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深 side
俺が軽い一言を浴びせれば、みんな俺の言うことを聞く。
容姿に恵まれた俺に、老若男女構わずみんなオチていくんだ。
そう思ってた。この男が現れるまでは。
俺の行きつけのバー。そこに現れたのは初めて見る顔の男。
いつものようにただの興味本位で声をかけただけ。みんな俺を見た瞬間目の色を変えるんだ。でも、この男は違った。
深 「お兄さん、はじめまして〜」
「ここに来るのは初めて?」
ほら、早く俺を見てオチていけ。
岩 「…はじめ、まして」
….それだけ?二言目の「お綺麗ですね」はないの?
いや、きっと緊張してるだけだ。俺が目を合わせれば離せなくなる。
深 「緊張してる?俺がさ、全部教えてあげよっか?」
岩 「っ…いいんですか?」
「俺、バーは初めて来たので、何すればいいか分からなくて…っ」
そう目を輝かせながら俺を見てくる。
そうなんだけど、違う!もっと深読みして動揺しろよ!
深 「…まぁ、いいけど」
会話をしていけばきっとコイツだってオチていく。
深 「名前はなんていうの?」
「俺は深澤辰哉。」
岩 「岩本照です。」
深 「照ね」
「俺のことは話しかけやすい名前で呼んでよ」
岩 「深澤さん…でいいですか?」
堅い!せめて辰哉さんとかでしょ。
なんで苗字でさん付けなの。会社じゃないんだから….。
まぁ、今日は一旦いいか。
深 「初めて来たんだよね?」
「なんで来ようと思ったの?」
岩 「知り合いがお酒が好きで。俺もお酒を知りたいって思ったんです。」
深 「友達想いなんだね」
岩 「…そんなことはないです」
しばらく話してわかったことは、名前は岩本照といい、多分そこそこお金を持っている会社員であるということだけ。
俺の聞いた事に答え、たまに質問をしてくる。本当にそれだけだった。話なんて一切広がりやしない。
痺れを切らした俺は適当に言い訳を付け、他の男の元へと向かう。
俺の魅力に気づけない男なんて忘れてやる。
深 「岩本照ねぇ….」
夜、自室のベッドに身を投げ捨て、そう呟く。
今までこんな人とは出会ったことがない。
なんとなく悔しくて、無意識に頭の中はその男で埋め尽くされた。
忘れたいのに、忘れられない。
それがさらに悔しかった。
数日後、バーでまたあの男と出会った。
今度こそは俺にオチてもらう。
そう意気込み、完璧に雰囲気を作り話しかける。
深 「久しぶり、照だっけ?」
「なに飲むの?俺も同じの頼んじゃおうかな~」
岩 「お久しぶりです。何飲むか考えてたところで、まだ決まってないんです」
深 「そっか~、俺のオススメはこれなの」
「どう?一緒に飲まない?」
岩 「じゃあそれで。」
深 「マスター、このカクテル二つちょうだい」
注文を済ませ、カクテルが届くのを待つ。
それにしても、俺が隣にいるのにこんな冷静なのほんとムカつく。
なんか話し方までムカついてきた。真面目ぶってるのかよ…っ!
深 「俺、照と仲良くなりたいんだよね。だからさ、敬語はずしてよ」
岩 「…いいんですか?」
深 「うん、そっちの方が距離縮まるし」
岩 「じゃあ…敬語はずす」
深 「そっちの方がいいよ」
試しに照をジッと見つめてみる。
どうだ、俺に凝視されたら平常心も保てないだろ。
岩 「…?どうしたの、?」
「ぁ、俺の顔になんかついてる…?」
なんでだよ!なんか他に思うことないの?!
深 「…ううん。なんでもない」
もどかしい。なんで俺がこんな思いしなくちゃいけないんだ。
そう思っていると、やっとカクテルが出来上がる。
岩 「おいしそうなカクテル…」
深 「でしょ、俺これすきなんだよね」
岩 「センスいいんだね」
深 「まぁね」
「じゃあ、乾杯」
岩 「乾杯。…..っ!甘くておいしい」
深 「っ….!?」
なにその笑顔…!ただの堅い真面目な変なやつじゃないの?
