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それから月日が流れたバレンタインの日。
教室はチョコの話で持ち切りだ。好きな人からチョコを貰った人。好きな人にあげた人。チョコを貰ってない人。色んな人がいる。俺も誰にもチョコは貰っていない。
まぁ、別に好きな女の子なんて居ないし要らないんだけど。なんて思ってたら、廊下から翔くんに呼ばれて、俺は廊下に出た。
「翔くん。どうしたの?」
「えっと…バレンタインのチョコ、貰いました?」
「まぁ…今のところ0だけど」
そう言って何となく翔くんの手元を見ると、チョコが入ってるであろう袋が握られていた。
誰かに貰ったのかな。心が少しチクッとする。
「それ、貰ったの?」
「あぁ…いや、これは…」
翔くんはそこで口を噤み、俺にチョコを差し出す。
「先輩にあげたくて」
翔くんが俺に?
信じられなくて、じっとチョコの箱を見つめてしまう。
「あ、えっと…仲良くしてくれてるお礼です!」
なんだ。びっくりした。まぁ、そりゃあそうだよね。
俺はニコッと笑ってチョコを受け取る。
「ありがとう」
「いえ」
翔くんはチョコ、貰ったのかな。
なんでそんな事気にしてるんだろう。ダメだな。俺。
でも、やっぱり気になっちゃう。
「…翔くんは誰かから貰ったの?」
「いえ。俺は誰からも貰ってないです」
俺はそれを聞いて安心してしまう。
「そっか」
俺がそう言うと、翔くんは真剣そうな顔で言う。
「チョコ、春人にもあげてないんですよ。先輩だけなんです」
胸がドキッとする。
そんな顔でそんな風に言われたら、ありえないのに期待してしまう。
期待なんてしちゃいけないのに。
なんて返したらいいか分からなくて困っていたら、翔くんが口を開く。
「…じゃあ、俺もう行きますね。また!」
翔くんはそのまま去っていった。
心臓がずっと、ドキドキしている。
今までずっと誤魔化していた。翔くんが好きだって事を。
将人の事があってから恋なんてしてなかったのに。
翔くんの事が可愛くて、愛おしくて。
この気持ちを翔くんに伝えたら、翔くんに拒絶されてしまうかもしれない。そう思うと、怖くて。
このままこの気持ちを隠していれば、友達として翔くんと一緒にいられる。だから俺はこの気持ちは隠す事にした。
それから月日が流れ、卒業の日。
卒業式の後に翔くんが写真を撮りに来てくれた。写真を数枚撮った後、翔くんが言う。
「愛斗先輩。ちょっと話があって。人前じゃ言いづらいんですけど…」
話。なにかあったのかな。
「何か相談事?場所、移動しよっか」
「はい。ありがとうございます」
「うん。じゃあ行こっか」
俺はそう言った後、歩き出す。屋上に出て、翔くんの方を向いた。
「話ってなに?」
「えっと…」
翔くんはそこで口を噤み、黙り込む。
言いづらい話かな。
俺は静かに翔くんの言葉を待つ。
「…短い間でしたけど、愛斗先輩と過ごした1年はすこい楽しかったです」
「やめてよ。なんか寂しいじゃん。別に卒業してからも会えばいいでしょ?」
俺もまた翔くんに会いたいし。
「…そうですね」
翔くんはそう言ってニコッと笑った後、再び口を開く。
「先輩が卒業するの、寂しいです。もっと早く仲良くなりたかったな」
翔くんのその言葉に俺は嬉しくなる。
「そんなに寂しいんだ。翔くんって俺の事大好きなんだね」
「好きですよ。すごく」
真剣な目でそう言う翔くんに俺はまた嬉しくなる。
「本当?嬉しいな」
俺がそう言うと、少し間が空いたあと、翔くんが言う。
「…愛斗先輩が俺の事可愛いって言ってくれるの、すごい嬉しいんです。愛斗先輩の前だと可愛いを全力で出せますし」
そりゃあ、翔くんが可愛いんだもん。
「まぁ、それは本当に翔くんが可愛いからね」
そう言って俺がニコッと笑うと、少し間が空いてから翔くんが言う。
「…愛斗先輩」
「なに?」
俺はそう言って翔くんに笑いかける。
すると、翔くんは俺の目をまっすぐ見て言う。
「…俺、愛斗先輩の事が好きです。俺と付き合ってくれませんか?」
時間が一瞬止まったような感覚になる。
翔くんも俺と同じ病気だったんだ。いや、違う。
俺が無責任に”可愛い”なんて言ったからだ。それ以外にも友達に向けて言わないような事をたくさん言った。
だから俺の病気が、翔くんにうつっちゃったんだ。
翔くんの気持ちは嬉しい。俺も好きだから。
でも、もし俺達が付き合ったら、周りからどんな扱いを受けるのかなんて、分かり切っていた。
何より翔くんを俺と同じ目になんて合わせたくない。 だから。
「…ごめん。俺、翔くんの事そういう目で見てないから」
俺のその言葉に翔くんは目を伏せる。
「あ…そうですよね。すみません。変な事言って」
「ううん。大丈夫だよ。大人になったら治る”病気”だから」
「えっ…?」
大丈夫。今ならまだ間に合うよ。このまま俺を好きじゃなくなれば、きっとすぐに治るから。
「…すみません。俺、もう行きますね。じゃあ」
翔くんはそう言って屋上から去ってしまった。
俺、上手く笑えてたかな。きっともう、翔くんは俺に会ってくれない。
俺も、”病気”って言われた時は傷ついたから。
俺はきっと、翔くんの事を傷つけた。でも、みんなに拒絶されて翔くんがたくさん傷つくくらいなら、俺一人の言葉で少し傷つく方がマシだと思った。少しなんて、俺の感じ方でしかないんだけど。
目に涙が滲む。俺は深呼吸をした後、屋上を後にした。
みんなが帰り始めた時、俺もお母さんの運転する車に乗って、家に向かう。
そんな俺の頭の中にはずっと翔くんがいる。
俺は窓の外を眺めて翔くんの事を考えていた。
「愛斗。卒業祝いに何か食べに行こっか。何がいい?」
「う〜ん…」
食べたい物。少し考えてみるけど、何も出てこない。
そもそも食欲がない。心がずっとモヤモヤしていて。
「…別にいいかな。家で適当に食べればいいよ」
「そう。わかった」
そして家に帰ってからも、昼ご飯を食べている時もずっと翔くんの事を考えていた。
さっき言った言葉を少し後悔していた。もっと優しい言い方があったんじゃないか。病気だなんて言わなくても良かったんじゃないか。そもそもあんな軽々しく”可愛い”なんて言うべきじゃなかった。
ソファーに寝転がってじっと天井を見つめたまま、ずっとそんな事を考えていた。
「愛斗」
お母さんにそう言われ、俺は起き上がる。
「なに?」
「ずっとそんな浮かない顔して。何かあったの?」
「まぁ、あったけど、病気の事だし時間が経てば大丈夫だよ」
俺がそう言うと、お母さんは俺の横に座る。
「そのことなんだけど…」
お母さんはそこで口を噤み、少し間が空いた後言う。
「…愛斗に謝りたいことがあるの」
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