テラーノベル
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スタートーー!
雨上がりの朝。
窓ガラスに残る小さな雨粒が、朝日を受けてきらめいていた。
美月は大切そうにフィルムケースを胸に抱え、月影写真館の扉を開く。
「おはようございます。」
カラン、とベルが鳴る。
店主はカウンターの奥から姿を見せると、美月の手元を見て優しく微笑んだ。
「……とうとう、その時が来ましたか。」
美月は静かにうなずき、最後のフィルムを差し出した。
「お願いします。」
店主は白い手袋をはめると、丁寧にフィルムを受け取る。
「これは神崎さんの最後の作品です。」
「一本たりとも失敗は許されません。」
暗室の扉が静かに閉まった。
⸻
現像される”最後の一枚”
赤いセーフライトだけが灯る暗室。
現像液の中で、ゆっくりと像が浮かび上がっていく。
美月と蒼真は、固唾をのんで見守っていた。
店主が静かに写真を持ち上げる。
その瞬間、三人は言葉を失った。
そこに写っていたのは――。
星見山の丘に立つ、若き日の神崎蒼介と倉橋俊介。
その周りには、大勢の子どもたち。
誰もが夜空を見上げ、笑顔で手をつないでいる。
そして写真の中央には、小さな男の子がカメラを抱えて立っていた。
その帽子には、銀色の星のバッジ。
「……ファントム。」
美月は思わずつぶやいた。
店主は静かにうなずく。
「この子の本名は……朝霧 透(あさぎり とおる)。」
「神崎さんが最後まで息子のように可愛がっていた子です。」
蒼真は目を見開く。
「じゃあ、怪盗ファントムは……。」
「神崎さんの教えを、一番近くで受け継いだ人だったんだ。」
⸻
手紙の続き
写真の裏には、小さく折りたたまれた紙が貼られていた。
美月がそっと開く。
そこには神崎蒼介の筆跡。
『透へ。』
『君はきっと、自分の進む道に迷う日が来る。』
『そんな時は、星を見上げなさい。』
『星は決して急がない。』
『それでも、必ず夜空を照らしている。』
『だから君も、誰かの夜を照らせる人になりなさい。』
美月は静かに目を閉じた。
「先生……。」
⸻
届かないはずの招待状
その日の夕方。
帝丹高校の写真部に、一通の封筒が届く。
差出人は書かれていない。
中には、美しい銀色のカード。
『今夜八時。』
『星見湖 桟橋にて。』
『最後の約束を。』
──怪盗ファントム
美月と蒼真は顔を見合わせる。
「行こう。」
「うん。」
⸻
星見湖
夜八時。
湖は風ひとつなく、鏡のように静かだった。
満天の星が水面に映り込み、世界が二つあるように見える。
桟橋の先には、一人の青年。
白いマントは身につけていない。
黒いコートだけを羽織り、夜空を見上げている。
「……ファントム?」
青年はゆっくり振り返る。
銀色の仮面を外したその顔は、優しく穏やかな表情だった。
「もう、その名前で呼ばれる必要はありません。」
「朝霧透です。」
美月は初めて見る素顔に、少し驚きながらも微笑んだ。
「やっと会えたね。」
透も照れくさそうに笑う。
「神崎先生なら、きっと怒っています。」
「『正体を明かすのが遅い』って。」
三人は思わず笑った。
⸻
新しい夢
透は湖を見つめながら話し始める。
「事件が終わったら決めていました。」
「怪盗は終わりにします。」
蒼真が尋ねる。
「これからは?」
透は空を見上げる。
「世界を旅します。」
「先生が撮れなかった景色を撮る。」
「そして、子どもたちに写真を教えたい。」
美月はうれしそうにうなずく。
「神崎さんと同じ夢だね。」
「はい。」
透は静かに笑った。
⸻
約束の写真
「最後に、一枚だけ。」
透は美月へカメラを渡す。
「撮ってください。」
美月は驚く。
「私が?」
「先生が言っていました。」
『一番大切な写真は、自分では撮れない。』
美月はカメラを構える。
桟橋の上。
星空を見上げる透。
その隣には蒼真。
そして三人の後ろには、湖いっぱいに映る星。
「いくよ。」
透と蒼真が笑う。
カシャッ。
シャッター音が静かな夜へ溶けていった。
⸻
ラストシーン
写真を確認した美月は、小さく息をのむ。
三人の後ろ。
誰もいないはずの桟橋の端に、一人の男性の姿がぼんやりと写っていた。
帽子をかぶり、カメラを首から下げた優しい笑顔の男性。
神崎蒼介にそっくりだった。
「……。」
透も写真を見つめる。
「先生。」
その瞬間、湖を渡る風が優しく吹いた。
まるで「よくやった」と語りかけるように。
三人は静かに夜空を見上げた。
満天の星が、どこまでも美しく輝いていた。
⸻
――第十一章 終――
次回・最終章「星影のファントム」
美月たちは、神崎蒼介から受け継いだ想いを未来へつないでいく。そして朝霧透は怪盗ファントムとして最後の”予告状”を残し、新たな人生へ歩き出す。星空の下で交わされた約束が、一枚の写真とともに永遠の思い出になる――
コメント
3件
もう……第十一章、読み終えました……! 美月が最後のフィルムを差し出す場面から、もう息が止まるかと思いました。暗室で浮かび上がった写真に写っていた少年——朝霧透くんがまさかファントムだったなんて。神崎先生の手紙の言葉、「誰かの夜を照らせる人になりなさい」って、もう……胸が熱くなりました。最後の一枚に写り込んだ神崎先生らしき姿には、涙が出そうに。星見湖の静けさと、優しい風の描写が、すべてを包み込んでくれているようでした。本当に美しいお話ですね。
#デジタルイラスト
る あ 。 @低浮
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る あ 。 @低浮
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#クロスオーバー
紫蘭
5,220