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音のない世界に耳鳴りだけが響く。闇夜の海に、船の小さな窓から光がちょぼちょぼ漏れている。
一人になってからの船外活動は、もちろん初めてのことだった。古びた外着に通した手足の、関節が重い。腕をわずかに曲げただけで、気化熱が冷気の中で白い煙に変わる。
郷田は手さぐりで命綱に触れると、固い。綱の上にあるスイッチをスライドする。頭上の照明灯が点いた。短い翼に耐熱タイルが規則正しく並んでいるのが見える。機体の先頭へ向かううち、三角形をしたレーダーが現れた。テスターケーブルを脇ポケットから引き出す。結構力がいる。脈の拍動が耳の内側から聴こえてきた。
スペードだったら、そもそもどうしようとしてるんだと言うだろう……そこが分からないんだ。トムなら、すぐに動けと言うだろう……何をすればいいのかわからないんだ。もしカーンがいたら、船内からいろんな情報を伝えてくる場面だ……何でもいい、教えてくれ。カレンと連絡が取れていれば、命がけでもこの活動を阻止してきただろう。シンドバッドなら、そんなことで負けないでくれと逆のことを言ってきたかもしれない。
手は動いているのだが、頭は別なことばかり考えてやまない。