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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第27話 〚分かっているのに、言ってしまう〛(真壁恒一視点)
あの時のことを、
何度も思い返していた。
(……あれ、いじりじゃない)
廊下で。
本を拾って。
澪に言った言葉。
冷静に考えれば、
ただの——褒め。
悪口でも、
冗談でもない。
(俺、褒めてたんだ)
気づいた瞬間、
少しだけ恥ずかしくなった。
同時に、
胸の奥があたたかくなる。
澪は、
嫌な顔をしなかった。
「ありがとう」って、
ちゃんと言った。
(優しかった)
それが、
頭から離れない。
教室。
澪は、
前の席にいる。
髪が、
少し揺れた。
それを見ただけで、
考えが止まる。
(……可愛いな)
言葉が、
喉まで来てしまう。
(やめとけ)
(今は、言う場じゃない)
分かってる。
分かってるのに——
「澪、可愛いよね」
口から、
出た。
自分でも、
驚いた。
教室が、
一瞬、静かになる。
——視線。
周りの、
空気が変わる。
(……あ)
遅れて、
気づく。
数人が、
目を逸らしている。
ひそっと、
距離を取られる。
誰かが、
小さく息を呑む。
(引かれてる)
はっきり、
分かった。
澪は、
何も言わなかった。
困ったように、
少しだけ視線を落とした。
それが、
一番きつい。
(違う)
(俺、悪いこと言ったわけじゃ——)
言い訳が、
頭に浮かぶ。
でも、
教室の空気は戻らない。
“まただ”
“空気読めてない”
そんな言葉が、
無言で突き刺さる。
(……なんで)
褒めただけなのに。
優しくしただけなのに。
俺は、
自分の世界に入りすぎていた。
周りが、
見えていなかった。
澪だけを、
見て。
その結果——
全員から、
距離を置かれた。
チャイムが鳴る。
誰も、
俺を見ない。
(……分かってたはずなのに)
分かっていても、
止められなかった。
その事実だけが、
重く残った。