教会の窓からきらきらとした太陽の光が注ぎ込む。
枠にはめ込まれたステンドグラスはとても美しく、この教会がそれほどまでに高貴な場所なのだと伝えてくるようだ。
そんな教会で、子爵令嬢マーガレット・アストラガルスは本日結婚式を挙げることになっていた。
相手はこのメラーズ王国の筆頭公爵家の当主クローヴィス・オルブルヒ。誰もが憧れる美貌と権力、財力を持つまさに完璧に近い男性。
しかし、そんな彼にはとある『噂』がある。それゆえに、二十八歳になった今でも結婚せずに独身生活を謳歌しているという話だ。
(……よし、やらなくちゃね)
控室で自らの頬を軽くパンっとたたき、マーガレットは気合を入れる。
数ヶ月前。父に縋るように「頼むからいい男を捕まえてきてくれ!」と言われたときはどうなるかと思ったものだ。
だが、ふたを開けてみれば極上の男性を捕まえることが出来た。……いや、逆なのか。捕まったのはマーガレットであり、捕まえたのがクローヴィスだ。
アストラガルス子爵家の財力では到底買うこともレンタルすることも出来ない高価なウェディングドレスに身を包み、マーガレットは様々なことを考える。
ヴェールに隠れたその緑色の目は、様々なことを思案しているように見える。だが、早々に考えることを投げ出しマーガレットは「はぁ」と息を吐いた。
(まさか、私がかの有名な『男色家の公爵』の妻になるなんてね……)
ゆるゆると首を横に振りながら、マーガレットは心の中でそう呟く。
クローヴィスにあるとある『噂』。
それは――彼が『男色家』ではないかという噂である。本人が認めたわけではないものの、周囲はその噂を確実なものだと思っているようだ。それゆえに、彼が結婚すると発表した際には社交界に激震が走ったほど。
そして、その相手が――まさかまさかの貧乏子爵家の令嬢なのだから、さらなる激震が走るのも当然と言えば当然なのだ。
周囲はマーガレットが色仕掛けをしたやら、クローヴィスが形だけの妻を娶ろうとしているなどといろいろな憶測をする。……まぁ、あながち間違いではないのかもしれないが。
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凄