必死に止める
泣きながら云えば言い訳をしているようにしか見えないから厭なんだ
ごめん
一言だけ云おうとしても言葉が喉に詰まって出てこない
ずっと下を向いたまま彼を見れなかった
そんな私を見兼ねて彼は私の手を優しく握ってくれた
ゆっくりとかおを上げて見れば、怒っているような、悲しんでいるような顔をした彼がそこにいた
その表情を見た瞬間に、今まで我慢していた想いなどが込み上げてきた
辛くて苦しいこの感情
どうしようもなく辛くて、溢れてしまった涙を拭いながら彼に抱きつく
彼は何も云わずに頭をなで背中を摩ってくれた
今まで耐えられなかったほどの苦しみが
和らいでいくのを感じた
何故もっと早く彼に頼らなかったのだろうか
何故1人で抱え込むことなんてことをしたのか
今までの事を後悔するほど、彼の腕の中は心地よかった
彼となら。、 生きていける
一瞬そんなに考えが過ぎったがすぐに打ち消される
もし彼が居なくなった時は?
一気に胸が詰まった
苦い感情がどっと押し寄せてくる
体が重く感じ苦しい
辛い
そんなことがこの先に待ち構えているのなら、いっそのこと_
彼が私を強く抱き締めた
ダメだ、やっぱり死にたくない
彼と居たい
こんなにも愛おしい人を残して逝くことなんてできない
私は彼に凡て話した
ずっと死にたかったこと
そう思った経緯
だけど、あなたと生きたい、貴方を失いたくないということ
凡てを
「今まで気づいてあげられなくてすまなかったね」
また彼は私を優しく撫でる
ああ、本当に好きだ
そんな感情が苦しいほどに押し寄せてくる
『太宰さん。私より先に死なないでくださいね』
思わずそんな言葉が出てきた
彼は微笑み乍云った
「私も、君には先に死んで欲しくないのだよ。困ったね 」
困った、と彼は云っているが、先程よりも表情は明るい
幸せそうに云った
そういえば、とふと疑問が思い浮かぶ
『太宰さん』
「なんだい」
『何故太宰さんは私に心中しようって云ってくれないんですか?心中なら、2人で一緒に…』
あれ、そういえば
太宰さんの昔の口癖は
美女と心中したい〜! だ
つまり、私は
『私が美女じゃないから、心中してくれないんですか、?』
ショックを受けて泣きたくなる
美女では無いことは承知しているが、だからと云って彼にとって私は彼女だ
いつも可愛い可愛いと云ってくれた言葉は嘘だったのか
「何を勘違いしているんだい?」
彼は私の手を弄りながら簡潔に云った
「本気で愛してる女性には、寿命で逝ってほしいものだからね」
こちらを見て微笑む彼
今心底感じている
彼に出会えてよかった