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真夜中の十六番街、シャーリィ達が身を隠した廃屋は十六番街中心部から少しだけ離れた閑静な住宅にあり、それ故に目立たず身を隠すにはうってつけの場所だった。

だが彼女達が逃げ込む様子を監視していた『エルダス・ファミリー』の幹部マクガレスは、ここで勝負に出る。

「真夜中までに全部の兵隊を集めろ!追い駆けっこはここで終わりだ!必ず始末するぞ!」

焦るマクガレスは十六番街に散っていた総員に集結命令を出して、廃屋周辺を完全に封鎖。真夜中を待って襲撃を計る。この大規模な行動を注視する者が居るとも知らずに。

だがこれらの行動はシャーリィ達に気付かれることはなかった。二週間に渡る逃避行により彼女達は心身ともに疲れ果てていた。それは見張りをしていたルイスも例外ではなく、それ故に完全な奇襲を許すこととなる。

「蜂の巣にしろ!弾をケチるんじゃねぇぞ!ここで終わりにしろぉ!」

まるで雷鳴のように恐ろしい数の銃声が市街地に響き渡る。住民達は巻き込まれないよう祈りながら嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。

拳銃、ライフル、機関銃などあらゆる銃器が包囲した二百人の構成員から放たれて廃屋を穴だらけにしていく。

「畜生!これじゃ身動きとれねぇぞ!?」

シャーリィ達は廃屋二階で倒れたテーブルの影に身を隠しているものの、周囲の壁や家具が限界を向かえるのも時間の問題と思われた。

「……うるさい」

アスカは犬耳を塞いで銃声の爆音から逃れようとする。そしてシャーリィだけが不思議なくらいに冷静さを保ち周囲を見渡していた。

「このままでは座して死を待つだけですね。当然私はまだ死ぬわけにはいきません」

「そりゃそうだが、どうするんだよ!?」

「今は祈りましょう。銃声が止むまで私達が健在であることを」

「はぁ!?」

「いくら『ターラン商会』からの援助があろうと、銃弾には限りがあります。ましてや金属の類いが高値で取引されている今では銃弾だって安くはないんですよ」

「そうだろうけど、それまで持つのか!?」

「持てば突破口を開けます。持たなければ、死体が三つ増えるだけ。私達の運の良さを信じるしかありませんよ」

「ここに来て運任せかよ!?」

「決して悪くない賭けだと思いますけどね」

シャーリィ達は身を隠してただ嵐が過ぎ去るのを祈りながら待った。

「撃ち方止め!やめろ!そろそろ良いだろう!死体を探してこい!生きてたら殺せ!」

銃声が止まり、武装した構成員十数人が先ずボロボロになった一階へ侵入していく。

「……ん、物音がたくさんする」

「ああ、一階に入ってきたな。生きてる自分にビックリだけど。どうするんだ?シャーリィ」

「では、私達も脱出しますよ」

「何処からだよ?」

「上からですよ」

シャーリィは魔法剣の柄を天井に向ける。

突如廃屋二階から屋根を突き破るように火柱が上がる。

「なんだぁ!?」

「爆発でもしたのか!?まさか自爆なんて言わねぇよな!?」

火柱に包囲していた構成員達は驚き、そして硬直してしまった。

その隙をついて、三つの影が屋根の上に現れた。

「!?居たぞ!屋根の上だぁ!」

「逃がすなぁあっ!」

シャーリィ達は屋根を伝って脱出を計り、『エルダス・ファミリー』はそれを追いかける。

「屋根の上を走るとか!出鱈目だな!シャーリィ!」

「他に道があるなら聞きますよ、ルイ!」

「いや、無いな!」

銃撃が再開されて三人は弾幕の中をひたすら走る。

「このまま十六番街を抜けますよ!」

「ああ!体力使い切っても走り抜けるぞ!」

銃弾が飛び交い身軽な構成員は屋根に上がり追跡していたが、真夜中の闇がシャーリィ達を覆い隠して脱出は成功するかに見えた。

それは川を跨ぐ家の屋根を通過しようとした時だった。ズダァアンッ!と銃声が響き渡った。

「シャーリィ!?」

右肩を撃ち抜かれたシャーリィはぐらりと身体を傾けた。咄嗟に伸ばしたルイスの手は空を切りシャーリィは真っ逆さまに川へ落ちていった。

「シャーリィィィーーッ!!」

ルイスの絶叫が夜の町に響き渡った。

「……はっ!?っっ!!」

シャーリィです。最悪の気分です。ふと目が覚めたら川辺に打ち上げられていました。

肩に強い衝撃を感じてから気を失って……どうやら撃たれて川に落ちて流されたみたいですね。右肩はすんごく痛いし、流されている間に打ったのか身体のあちこちに擦り傷や打撲痕があります。当たり前ですが服はずぶ濡れですし、身体中痛いし。

ルイ達は無事でしょうか。真っ暗で月明かりだけではちょっと心許ないですが……。

私は痛む身体を労りながらゆっくりと立ち上がります。あっ、流されている間に脱げたみたいですね。サンダルが無い。つまり素足です。おおう、地面が冷たい。服も濡れてるし、いくら夏でもこのままでは風邪を引いてしまいます。

とにかくこの場を離れようと足を動かした瞬間近くの物陰から腕が延びて私の首を捕まえました!

しまったと思った時には遅く、私は仰向けに押し倒されてしまいました。そして私の首を押さえている相手は……。

「やっとだ!やっと会えたな!この日をどれだけ待ちわびたか!」

痩せこけては居ますが、その顔には覚えがあります。

三年前に徹底的に潰した商人ギルド『蒼き怪鳥』のボルガ会長!?

「ははははっ!思い出してくれましたかなぁ!?シャーリィお嬢様ぁ!貴様のせいで私はこの様だ!何もかもを失った!部下には逃げられて、取引相手を全部失った!組織も解散だ!貴様が、『暁』が居なければ私はもっと成り上がれたのに!貴様らが居るからぁ!!」

私の首を強く締め上げてきます。くっ!ナイフは押し倒された時に手放してしまった!魔法剣もさっきので魔力が切れてる!まずいっ!

「ははははっ!どうしたのかね!?『暁』の代表がこんな男に押し倒された程度でなにも出来ないとは!これはお笑い草だな!貴様など組織がなければ単なる小娘に過ぎないではないか!」

「ぁっ……くぁ……」

だめっ!息ができない!こんな場所でこんな奴に私はっ!?まだ何も成せていない!復讐は始まってすらいないのに!こんなっ!こんなっ!こん……なっ……。

薄れ行く意識の中で私はうわ言を呟くことしかできませんでした。ただひとつの心残り。

「……レイ……ミ……」

嗚呼、私の最愛の……。

「はい、お姉さま」

これが最後の幻聴と幻視でしょうか。私は微笑み掛けてくる成長した最愛の妹を見ながら意識を手放しました。

暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~

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