一瞬、ドキって…..いいや!してない。俺がこんなやつにときめいてたまるか。
岩 「深澤さんは飲まないんですか?」
深 「えっ…あぁ、飲むよ」
「….うん、やっぱおいしい」
岩 「俺、甘いのが好きなんです。」
「他にもおいしいカクテル教えてください」
深 「うん、教える。他にもたくさん知ってるから」
岩 「ありがとうございます」
深 「そういえば敬語、ついてるよ」
岩 「あっ、いつの間に…」
深 「あと深澤さんっていうのもやめてよ」
「辰哉でいいよ」
岩 「辰哉….」
深 「慣れないならふっかでもいいけど」
岩 「じゃあ、ふっかで」
深 「うん、それがいいよ」
今日の夜もまたあの男で頭が埋め尽くされる。
今日も俺にオチた様子はなかった。
ずっと冷静で、俺の目を真っ直ぐに見て話していた。
その素直な瞳が俺の心をざわめかせる。
自然と俺の口を緩くしてしまう。
また会った時も、その次会ったときもずっと話しかけた。それでも照の様子は変わらない。
ボディタッチをしてみたり、距離を近ずけてみたりしても照には効かない。
気づけば俺の頭の中は四六時中、照の事でいっぱいになっていた。
どうすれば俺にオチるのか、俺に対する態度がムカつくとか。どうでもいいことを考えてしまう。
ある日、またバーで照と会う。それはすっかり日常に馴染んでいた。
そして照との距離は確実に近ずいてきている。
深 「照、一緒にご飯でも行かない?」
ご飯に誘ってみた。すると照は喜んで了承してくれる。
岩 「行きたい場所あるの?」
「ないならふっかに紹介したいお店があるんだけど」
深 「まだ考えてなかった」
「照に任せてもいい?」
岩 「もちろん」
深 「じゃあ明日の十九時に駅で待ってるね」
岩 「わかった」
照が誘いに乗ってくれて良かった。
明日こそ絶対に俺以外見れなくしてやる。俺の魅力に気づかせてやる。
そう覚悟を決め、明日に備えた。
次の日。俺は今までにないくらい時間をかけて服を選んだ。髪のセットだってちゃんとした。 俺は完璧だ。
鏡を確認してから家を出る。
時計を確認すると時間まであと三十分もある。少し早く着きすぎた。
今日のプランを考えながら照を待っていると、見覚えのあるが、どこかしら見慣れない人がやってくる。
深 「…照、?」
岩 「ごめん、早く来たつもりだったんだけど待たせちゃった?」
深 「ぇ…いや全然…」
ていうか、なんだよその格好!?普段は下げている前髪は上げて、服装もめっちゃオシャレ….!
深 「…気合い入ってんじゃん」
岩 「うん、だってせっかくふっかが誘ってくれたんだもん。気合いくらい入るよ 」
「ふっかこそ髪、いつもと違う。似合ってる」
深 「っ….// 」
「…ほ、ほらはやく行くよ」
俺との約束、そんなに大事だと思ってくれてたんだ。
さっきまで完璧だったはずなのに、照を目の前にすると崩れてしまう。
もっと大人っぽく、冷静に接しないと…。
岩 「着いたよ。ここが俺の紹介したかったレストラン」
深 「…..へ」
俺の目の前にあるレストランは普通に生きてたら行かないであろう、高級レストラン。
エレベーターに乗った時点で少し察したが、まさかこんなにオシャレなレストランだと誰が分かるのか。
岩 「…いやだった、?」
深 「えっ、ううん!違う! 」
「こんなところ来たことないから緊張しちゃって」
岩 「ちゃんと事前に言っておくべきだったね、ごめん」
深 「大丈夫だから、!」
大丈夫って言っても、ドレスコードとか全然意識してきてないし、マナーとかも分からない。大丈夫なんて言える状況じゃない。
店の扉を開けると、直ぐに席に案内された。
そこでまた俺は驚く。
綺麗な夜景が見える窓際の席。テーブルの上も綺麗に整っている。
….俺は今からプロポーズでもされるのか。そう錯覚してしまうほどだった。
岩 「ここ、俺の友人が経営してるんだ」
「だから俺もここよく来てて、ふっかにも来て欲しいなって思ってた」
深 「すごっ、経営なんて尊敬しちゃうな」
「こんなすごいところ、来れて嬉しい」
岩 「俺もふっかに来てもらえて嬉しいよ」
そんな会話をていたらいつの間にか料理が運ばれてくる。
昨日友人に頼み、急遽コースで予約したらしい。
運ばれてきた料理は輝いて見えた。
料理と一緒にグラスにワインを注いでくれる。
