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虹の街

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虹の街

1 - 第1話

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2026年01月03日

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その地方都市は、数十年後に人口が大幅に減少し、自治体としての存続が不可能になる可能性が高い市町村のリストに載っていた。


つまり市そのものが、このままでは消滅してしまいかねないという事で、市役所に急遽「人口減少対策課」が設置された。


対策を話し合うための有識者会議では、当初年配者ばかりを集めたため、なんら有効な方法が見いだせなかった。


ある識者は「我が市は東京のベッドタウンなんだから、そんな事にはならんだろう。何かの間違いだろ、その予測は」、と言い放って市長を唖然とさせた。


そこで東京から地域再生コンサルタントを招き、解決策を講じてもらう事になった。


市役所のアドバイザーとして常駐する事になった、七三分けの髪型に眼鏡をかけた、いかにも一流大学出のインテリ風の30代の若いコンサルタントの言葉を聞いて、でっぷりした体形、額が禿げ上がった典型的な中年の市長は、思わず声を荒げた。


「ホモだの、レズだの、そんな連中を呼び込めと言うのか? 君は?」


コンサルタントの男は少しだけ困惑した表情で、古びた市長室のソファから腰を浮かして言った。


「市長、以前にも申し上げたように、そのような差別的な言葉遣いは控えて下さい。きょうび、マスコミの記者にでも聞かれたら大問題になりかねません」


「まあ、確かにBLTと呼べとは聞いたが」


「いえ、LGBTQです。BLTはベーコン、レタス、トマトの略です。サンドイッチやハンバーガーの話をしているんじゃありません」


「ええと、エル・ジー……」


コンサルタントの男は市長に気づかれないように、そっとため息をついて、何度も繰り返した説明を始めた。


「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア。その頭文字を取ってLGBTQです。いわゆる性的嗜好が社会で少数派に属する人たちの事です。LGBTQの方々、もしくは性的マイノリティの人々、と呼んでいただかないと困ります」


市長はなおも納得できないという顔でソファの背もたれに深々と背中を預けた。


「本当にその変態……ああいや、そのLGBTQにうちの市に転居してもらって、人口が回復するのかね?」


「以前、東京23区の一つが、同性カップルに婚姻関係と同等の証明書を出したのを記憶していらっしゃいますか?」


「ああ、報道で結構有名になったな」


「あれに匹敵するインパクトが必用なのです。そうでないと、今の時代、都心への通勤通学が不便な、このような市に引っ越したいという人はいません」


市長は渋々その案を了承し、市議会に条例案を提出した。案の定、市議会の定例会では反対意見が続出した。


最大会派のボスである70代の男性市議が口火を切った。


「そのような事を行ったら、市内の風紀が乱れるのではないかな? 健全な市民への悪影響が出るに決まっておるだろう」


市長は、コンサルタントの男から渡されていたカンニングペーパーを見ながら、表向きだけは自信たっぷりの態度で答弁した。


「まず、市議のみなさんにお願いしておきます。LGBTQの対義語として『健全』とか、『正常』などの言葉を使う事は今後謹んでいただきたい。LGBTQの対義語は、ええと、『ヘテロセクシュアル』という用語に、市議会では統一します」


それから市長は分厚い資料の束を演壇に置き、市議たちに向かって演説するように話し始めた。


「この資料は後でみなさんにも配布いたしますが、統計上、LGBTQの方々の犯罪、違法行為、その他の問題行動の発生率が、ヘテロセクシュアルの人たちより高いという事実はありません。むしろ低いのではないかという推定すらあります」


今度は年配の女性市議が発言を求めた。


「同性愛者の住民が増えても、出生率は上がらないですし、人口も増える事はないのでは? 子供を作れないでしょう?」


市長は待ってましたという表情で答えた。


「いえ、同性愛者のカップルほど子供を持つ意欲が強い傾向があるのです。男性同性カップルであれば、身寄りのない子供と養子縁組する例があります。女性同性愛カップルであれば、第三者から精子の提供を受けて、人工授精で妊娠する事は既に可能で、前例もあります」

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