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頭が割れそうだ
何かが内側から膨れ上がる
亀裂が入り、次第に姿を現す
もう限界だ
弾けてしまおう
その方が楽だ
その方が誰かの為になる
辛いのは自分なんだと分からせてやろう
弾けた!
辛さなんて吹っ飛んだ!
むしろ気持ちが良い!
あれ?
静かだ
なんだったっけ……まあ…いいか
早朝
まだ夕暮れ時のように薄暗い
冬至は1年で1番寒いわけでは無いが、寒いことに変わりはない
アパートを出る
冷たい螺旋階段を降りて、道路に出る
当然静まり返っているが、寒さも相まって空気が酷く澄んでいるように感じる
重い足取りで署に向かう
冷気が乾いた瞳に突き刺さる
ジャンパーに口元を埋めながら思う
「なにやってんだろう」
今年で28、妻子もいない
これといった生き甲斐もなく、その日を生きるだけ
「後悔してる?」
そう思い至る前にこの現状に辿り着いてしまったから、後悔すら出来ていない
つまり、取り戻そうとも思わないのだ
そんなことを考えている内に着いてしまった
俺はここ池永署捜査一課に所属して10年になる
自動ドアを抜けて、黄色い蛍光灯に照らされる
署内は先輩達の話し声が聞こえるが、どこか静かで殺伐としている
「お疲れ様です」
「お疲れ、、、おい酷い顔だぞ」
先輩はさして興味もなさそうにそう言った
「寒過ぎて、顔が青いだけっす。所轄は?」
「まだ動いてない、報道筋に情報が回る前に動くはずだ」
「事故にしては、遅いですね」
「殺人の可能性が出てきたんだ」
「、、、頭部破裂って書いてますけど」
渡された事前資料には目を通した
害者は都心の路地裏で発見され、頭部の損傷が激しく、検死の結果なんらかの爆発物等でなければ不可能な損傷形状であり、通報者は事後発見で死後10時間は経過していた。
現場の状況から考えて、人の行き来は無いが、すぐそこに商店街がある。 爆発物であれば10時間も放置されるわけがない。
人の喧騒だけで爆発音がかき消されるほど小型の爆発物?
「同じ状態の死体が最近多い」
「連続殺人の筋ですか?」
「だろうな、所轄が動いた現場向かうぞ」
サイレンの朱色が、集まった大衆の顔を照らし、皆不気味に笑っているように見えた
虚しくも心優しい市民は小さなカメラを向け、撮れるはずもない暗い路地裏を凝視している
こんなドス黒い塊を掻き分けて、やっとのことで辿り着くのが更にドス黒い事件現場であることに心底ホッとする
「ご苦労様です」
先輩に習い鑑識官に敬礼する
一礼すると即座に現場の説明が始まった
「周囲に爆発物の反応は無く、防犯カメラにも現場は映っていません。表のカメラも人の行き来が激しく、入って行く人影は確認できませんでした。」
「強盗の線は」
「持ち物はサイドバックだけで中身は財布と自宅のものと思われる鍵のみでした。強引に開けた痕跡もなく、頭部以外の外傷も無いので強盗の線は薄いかと、、」
「分かりました、ありがとうございます」
「では、」
鑑識官はそそくさと作業に戻る
「防犯カメラ、もう一度洗ってみますか?」
「エイジ、害者はなんでこの路地に入ったと思う」
引き留めるように聞かれた
先輩の澄んだ声は周りの喧騒に馴染み、不思議なほど聞き取れる
「、、、遺体の向きからして商店街を出るつもりだった。近くに商店街の開放口があるのにわざわざ路地裏から出ようとしたって事は人混みを避けたんでしょうか」
「いい見方だが、ただ単に人混みを嫌ってるだけかもしれない。明確な事実に繋がることを考えろ。持ち物が少ないだろ、つまり遠出はしてない。家が近いか、少なくとも電車を使ってる。」
「1番近いのは呉王駅です。害者の行き先と方向は合ってますね」
「身元が割れる前に調べに行くぞ」
「はい、それにしても妙に服装が古くないですか?革ジャンにサイドバックって」
半笑いで言ったことに、睨まれた後、後悔した
呉王駅は現場から徒歩10分で着いた
防犯カメラを確認すると革ジャンの男が3人確認できたが、サイドバックが見当たらない上に画像が荒く、なにより人相が不明なため身元が分かるまで、判別は難しかった
ところで、この3人は革ジャンを着ているだけで全身黒にそこまでしたいかと強く思った。
「待機だな、、、」
「害者はホストなんでしょうか」
「髪型がコンモリしてるからって先入観を持つのはやめろ」
吹きそうになったがなんとか耐え切った。
冷たく静まり返った駅のホームでこの空気は流石に耐えられない
「先輩ラーメン食います?」
「、、、、くう」
「何系っすか?」
「家系だな」
「いいとこ知ってますよ、池永の近くの雑居ビルの間んとこなんすけど、自家製チャーシューがめちゃくちゃ、、、、、」
「路地裏のラーメン屋か」
お互い悟ったようだった
「、、、いや、でも無かったっすよ。現場」
「間違えて別の路地に入ったか」
「これって先入観じゃ、」
「、、、無い話じゃない」
携帯が鳴った
耳に当てた先輩の顔が徐々に曇る
通話を切った先輩が駅の出口に向かい始め、少し不満そうな顔でつぶやいた。
「ラーメンかぁ」