時は少しばかり遡る。具体的には『エルダス・ファミリー』が総動員を始めた昼過ぎである。
皆様ごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。十六番街へと潜入した私は、『オータムリゾート』情報員と密に連携を取りながらお姉さまの捜索を行っていました。
残念ながらお姉さまはもちろん、『暁』幹部連にも会えてはいません。
余程巧妙に身を潜めているのでしょうね。彼らに関する痕跡は全く見つからず、『エルダス・ファミリー』も懸賞金を賭けて捜索しているみたいですが見つかっていない様子。
まして面識が無い私には無理な話です。そちらについては情報員の皆さんに任せています。
そうして今日も朝から捜索を行っていたのですが、正午を過ぎた辺りから『エルダス・ファミリー』に動きがありました。赤い布を身に付けた彼らの構成員が次々と移動を始めたのです。それも見る限り大規模に。
あちこちに用意されていた検問ももぬけの殻でした。これは何かがあったに違いない。私は近くに居た情報員にその事を伝えて彼らの追跡を開始しました。
ちなみに私の服装はいつもの騎士服ではなく一般的な女性の服、前世のドイツにあった民族衣装ディアンドルに良く似たものです。フリフリしていてちょっと落ち着きません。胸元が開いててちょっと心許ないですが、まあ私など誰も注目しないでしょう。
もちろん怪しまれないように武器も持っていません。端から見ればただの町娘です。武器が無くても魔法でどうにでもなりますからね。
レイミ=アーキハクトには自覚がなかった。前世から色恋沙汰に縁がなく剣や魔法の鍛練と実践に費やされた十五年だったからだ。
しかし幼さはあるものの母親譲りの姉に劣らぬ整った目鼻立ち、燃えるような赤い髪を腰まで伸ばし、少し焼けてはいるがそれでも白い肌に姉とは違って豊かな胸。鍛えているためスラッとしたプロポーション。
転生者ハヤト=ライデンが見れば「お前のような十五歳が居るか!」と怒鳴りそうな絶世の美少女なのだ。
当然周りに注目されてかなり目立っている。本人が無頓着なだけなのである。
斯くしてレイミは『エルダス・ファミリー』の動きを追跡。住宅街にある廃屋周辺に集結しつつあることを察知した。
もしかして、あの廃屋にお姉さまが?でもこの数は……銃器もたくさんある。さすがに切り込むのは無謀と言うものでしょうか。
悔しいですが、しばらく様子を見ましょう。
いざとなれば……無関係な人を巻き込んでしまいますが広域魔法を使うしかありません。お姉さまの方が遥かに重要であることは議論する余地すらありませんからね。
そうしてしばらく様子を見ていると夜も更けてきました。流石に眠くなった頃、凄まじい銃声に意識を覚醒させられました。見れば、四方八方から百人以上が様々な銃で廃屋に弾丸を撃ち込んでいるではありませんか!
「くっ!お姉さま!」
流石に静観なんて出きる筈もない。私が覚悟を決めて斬り込もうとした矢先、銃声が止みました。
「終わった……!?」
次の瞬間膨大な魔力を感じとりました。そして廃屋の屋根に巨大な火柱が上がるのを見たのです。明らかに自然の発火ではありません。魔法によって生み出されたものであるのは間違いありません。
突然上がった火柱に周囲の構成員達は硬直します。それはそうですね、魔法なんて普及していない帝国ではなにが起きたか分かる筈もない。
私を目を凝らして様子を窺いました。すると、破壊された屋根から三つの影が飛び出すのが見えました。魔力を使って視力を強化してその影を見つめると。
……ああっ!ああっ!
「お姉さまっ!」
最後に見たお姿から成長なさっていますが、間違う筈もありませんっ!お姉さま!私の大切な人!やっと、やっと会えた!涙で視界が滲みますが、それも仕方ないと思います。だって私はっ!
いや、それよりも。あの銃撃を生き抜いて魔法で不意を突いて突破を図る。流石はお姉さま、意表を突くのがお上手なのは変わりませんね。
後はお姉さま達を追いかければ無事に再会できます!私は直ぐに影を追いかけ始めました。そして川を跨ぐ家屋の上を通過しようとした瞬間銃声が鳴り響きました。そして……お姉さまが撃たれた!?
お姉さまが右肩を撃ち抜かれた姿を見て私は直ぐに周囲を見渡し、そして近くの家屋の屋根の上に狙撃手が居るのを見付けると、魔力で身体を強化して一気に飛び込みました。
こいつ!許せないっ!
「何外してやがるんだ!?下手くそ!頭を狙えって言っただろうが!」
「仕方ねぇだろ!?こんなに暗くて、しかも動いてる奴なんて当てられただけでも上出来だろ!」
相手は二人組、跳躍して後ろに着地した私に気付いてはいませんでした。関係ありません、お姉さまを傷つけた以上生かしておく理由もないっ!
「凍てつけぇ!」
私は二人に掌を向けて魔力を放出し、二人を氷像に変えてしまいます。こいつらは存在すら許せない!
私は氷像二つを蹴飛ばして地面に落とします。落下した二人は文字通り粉々になってその存在は完全に消滅しました。
っと!いけない!こんなことをしている場合じゃない!私は直ぐに視線を川に向けると撃たれたお姉さまが川に落ちるのが見えました。直ぐに助けにいかないと!
レイミは夜の市街地を駆ける。だが、川の流れは予想以上に速くて追い付くまでに時間を要してしまった。
お姉さまが川に流されてしまいました。しかも川の流れが予想以上に速い!それに暗い視界が更に追跡を困難にしています。
ただ幸いなことにお姉さまは無意識に魔力を放出している様子。それを辿れば追い掛けるのは難しくない。
私は自分の焦りをなんとか抑えながら夜の市街地を駆け抜けて遂にお姉さまを川辺で見付けることに成功しました!
お姉さまは裸足のまま起き上がりよろよろと……!?
突然暗闇から現れたボロボロの服を着た男がお姉さまを押し倒して首を絞めている!
事態は一刻の猶予もない!私は全速力でお姉さまの下へ駆け寄りました!間に合え!
「レイ……ミ」
首を絞められているお姉さまは、確かに私のは名前を呼びました。鈴を転がすような、心地の良い声。だから私は安心させるように笑顔を浮かべて答えました。
「はい、お姉さま」
私の声を聞いたお姉さまは安心したように目を閉じました。
さて、後はこのゲスを始末するだけ。お姉さま、待っていてくださいね。
レイミはボルガに鋭い視線を向けながら殺気立つのだった。
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