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試験当日、旭高校には異様な緊張感が漂っていた。特に、五つ子たちが苦手とする「英語」と「世界史」。この二つの教科において、村雨雄大という存在は、もはや一人生徒の枠を超えた「生きた教科書」と化していた。

試験直前の休み時間。雄大の周りには、五つ子だけでなく、藁にもすがる思いの男子生徒たちが群がっていた。

「村雨君! このラテン語由来の単語のニュアンスがどうしてもわからなくて……!」

「落ち着きなさい」

雄大は、クレオパトラの黄金の冠を微塵も揺らすことなく、手にしたパピルス風のメモ(中身は最新の英単語帳)を開いた。

「この単語は、古代ローマの演説家キケロが好んで使った『真実』という言葉に近い響きを持っています。……いいですか、三玖さん。目を閉じて、その時代の風を感じるのです。言葉は暗記するものではなく、その国の魂に触れることなのですよ」

雄大が滑らかなギリシャ語混じりの英語で例文を朗読すると、その声の心地よさに、三玖はうっとりと聞き惚れ、二乃は「……ちょっと、耳が幸せすぎて内容が入ってこないじゃない」と顔を赤らめて抗議した。

そして、試験開始のチャイムが鳴り響く。

雄大は、羽ペンを模した特注の万年筆を走らせた。彼の解答用紙は、単なる正解の羅列ではない。採点する教師たちが「これは論文か?」と見紛うほどの、格調高い多言語を駆使した芸術作品だった。

試験後、自己採点を終えた風太郎は、雄大の点数を見て愕然とした。

「……全教科満点。おまけに、英語の自由英作文の欄に、お前、シェイクスピア風の古英語で『試験が簡単すぎて退屈だ』って書いてるじゃないか」

「あら、上杉さん。読み取れましたか? さすがですね」

雄大は優雅に椅子に腰掛け、差し出された麦茶(彼はそれを『ナイルの恵み』と呼んで受け取った)を飲み干した。

「でも、風太郎君。私の語学力は、単に点数を取るためのものではありません。……五月さん、貴方の悩んでいる箇所は、文法ではなく『その言葉を発する勇気』にあるようですね」

雄大は、英語の成績が伸び悩んでいた五月に歩み寄った。彼女の耳元で、エジプトの神官が唱える呪文のような、低く、しかし確信に満ちた声で囁く。

「……明日からの演習は、私と一緒にやりましょう。私が、貴方の喉の奥に眠る『王者の言葉』を引き出して差し上げます」

「は、はいっ……! お、お願いしますっ!」

五月は、雄大の圧倒的な知性と「クレオパトラとしての説得力」に完全に屈服し、直立不動で返事をした。

さらに、この噂を聞きつけた演劇部の部長が、文化祭の出し物として「アントニーとクレオパトラ」の主演を雄大に直談判しにやってくる。

「村雨君! 君にしかできない役だ! 脚本は君の好きな言語で書いていい!」

雄大は一花を見やり、不敵に微笑んだ。

「一花さん。本物の『女王』の演技、近くで見ていたくありませんか? ……ただし、私の相手役(アントニウス)を務めるのは……そうですね、上杉さん。貴方にお願いしましょうか」

「はぁ!? 俺かよ!」

風太郎の絶叫が響く中、雄大は九つの言語で書かれた台本を軽やかに指先で回した。

美貌、知性、そして人の心を操る多言語の魔力。村雨雄大という「男の娘クレオパトラ」は、旭高校の成績表を塗り替えるだけでなく、文化祭という最大の舞台に向けて、五つ子たちを巻き込んだ壮大な「歴史劇」を書き換えようとしていた。


学校に現れたクレオパトラ

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