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千原城市役所の小会議室
まちづくり振興課の課長、主任の北野、タイトスカートのスーツ姿の長谷川倫が座っている。
北野「締め切り延長したのに、全然電話来ませんね」
倫「ご当地アイドルが務まるような若い女の子なら、東京行っちまうよ。この市はそのあたりの距離感が中途半端なんだよね」
課長「とは言え、他の自治体の前例というものに倣ってですな。北野君、この前声かけた山本さんとこのお嬢さんはどうなった?」
北野「山本さんご一家は引っ越されました。三日前に」
倫「あらら、どこへ?」
北野「千葉県柏市だそうです。お嬢さんの受験準備にあっちの方が便利だとかで」
倫「はあ? すぐ隣の市じゃないか。ずいぶん中途半端な距離の引っ越しだねえ」
北野「千葉県だと首都圏って事になりますからね。テレビのニュースでも一都三県ってひとくくりにしてくれますし」
倫「どいつもこいつも首都圏、首都圏って。利根川のこっち側か、向こう側か、それだけの違いだろうに!」
課長「うちの市も東京のベッドタウンだった時代もあるんですよ。ここはひとつ前例に倣ってですね」
北野のスマホのタイムアラームが鳴る。北野がスマホをズボンのポケットから取り出しアラームを止める。
北野「時間切れです。ご当地アイドルの企画はお流れですね」
職員「失礼します」
女性職員がドアを開け、3人に声をかける。
職員「あの、実は若い女性が4人、アルバイトの募集に応じたいと集まっていらっしゃいますが」
北野「ああ、広報のアルバイトの面接ですね。今行きます……え! 今何て言った!」
職員「は?! ええ、ですから女性が4人と」
北野「若い女性、そう言ったよね!」
職員「は、はい、そうですが」
北野「課長、先生。その人たちでいけるんじゃ?」
場面転換
一回り大きい別の会議室
机の片側に玲奈、瑠美、智花、沙羅が横に並んで座っている。
反対側に課長、北野、倫。
履歴書を見終わった課長が残念そうに言う。
課長「みなさん、25歳は超えてますか。アイドルというわけにはいかないようですね」
玲奈「はあ? あの、わたし事務のアルバイトだと思ってたんですが」
沙羅「年食ってて悪かったな。今さらご当地アイドルなんてこっちでお断りだ」
瑠美「だいたい今頃になって新しくご当地アイドルってのがずれてんだよ」
智花「あたしも子育ての合間の仕事でないと」
北野「ああ、すいません、失礼な事言ってしまって。実は駅前の商店街に市の特産品の販売店を開く事になって、そこの店員兼まちづくり広報の仕事という話だったんです」
倫「そりゃ今の時代、この人たちなら若いって言えるけどねえ。さすがに今からアイドルデビューは無理があるねえ」
課長「困ったな。ご当地戦隊の件も話流れそうだし。何かいいアイディアありませんか、先生」
倫「そう言われてもねえ」
玲奈「あの、そちらの方、大学の先生か何かなんですか。さっきからお二人とも先生って呼んでますけど」
倫「ああ、あたしは一応弁護士だからね」
智花「その先生ですか。でもどうして市役所の仕事に?」
倫「弁護士登録はしてるけど、事務所は持ってないんだよ。頼まれた時だけ法律顧問みたいな事してるだけ。まあ、弁護士の方が副業だね。本業は今そこの北野が言った特産品ショップの店主さ。あたしの土産物店を市役所が特産品販売拠点にしようって計画」
玲奈「あの」
北野「はい、何かご質問ですか?」
玲奈「わたし体力には自信あるんで、ご当地戦隊の方じゃダメですか?」
課長「確かに戦隊のメンバーに女性が一人混じっている事は多いですね。ですが、他の4人が見つからないという話でして」
玲奈「だから、ここにいる女性だけでご当地戦隊結成したらいいんじゃないかと思うんですけど」
北野と倫、顔を見合わせる。
北野「そうか! ご当地戦隊が男性でなきゃいけないという事はない」
課長「いや、君、そんな前例はあるのかね?」
北野「市長からは、今までにない試みをって言われてるじゃないですか」
課長「いや、だから、その今までにない試みの、前例に倣わないとだね」
倫モノローグ
「前例が無いから、今までにない試みなんだろうが! この小役人が!」
沙羅「それなら顔隠れるから、いいかもね。それに女だけの戦士チームなら、昔そんなアニメあったじゃない。セーラー服美少女ナンチャラってやつ」
瑠美「あたしも顔出しはNGだけど、それなら面白そうだな」
課長「そんな前例があるんですか?」
智花「確かに女だけの戦隊みたいなもんでしたよね。あのアニメ全国的なヒットでしたもんね」
課長「全国的な前例なんですか!」
倫「確か、外国でも大ヒットしたんじゃなかった?」
課長「こ、国際的な前例なんですか? 北野君! すぐにこの話、検討してください」
北野は内心呆れかえっている。
北野「承知しました。では、長谷川先生もメンバーに入ってもらえませんか?」
倫「はあ? あたしゃもう35だよ。この人たちが年行き過ぎてるなら、あたしは論外だろ」
課長「いえ、首から下なら先生もまだ充分……」
倫「セクハラで訴えるぞ!」
北野「戦隊だと後でフィギュアとか売り出す時に、意匠権とか肖像権とか、法律的な対応が必要になる可能性があるんです。先生が現場にいると、何かと都合がいいんですよ。弁護士としての飯のタネにもなるでしょ?」
倫「飯のタネと言われちゃね。しょうがない、やってやるよ」
玲奈「でも、戦隊作るなら衣装とかどうするんですか? よそのご当地戦隊でもかなり凝ってますよね」
課長「ああ、それがありました。プロに注文するような予算は……」
北野「芸大があるじゃないですか。あそこに協力を依頼しましょう。こういう時のために誘致したんじゃないですか」
玲奈「うちの市に大学なんてありました?」
北野「あなたは十年以上東京に行っていたからご存じないんですね。東京に本校のある芸術大学のサテライトキャンパスを誘致したんです。この十年でこっちのキャンパスもすごく大きくなってますよ」
倫「なるほど、芸大の学生の手を借りられたら、レベルの高いもんが出来そうだね」
北野「よし、そっちの交渉は僕がやります。みなさん、三日後の午後2時、またここに集まっていただけますか?」