綺麗な白ワインがグラスを満たす。
岩 「何でも食べれるって言ってたから聞かなかったけど、大丈夫そう、?」
「もしダメなものがあったら言ってね」
深 「ううん。どれも美味しそう」
「ありがとう、用意してくれて」
岩 「それなら良かった」
「乾杯」その掛け声で夜が始まる。
マナーは照の行動を見よう見まねでなんとかしようとしたが、照が一から丁寧に教えてくれた。
神様は意地悪だ。楽しい時間は過ぎるのが早い。
いつの間にかデザートまで食べ終わり、フォークを置く。
カチャン…お皿とフォークが重なる音が大きく聞こえた。
まだ帰りたくない。
深 「..ワイン、もう一杯貰ってもいい?」
少しでも時間を稼ぎたかった。ワインを口実に少しでも長く席に居座る。
でも、そんな時間は長くは続かない。
俺と照は二人で席を後にした。
まだ帰りたくない、そんな思いで財布を渋々出そうとすると照に止められる。
深 「ぇ…お会計は?」
岩 「俺が出すから。ここに連れてきたの俺だし」
俺の返事も聞かずに照は俺に背を向け、会計をする。
ずるい。そんな背中みたらすきになってしまうじゃないか。
….今日は好きになってもらうのが目的だったのに。
帰り道。そろそろ家に着いてしまう。
….やだ、まだ照は俺をみてない…
今日こそは絶対振り向かせるのに…
俺の足は自然と止まった。
岩 「…?どうした?歩けない?」
深 「…..っ」
振り返ったひかるの胸に顔を埋める。
岩 「….?」
「頭痛い?ちょっと休もうか」
深 「ちがう…、」
岩 「…じゃあ、なにしたい?」
深 「今日のおれ、全然だめだった。リードするって、いいとこ見せるって決めてたのに、ぜんぜんできなかった….っ」
「ひかるの前では完璧でいたかったのに、ひかる見るとくずれちゃって…、こんなんじゃひかるは俺のことすきにならない…っ」
ワインを飲みすぎたのだろう。 酔いが回っていたのもあり、突っかかりながらもひかるに全て打ち明けてしまう。
…あぁ、ほんと何言ってるんだ。好かれるどころか嫌われちゃうなぁ….
俺の目にはすっかり涙が溜まって、溢れていた。
岩 「….、ごめん」
ほら困らせちゃったじゃん。
そして振られたし。
変な意地でオトしたかっただけなのに、好きになんなかったらセンスないって言えばいいって思ってたのに。なんで今、こんなに胸が痛いんだろ。
深 「俺の方こそ、ごめん….っ」
「ちゃんとひとりで帰るから…、」
岩 「っ、ちがう」
深 「じゃあ….」
岩 「いつものふっかより、今日のふっかの方がすきだった。もちろん今のふっかも。」
深 「へっ….それって」
岩 「あ、悪口じゃないから、!」
深 「わかってる」
「でも、今日のおれだめだったよ、?」
岩 「最初は、何考えてるか分からなくて、少し遠い存在だって思ってた。」
「でも最近…今日は違った。ずっと笑ってた、気持ちもちゃんと話してくれた。」
なんだよ、ずっと意地張って強がってた俺がバカみたいじゃん…笑
ひかるは俺の素を受け入れてくれてんじゃん
深 「俺…ひかるのことすき」
そうだ俺はすきだったんだ。
ただ振り向かせたいだけじゃない。すきだから両思いになりたかったんだ。
岩 「俺もふっかのことすきだよ」
「これから ふっかの色んなところ見せて」
深 「ちゃんとそこもすきになってよね」
岩 「当たり前」
夜道で二人。ひかるは強く抱き締めてくれた。俺もひかるを抱き締め返す。
最初は俺に振り向かないやつが気に食わなかった。だから振り向かせたかったのに、いつの間にかすきになって、勝手にムキになって。
ひかるのせいで俺の感情は豊かになっていた。
きっと、これからもひかるに振り回させるんだろうな。それも悪くない。
コメント
3件
最終的におとされてるやんっ!! 全然良いですけど!!!
岩本さんの真っ直ぐな部分が深澤さんに刺さったのか… 私にも刺さった…(謎の報告)
この8話、めちゃくちゃよかったです…!深が最初は「落とす」つもりだったのに、いつの間にか照に振り回されて好きになってる流れが愛おしすぎました。特に照が「今日のふっかの方が好き」って言ったシーン、胸にきた…あそこで深が素直になれて本当によかった。お互いの気持ちが通じ合うラスト、すごく温かくなりました。はそわりさん、素敵な物語をありがとうございます!